第8話 ユメとの逃避行

「なあ、どういうことなんだ? なぜお前とヤらないといけない?」


 僕は第一大学から逃げることに成功し、余裕ができたのでユメに訊いてみた。

「え? 何言っているのです?」

「だから、総理とやってたことを君とヤラないといけないんだろ?」

「そうです。これからあなたは私にさらわれて尋問されるのですわ」


 なんだ……そういうことか、てっきり。


「あ、勘違いしてたんですね? ヤですね願望丸出しです」

「い、いや」


 ユメはにっこりと笑うと。


「魅力的な私がわるいんですね。ごめんなさい」

 と謝った。


「というか君は十二才ぐらいにみえるけど、まさか子供?」

「んなわけないでしょ! 外見だけ若作りなだけです」


 ちょっとまて……こんなに若作りするなって維持費にいくらかかるんだ……。


「わたし、こう見えてお金持ちなんです」

「仕事は何しているの?」

「それはボディーガードとかですかね……いまもそうしてます」

「君は強そうに見えないけど……」

「外見で判断するのはいけませんわ。体はごてごてに違法改造していますから!」

「違法改造?」

「ええ、そもそも十二の外見が違法ですし、筋力も石を砕く程度にはありますよ?」


 ……なんてこった。


「なぜ、そんなことを……ふつうに筋肉ムキムキなら安く済むだろうに……」

「私の美的感覚がそれをゆるしませんの……それに」

「それに?」

「こんな少女が護衛だとは思わないので、不意打ちでフルボッコにできますわ」

「なるほど……」

「で、これからどこにいくの?」

「わたくしの雇い主の館までご案内しますわ」

「わかった……」

「東京から距離があります。京都にありますので……野党の党首の時田幻蔵さまですわ」


 その名前は聞いたことがあった。天見の政敵で、開国党という党のナンバーワン。


「時田さまは、あなたにとってもとっても興味がございますの」

「なぜでしょう」

「率直に申しますね。天見政権を転覆させたいのです……」

「私にそんな力はありませんよ……」


 僕はただの研究者だから、権力争いには無力なはず。


「子供百年間生まれていないです……誰のせいだと想いますか?」

「さあ、壊れたんじゃないですかね。単純に」

「時田さまはその責任を天見総理に押し付けるつもりです」

「しかし、それは無理でしょう……どこに証拠が」

「証拠は捏造します。あなたが証言台にたてば良いのです」

「それは……そんなこと私はしませんよ?」


 僕は天見総理が好きなわけではない。だが、嘘の証言をするほど腐った性根の人間になりたくないだけだった。


「嘘も方便ですわ」

「いや……そういう嘘はちがうでしょう」

「じゃあ、なんです? このまま子供が生まれなくて良いと博士はお考えなの?」

「だから、それがなんで天見総理を失脚させる理由になるんですか」

「あ……いいです。いますぐ説得できないのはわかっていました」

「あきらめてください。私はそういうことはしません」


 ユメはちょっと間を置くと、


「……ふふふ。そう言っていられるのも今のうちだけですよ」

「どういうことでしょうか」

「あなたの弱み、にぎっています。黒糖先生、お好きなんでしょ?」

「それは、どういうことでしょう」

「無理強いはいたしません。でも、きっとあなたは、私の言う通りにしてくれるはず」


 カワイらしい外見のユメはそう言って僕を脅した。脅しているのだろう。可愛すぎて脅しているという印象が全くわかないのだが。


「黒糖先生を人質にとるとは、とんだ卑怯者ですね……」

「あら、人質なんて……違いますわ。お客さんです」

「私が従わなかったら黒糖先生はどうなりますか?」

「とても悲しまれると想いますよ」

「なぜです」

「黒糖先生は真相をあなたに知ってもらって、その上であなたから愛のこもったHをしてほしいと考えていると想いますよ……」


 真相……どういうことだろうか?


「どういう真相があるのでしょうか?」

「ふふ、答えは自分で探してください。苦労するでしょうが、真実の愛をつかむためなのだから、がんばってね。お兄さん」

「……まあ、いいです。とりあえず第一大学に戻るわけにもいかない」

「わかっていただけて良かったですわ」


 とにかく天見を失脚させるために僕は嘘の証言をすることになるらしい。でも、どんな嘘をつけばいいというのか、一応聞いてみるか。やるつもりはないが……。


「それで、どういう嘘の証言をすればいいのか、教えてくれる?」

「やっと前向きになってくれました。ユメはうれしいです」

「彼女が失脚するには証言だけじゃなくて証拠もいるのでは……」


「……正確にいうとですね。もう、あきあきなんですよ……政治は」

「あきあき?」

「天見さんも好きで総理やっているわけじゃないのです」

「そうなの?」

「彼女も機会があれば、総理やめたいと思っているはずです。だから人助けです」

「天見さんと時田さんは敵同士なんだよね?」

「うーん。そうですね。考えは違うとは想いますが、妥協はできるはずです」

「無理でしょ」

「みんな子供が生まれる社会に戻って欲しいと思っていることは同じです……」

「時田党首は総理になるつもりなの?」

「たぶんそうでしょう……それと彼は雇い主ではありますが、私は彼とは別の思惑で動いています。いまは協力関係にありますけど」

「まあ、いいや黒糖先生と会えるんでしょ? 話せばなにかわかるかも……」

「前向きでよろしい! ユメはそういう男の子きらいじゃないですよ? ……さて、ヘリポートに着きました。こっから先はヘリでいきます。東京から京都は遠いですからね」

「危険な旅になりそうだね。追っ手も来るだろうし」

「全部ユメがビーム・ライフルで撃ち落とすので問題なしです」


 そうして僕は、ユメと一緒にヘリコプターに乗って京都へと向かった。黒糖先生はどうやって京都にいったのだろうか? 無事たどり着けているといいのだが……。瑞島は無事だろうか。僕が第一大学から逃げ出した責任をとらされてないだろうなぁ。ああ、心配事だらけだ……。だが、京都の時田邸につくとそんな心配はすぐに消えることになる。なぜなら、瑞島も黒糖先生も時田邸にいたからである。彼女たちは別のボディーガードが京都までエスコトートしたと後できかされることになる。    

                                 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る