第6話 お風呂も一緒なのです

 新婚さんでも、そんなこと言わないような事を普通に言って来たぞ。

 お風呂と、ルナと……後半の選択肢は完全に駄目なやつだ。



「お風呂と言っても、一緒に入るとか言わないよな?」

「安心して下さい。へ、変なことしません。ルナがお背中流すのです」

「今、ちょっと怪しかったぞ。何か企んでないか?」

「そ、そんなことはありません」



 うーん、背中を流すと言うのは本当そうだけど、何かしようと企んでいるかもしれないな。

 


「じゃあ、風呂に入るけど、本当に一緒に入るのか? 裸になるんだぞ」

「何も問題ないのです」



 俺が脱衣所まで行っても、何のためらいもなく腕にしがみついたままだった。



「そんなに腕にしがみついたら、脱げないんだが……」

「ルナが脱がせてあげるのです」

「そんなサービス要りません。お前も脱ぐんだよな?」

「脱がせてくれますか?」

「うっ、自分でやれ! それとバスタオルを身体に巻けよ。一緒に入る条件だ」

「ルナの裸には興味ないのですか?」

「こらー!!」



 駄目だ。俺の方が年上なのに完全にペースで負けている。今まで女の子と付き合ったことが無いからな。

 じゃあ、この子は経験があるということだよな? しかも、その相手は俺という設定だけど……。



「服は自分で脱ぐし、腕に抱き着くのはやめろ。じゃないと一緒に入らないぞ」

「んーー、分かりました。でも、離れないと約束して欲しいのです」

「分かった約束するから」



 約束したら素直に放してくれたぞ。俺との約束は信頼しているのかな?

 


「ルナも一緒に脱ぐのです」

「こらー!! 俺の後ろでやってくれ!」



 経験が無い俺にとって、刺激が強過ぎる。しかも、この状況で俺も脱がないといけないのは、なんか緊張するぞ。

 上はまだいいが……。



「まだ着替えないのですか? ルナはもう脱ぎました」

「ひぃっ! い、いやーちょっと」



 ということは、今振り返ると全裸ということか? いかんいかん、しっかりしろ!

 そうだ! タオルを巻いて脱ごう。



「よし、これでいい。もうタオルを巻いたか?」

「はい、巻きました」

「もう振り向いても大丈夫だな?」

「ルナはいつでも構わないのです」



 これは……エロい。バスタオル巻いても、俺には刺激が強過ぎる。あまり見ないようにしなと……ん? あいつの腕に何か付いているけど腕時計? しかも光ってる。



「なんだ? それは腕時計か?」

「こ、これは秘密なのです」

「なんかオレンジ色に光っているけど」

「そ、そんな……ルナにはもう時間が……」

「え? なに? 時間? やっぱり時計みたいなものか?」

「な、何も、あ、ありません。早く入りましょう!」

「こら! 背中を押すな!」



 半ば強引に浴室に入ってしまったが、どうしようか?



「ルナが背中を流すのです」

「あ、ああ、そうだったな」

「緊張しなくても大丈夫なのです」

「し、してないよ」



 くそー、落ち着け俺。



「行きますよ」

「ああ」

「うひゃーー! お、おい、直に触るな! タオルを使え!」

「タオルですか?」

「そう、こうやってボディソープを付けて、やるんだよ」

「分かりました。なんか不思議な感じなのです」



 今のは焦った。まさか、そう来るとは思わなかった。



「ゴシゴシ、なんか凄い泡立ちます。気持ちいいですか?」

「ああ」

「どこか、痒いところないですか?」

「うーん、そうだな……うーん、特に……」

「え? 何て言いましたか?」

「こらー!! 前のめりで話しかけるな! お前の……アレが当たるだろ」



 いや、もう柔らかいものが当たったんだけどね。これは無心にならないと俺の方がやばいことになるぞ。



「ルナのアレって何ですか?」

「それは……秘密だ」

「教えて欲しいでのです!」

「だから、前のめりで来るな!」



 無自覚なのか確信犯なのか分からないが、やめてくれー。



「じゃあ、今度はルナの背中を流して欲しいのです」

「いや、バスタオル巻いているから無理だろ」

「外します」

「こらー! バスタオルを取るのは約束違反だぞ」

「んーー、分かったのです。前はちゃんと隠します」

「本当だな?」

「本当なのです」

「じゃあ、場所入れ替わるぞ」



 俺は椅子から立ち上がり、振り返ろうとした瞬間!


 バサッ



「あ、ルナのバスタオルが落ちてしまいました」

「おぅ! 危ない!! ふぅー、もう少しで見てしまうとこだった」


「ん-ー、惜しかったのです」

「こら、こら、こら、こらー!! わざとか!?」

「わざとではありません。事故なのです」

「嘘つきめ! 『惜しかった』って言っていたぞ! 色時掛けか?」

「そうなのです」



 意外にあっさり認めたぞ。



「別にそこまでしなくてもいいだろ?」

「駄目なのです。ルナには時間……」

「時間? もう帰ってくれるのか?」

「帰りたくないです……」



 また、急にしょんぼりしたぞ。まだ何か秘密でもあるのか?

 しかし、こいつがしょんぼりすると、何故か俺が落ち着かなくなるというか……

 なんか苦しくなるんだよなぁ。くそ―、騙されるなー、俺。



「ほら、早く背中を向けろよ。流してやるよ」

「あっ、ありがとうございます」

「ちゃんと前を隠せよ」

「はい。やっぱり、優しいのです」

「背中を流しているだけだ」



 まぁ、こいつが特別とかでなく、単に俺が女の子に弱いだけかもしれない。きっと、そうだ。


 



 






 














 

  


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る