第7話 もう時間がない!!

 風呂も上がって、今二人でソファーで休んでいるところだが、相変わらず腕を掴んだままだ。



「もうこんな時間だけど、家に帰らなくても大丈夫なのか?」

「ルナは……ここしかないのです」

「まさか、家出してきたとかじゃないだろうな?」

「違います! でも、今晩は泊めて欲しいのです」



 夜中に追い出すのも可哀そうだし、泊めてもいいけど……。



「分かった。泊まっていいよ」

「本当ですか!?」

「でも、明日になったら帰れよ」

「それは……待って下さい」

「待つ?」

「い、いいえ、何でも無いのです……」



 またしょんぼりしているぞ。けど、今回はさらに、何かに焦っている気もするが……。



「俺は、寝る前に少し勉強するが、お前はどうする?」

「ルナも一緒にいたいです」

「そう言うと思った」



その後、俺は寝るまで勉強をした。その間は一言も話さなかったが、寝ているわけではなかった。俺には何かを考えているように思えた。



「そろそろ寝るけど……」

「ルナも一緒に寝ます」

「じゃあ、俺ソファーで寝るわ」

「ルナもソファーで寝ます」



 まぁ、予想はしていたけど。



「変なことするなよ」

「変なことはもうしませんから、ルナと一緒にいて下さい」

「そうか……」



 なんかしおらしくなると、調子狂うなぁ。一体どうしたんだろう?

 時間がどうのこうの言っていたけど、帰る時間でもあるのか? 

 

 まぁ、明日帰ってくれるのは助かるけど……なんかそう考えると気持ちが落ち着かない……。

 

 くそ―、もう考えるのは止めだ。寝よう。



「俺はもう寝るぞ」

「はい、おやすみなさい」

「おお、おやすみ」





 さて、ここからは俺が見た夢の話だが、その内容があいつの妄想を聞かされたせいか、本当にそういう設定の夢だった。

 しかし、夢というものはどんなに現実離れしていても、夢であることに気付かないうえに、起きれば大半の事を忘れてしまうものだ。




「お帰りなさい」

「ただいま……」


「その様子だと、上手く行きませんでしたか……」

「ごめん、ルナ……」


「あなたが謝ることはないのです。ルナは一緒に行けるだけで幸せなのです」

「でも……条件が厳し過ぎる……。きっとルナに酷な目に遭わせてしまう」


「大丈夫なのです。ルナは強いからへこたれないのです」

「嘘をつくなよ……そんなに……強くないだろ……」


「気合なのです。心配しなくて大丈夫です。せっかく、叶えたい願いをルナの為に変えてくれたのですから」

「それは別に気にしなくていい」


「それだけではありません。願いの変更の為に、新たに厳しい神命を受けて、ボロボロになってあなたは頑張ってくれたのです。今度はルナが頑張る番なのです」

「ルナ……」


「だから、平気なのです。落ち込まないで欲しいのです」

「うん……。向こうの俺はルナの記憶どころか、ここの全ての記憶が無くなるんだ。そこにお前が急に現れたら、俺はきっと……」


「はい、分かっています」

「俺は……きっと、酷いことを言うと思うんだ。お前を傷つけるはずだ。なのに、今の俺には、何も出来ない……」


「大丈夫なのです。どんなことを言われても、ルナは笑顔でいます」

「無理だよ……。急に現れたお前を、不審に思って、俺は追い出そうとするはずだ。しかも、そんな状況で、あの条件は無理があるんだよ。だから、やっぱり……この話は……」


「心配しないで下さい! あなたに何を言われても、絶対にルナは離れません!

! ずっとしがみついています! 約束するのです!」

「ふふふ、何だよそれ」


「んんー、ルナは本気なのです!」

「分かってるよ。そういうところ、可愛いなっと思っただけだよ」


「ル、ルナは……その、えへへへへ」

「分かりやすい。でも、俺は……ルナのそんなところが好きなんだ……」


「えへへ、何か言いました?」

「いや、何も。それより、明日俺は神殿に行って、元の世界に帰るけど、大丈夫か?」


「はい、少し経ったらルナも追いかけます。待っていて欲しいのです」

「うん、待っている。突き放そうとするかもしれないけど、待っているよ」


「安心して下さい。ルナは絶対に離れませんから」

「うーん! 身体よ! 記憶が無くなっても、ルナの事を忘れるなよ!」


「ど、どうしたんですか?」

「身体に覚えさせているんだよ」


「では、ルナも手伝うのです」

「いや、ちょっと待って。その前に渡したい物がある」


「何ですか?」

「これだよ。婚約指輪。ルナが持っておいて欲しいんだよ。記憶を失くした俺は、大事にはしないと思うんだ」


「まだ、外さないで欲しいのです」

「どうして?」


「外す時も一緒なのです。ルナも外します」

「うん、分かった」


「……」

「……」


「安心して欲しいのです。ルナが大事に持っています」

「また、指輪をはめられる日が来るといいな」


「大丈夫なのです。いつかきっと、その時は来るのです」

「ああ、いつかきっと……」


「ルナは頑張ります。記憶を失くしても、またルナがグイグイいくので、また好きになってくれるのです」

「確かにお前のグイグイにはやられたかもしれない」


「だから、心配無用なのです。今は、ルナの全てを身体に焼き付けて下さい」

「ルナ……」


「……」

「……」










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