いつか何処かで
橘しずる
第1話
ベッドで猫を抱きしめて、愚痴を話す
このところ、ままならない事ばかりで、疲れ気味……
猫はパタパタと長い尻尾を、私のお腹に当てている
私は心細さを感じながら、モヤモヤ感を猫に語る
春の陽射しが部屋の中に降り注ぐ……
「なるようにしかならないか」
ポツリと呟き、溜息を一つ
「⚪⚪さん、居ますか?」
玄関から、呼鈴の音の後に声がする
「誰かな?」
8時のニュースが、世界情勢の事を報じている
私はアパートメントに一人暮らしをしている……誰もが朝のルーティンをこなしている時間だ
「朝から誰かな?」
玄関に向かう
「どなたですか?」
チェーンロックをして、ドアを開けた
誰もいない……
ドアを閉め、出勤の支度を始めた
「さぁ、行こうか」
ヒールを履いて、ドアを開けようとした時に
「⚪⚪さん居ますか?」
と声がする
「どちら様ですか?」
チェーンロック越しに外を見た
「誰もいない……なんだろう?」
私は、チェーンロックを外し、戸締まりをして、バス停に向かう……朝から変な事が起こるな
家路を急いでいると、自宅近くに黒い影を見つけた
ちょうど自分の部屋の前をウロウロとしている
怖いけど……声をかけない方がいいかな?それとも、コンビニまで行って……私は迷ってしまった
黒い影はまごまごしている私に、気がついたらしく向かってきた
ゆらゆらと揺れながら近づいて来る黒い影……
私はコンビニに向かって、走り出した。
大通り沿いにあるコンビニに、息を切らせながら入った
「ついて来てないみたい……あぁ、驚いた」
買い忘れた物を買って、家路についた
「まだ、居るかな……」
自宅近くをキョロキョロを見廻して、帰宅する。
荷物をおろし、一息つく……
バッグの中のスマホが鳴る
「もしもし……」
「こんばんは、お久しぶりです。Mです」
「Mさん……?えーと……」
Mは私から恋人を略奪した女性……今更、何か用事があるのか?
「何か用事ですか?」
冷たく言い放つ
「あの……そのセツは……ごめんなさい。Sが大病を患って、入院しているの。彼が貴女に会いたいと言ってるの」
オドオドと話をするM
「そう……お気の毒に……誰から、私の連絡先を聞いたの?」
Mは同僚で親友のAから、聞き出したと答えた
「Sさんとは、もう関係ないわ。それに会ったから……どうにかなるわけないでしょう」
「私が……Sに嘘をついていた事がバレて……その……お願いします……会ってください。彼、貴女に謝りたいと……」
Mは弱々しく話す
「お芝居は止めたら?誰が信じるの?とにかく、二度と連絡をしないでください!」
私は通話を切り、そそくさとブロックをした
今朝の事……つい先程の事……「まさか……S?」
私は背筋に寒さを感じ、身震いをした
翌日、Aに会い「Mに連絡先を教えた?」と聞いた
Aは申し訳なさそうに認めた
「Sさん、Mと離婚しているみたいよ。でも、離婚してから、心不全かな?倒れて入院しているんだって」
「世話をMさんがしているというわけね」
Aは頷いた
それから、帰宅する時になると黒い影が、自宅の前をうろつくようになった
S……まだ、来ている
私は黒い影を横切るように、自宅に戻る
ゆらゆらとしながら、その場に立つ影は私が横切ると消えた
「ご無沙汰をしています……」
私はSの実家に連絡をし、入院している病院を聞いた
「久しぶりですね……息子の事、誰から?」
「Mさんです」
「……そう……」
電話口から、怒りのこもった母親の声がする
「貴女には、申し訳ない事をしたわ……息子に会ってくれるの?」
「はい……」
私はSに付きまとわれて、決着をつけたかった
病室には、かつてのMの面影はない姿があった
ベッドには管に繋がれたSの姿がある
時折、「M!お前のせいだ!お前が彼女との幸せを壊したんだ」と言わんばかりに体をビクビクさせる
「ごめんなさい(_ _;)ごめんなさい(_ _;)」とSの体を抑えるM……Sの両親にも、自身の両親にも見放されている
私はノックができず、立ち尽くす
ふと、Mが顔をあげた……「来てくれたんですね」彼女に安堵の表情が見られる
私はMに会釈をして、Sの枕元に歩みよる
「貴方はどこまで我儘な男なの!貴方がMさんの誘惑に溺れた結果でしょう!」
語彙が強く、低い声で語りかける
「貴方はこのままでいいの?周りの人を苦しめていいの?
貴方はMさんと償わないといけないでしょう!両家の両親に謝罪しないといけないでしょう!」
知らずに涙が頬をつたう
「S、私の人生に貴方は必要ないの……どんな姿で現れても、私は貴方を許さない!既に、慰謝料を払ってもらって関係は終わりました。Mさんと人生を歩いてください……それが私に対する償いよ」
私はMに会釈をし、病室を後にする
Sの見舞いに行ってから、黒い影は現れなくなった
Aの話では、見舞いをした後に意識が戻ったらしい
MさんはSが意識を戻した後、両家の両親の家にゆき、婚約破棄の事を含め…謝罪をした。その足で知らない土地で暮らしているらしい…と聞いた
いつか何処かで 橘しずる @yasuyoida
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