あんな恋を貫いてきたのなら
最初に感じたのは寒さだった。
例えばそう、動物が冬眠するのもやむなしと思ってしまうような寒さ。
例えばそう、布団から抜け出せなくなって何も出来なくなるような寒さ。
それは俺という命が無くなった事を告げる寒さだった。
「認め‥‥‥ない。ファナエルを‥‥‥助けるん‥‥‥だ」
俺の口は自然と、その言葉を繰り返し繰り返し呟いていた。
何となく分かる。
俺はもう思考が出来なくなっているんだ。
昔の思い出を逡巡するだけの永遠の走馬灯だけが脳を走る。
もう、俺が未来を歩むことは無い。
「牛草‥‥‥私の為に、死んで」
「見つけたで‥‥‥牛草」
ピタリと、何かが俺の首を掴んだ。
「貴方に罪を‥‥‥貴方に罪を」
そしてその次に、誰かが俺の体を掴んだ。
あぁ‥‥‥俺のせいで死んだ奴らが俺を冥界の奥へと引きずり下ろしているんだな。
「認め‥‥‥ない。ファナエルを‥‥‥助けるん‥‥‥だ」
もう、なんでこんなに後悔しているのかすら分からなくなってきた。
俺はなんで、こんなに涙を流しているのだろう。
どうして心がこんなに苦しいのだろう。
俺は死ぬ直前、一体何を考えていたのだろうか?
「牛草秋良!!!」
その時、この場所に似つかわしくないほどうるさい声が響いた。
「確かに貴方は大罪人なのです。私達の忠告を無視して、結果沢山の犠牲を出した!!」
うっすらと、暗かった視界が開ける。
一つの光が、俺に向かって走ってくる。
「でも、貴方にはそんな罪を犯してまで突き通したい愛があった!!そしてその愛を貫き通した!!その愛の責任を取らずに死ぬなんて許されないのです!!」
そうだー
俺は大好きな人を守りたくて、ずっと戦っていたんだ。
「貴方が死んだことを知ったら、彼女も同じように暴走するかもしれない。そうでなくても現状の大惨事は私達で抑えきれないのです!!」
思考がクリアになっていく。
俺の視界には、目の前で迫る光が何なのか、はっきりと写っていた。
「貴方が今まで貫いてきた愛をちゃんと最後まで貫き通すなら!!私の手を!!」
俺は、差し伸べられたその手をー
小さなシスターの手を握った。
◇
「お前ら‥‥‥何で」
ゆっくりと目を開ける。
そこには俺の体を囲うシンガン達の姿があった。
「ただで貴方を救ったわけでは無いのです。現状暴れまわっているロキと、今後どんな動きを見せるか分からないファナエルを止めるには貴方が必要だった、それだけなのです」
「そうか」
氷雨の言葉を聞いて、フッと肩の力が抜けた。
ロキが擬態してるわけじゃなさそうだ。
地面に横たわる俺の胸の上には、琴音の手が添えられている。
「氷雨が冥界から引き上げてくれた君の魂をクロノの力で無理やりその体に縛り付けている状態だ。長くは持たないだろう」
「俺はどうすれば良い。何か考えてあるんだろ?」
「私達は警察の情報源からロキの現在位置を把握している。残り数分もすればファナエルとも接触する」
「ファナエルとロキが接触したのが分かり次第、俺がお前をそこに連れて行く」
琴音の説明に割り込んできたのは
「俺はるるとお前を連れて瞬間移動する。るるの魔眼があればロキに一瞬の隙を作れる、絶対に無駄にするなよ」
「ああ、無駄になんかしないさ」
「……言っておくぞ。お前がロキを仕留めしだい俺達で弱ったお前を捕まえる。見逃しはしねぇ」
「そうだろうな。でも今はそれでいい。ファナエルを助けられるなら、なんでも良い」
グラリと揺れる体を支えて起き上がった。
「皆、連絡が入った。牛草ファナエルとロキがすでに接触を開始しているらしい」
そう声を上げたのはるるだった。
ボロボロになっている魔眼に見たことの無い色をした目薬を2,3摘さしてコンデションを整えている。
「準備は万全みたいだな」
そう言って俺達は顔を見合わせた。
体の調子は自分で分かる。
いつ死んでもおかしくないぐらいボロボロだ。
でも、体は万全の調子で動いてくれる。
あとは俺が気力を……いや、魂をいつまで維持できるかの勝負なんだろう。
「それじゃ、行こう」
せっかく拾えたこの命、絶対に無駄にはしない。
今度こそ、ファナエルを助ける。
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