第9話 時田邸にて
ユメに護衛されながら、なんとか天見の追っ手をふりきり、僕は野党の党首である時田幻蔵の館にたどり着いた。京都のはずれにあるその家は落ち着いた日本家屋で庭園がある。敷地の中には建物がいくつか立ち並ぶ。豪邸と言って良いだろう。
僕の到着を館の主の時田幻蔵はあたたかく出迎えてくれた。
「ユメさん、任務完了ありがとう。あとで報酬を渡すよ」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。では、わたくしは失礼いたしますね」
時田と思われる人物は初老の白髪交じりの外見をしていた。いまどき珍しいと言えるだろう。現代では、人は死ぬまで若い姿を保ち続けることが可能なのだから……。
「あなたがドクター藤洞ですか……長旅で疲れたでしょう。離れにどうぞ……」
そういって、時田は僕を別棟に案内してくれた。その建物は、本館と比べるとこじんまりとしていたが、立派な書斎も寝室もある、それなりに立派な日本家屋だ。
「しばらく、ごゆるりとされてください……では、私は政務がありますので失礼」
そう言って、時田は僕の前から去っていった。
「つかれたな……。しかし、立派な豪邸だ……」
すばらしい待遇だが、瑞島とも、黒糖先生とも、まだ会えていたない。やはり、彼女らの処遇をネタに僕をゆすり、嘘の証言をさせて天見総理を失脚させる……という筋書きなのだろう。考えにふけっていると突然ふすまが開く。
「よぉ、藤洞。なに難しいかおしてんだよ!」
「真唯……本当に無事だったのか?」
「うん、黒糖先生もいるよ。あとから来るってさ」
「黒糖先生も大丈夫なんだな?」
「そうだよ? 心配してたよね……やっぱり」
「僕はどうやら天見が工場を止めた張本人だという嘘の証言をするように求められていて、だが、いくら天見が高圧的な権力者であっても、国を思う気持ちは本物だと思う……」
「おまえは、曲がったことがきらいだったよな。寛之」
「真唯なら、どうする」
「それ本当に嘘なのか?」
「どういうことだよ……」
「実際に工場は止まっているわけだろ?」
「しかし、工場が止まったのは百年も昔のことだ……いまさらそんな責任を問われるような立場に天見がいるとは思えないのだが……」
「与党の政治家は美少女が多いだろ……寛之」
「ああ、それがどうした?」
「与党の中で天見に味方しているのも、その美少女たちだ……」
「動画SNS出身の美少女政治家は天見派……ってことか」
「そうだよ……そして、そういう政治家が過半数を占めるようになったのが……」
「工場が止まった頃と確かに一致すると言えないこともないが……」
「ああ、でも前総理だけは強権を持って対抗できる唯一の人間だった」
天見派に最後まで抵抗したのが前総理だったという。だが……
「前総理は天見派の攻勢に結局は耐えきれず四年前に辞任しただろ?」
そして総理大臣に天見倫子が就任した……。
「寛之……私が思うに、天見倫子個人はともかく、天見派が権力を持ち始めたのは百年前なんだよ……だから、全く無関係とはいえないと思う」
「しかし……動機がないだろう。なぜ、工場を止める必要がある?」
「それは……たしかにそうだね」
考えるんだ。なぜ、工場を止めたのか……。工場を止めたことでどんなメリットが天見たちにあるのか?
「ロストテクノロジーであるHの研究をしたかったのかな?」
「なぜ? どういう理由で? 確かに考古学的には面白い題材だが、子供を生産する工場の技術のほうがよほど重要に決まっている」
「うーん」
そうやって僕らがああでもないこうでもないと悩んでいると、また部屋のふすまが開いて、黒糖先生が入ってきた。
「久しぶり……のような気がしてしまうね。藤洞くん」
「黒糖先生……よく無事で……」
「ねえ、藤洞くん提案があるのだけど……」
「なんでしょうか?」
「四国……工場がある場所を見に行ってくれないかしら?」
「危険ですよ……あまりに無謀です」
「……この国の実情を正確に把握したいのなら藤洞くんは見ないといけないと思う」
「しかし……瀬戸内海にはたくさんの野生の自律型戦闘ドローンが飛んでいますよ、きっと、東京と京都の間ほど安全な確率した航路もないし……」
四国に行って工場を直接みる……。それが本当にできるのであれば、たしかに事態の進展が大きく進みそうだ。だが、それには協力な護衛が必要だった。護衛をしてくれそうな人物はユメしかいないが……。彼女が僕を無料で護衛してくれるだろうか……。
ロストテクノロジー「H」 広田こお @hirota_koo
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