会話ログ 2043/10/11

2043/10/19、広島県呉市の下蒲刈島山奥で発見された民家のリビングにおいて、腐敗した脳の一部が発見されました。

以下は、そこに住んでいたと思われる10代前半の女性と、その日男性のもとへ訪れた20代前半と思われる男性との会話を映した監視カメラの音声データの転写です。



転写

シーン:18(2043/10/11)

場所:住宅用ガレージ内


(女性は腕と足をテープ類で縛られており、口には口枷がはめられている状態で床に仰向けとなっている。彼女の左肩約1mほどのところで、椅子に座って本を読んでいる男性がいる。この配置はシーン16以降変化なし。また、本の題名は不明。)


0:00- (画角の左端には小机があり、その上に置かれたラジオから曲が流れている。曲はモーツアルト:『序曲:フィガロの結婚』の途中であると推測される。)


1:03- (序曲が終わる。それと同時に男性が本を閉じ、ラジオを切る。)


1:12- 男性:「日本人事倫理公社Nippon Personal Ethics Public Corporation(略称NPE公社、またはNペック)、懐かしい名前だとは思わない?」


1:17- 1:45 (無言)


1:45- 男性「日の丸人倫派、うん。懐かしい。君は知ってるのかな。世間で言う改革派の人間が数年前は大暴れしていてね。国会に突撃しようとした者もいれば、ハイジャックして最高裁に飛行機をぶつけに行く者だっていたんだ。

だが正直、そのくらいのデモなら全然良かったのだがね。」


2:03- (男性が内ポケットから紙切れを一枚取り出して、読み上げる素振りを見せる)


2:10- 「鳴けよ鳴けよと鵼鳥の、うらなくのどえ乙女草。この文句が一体何を表してるか知っているかい?」


2:20- (女性につけられていた口枷が外される。2:15以降、女性に極度の不安からなる震えが見られる。さらに呼吸が荒くなる。)


2:21- 男性「僕は呼吸の強さで君の言いたいことがわかるほど賢くないんだ。僕の質問に言葉で答えてくれないかな。」


2:30- 女性「知らない!私は何も知らない!私だって別に悪気があってやったわけじゃなかったの!あなたが先生って言ってた人に、あの人に私は監禁されてただけ!外に出たかっただけで———」


2:51- (一発の銃声が鳴る。銃弾は女性の左足大腿前面左寄りに命中したと思われる。女性の叫び声が続く。)


3:11- 男性「すまない。少し口出ししてしまった。僕も悪気はなかったんだすまないね。続けておくれ。」


3:23- (女性は蹲りながら叫んでいる。)


3:23-10:43まで女性が叫び続ける。その間、男性は再度本を開いて読み始める。)


3:24-10:43 〈不必要なデータのため省略〉


10:44- (女性の叫び声が止む。ただし体勢は変わらない。男性が本を閉じた。)


10:44- 男性「それで、続けて?外に出るとかなんとかだったと思うのだが、正しいかい?」


10:53- (女性は言葉が詰まって声を発せていない。呼吸が荒くなる。)


11:30- 男性「ああー、もしやもう話は終わっていたのかい?最近の若者は略語というものを多用すると聞くからね。年寄りにもわかりやすく話して欲しいものだよ。」


11:47- 女性「あなたは何が目的なの?何を私に聞いてるの!」


11:54- 男性「わだかまりを解消しながら、僕らは親友になろうと思ったのだが———」


11:59-12-13 (無言)


12:14- 男性「うん。素直に言うとしようかな。僕の目的は、Nペックの再稼働による人事倫理の統一だね。そして僕が君に聞いていることだが、先も言った通りだ。日本人事倫理公社は知ってるかい?先の文句を知ってるかい?」


12:56- 女性「・・・(しばしの沈黙)日本人事倫理公社は、よく、知ってる。後者は知らない、です。」


13:04- (男性は聞き取れない声量で囁き、俯いて悩むような仕草を行う。)


13:14- 男性「そうかい」


13:15- (再度銃声が鳴る。銃弾は女性の右前頭部を貫いた。女性は銃声以降、その場に倒れたままシーン21まで『とどまっていた』。男性は携帯電話で何者かと1分48秒の電話の後、ガレージ内の白色ワゴンに乗って民家を出た。)




補遺: 2043/10/19、捜査員が民家内を確認中、エンバーミングが施されたペルシャ猫の死体が首を吊らされた状態でリビングにて発見されました。また捜査員によると、人工血液又は血液はガレージから検出されず、浴槽の排水溝内にのみ検出されました。当時、浴槽には風呂蓋が敷かれており、浴槽内は大量の血で満たされていたもよう。

現在、この一連の事件に関する情報は強く規制されています。

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