第7話 天見総理大臣からの疑惑

 黒糖先生と別れたあと、僕は宿舎に帰る。そして、次の日いつものように研究所に出勤する。あたりまえのような日常が続くと思っていた。僕は忘れていた……瀨海さんと連絡するためのスマホにスイッチを入れ直すのを……。

「ドクター藤洞先生、天見総理の命令であなたを拘束させていただくことになりました」

「どういうことでしょうか?」

「手荒なことを我々としてもしたくはありません。ご同行お願いします」

 屈強な男は僕についてくるようにうながした。


 そこは政治犯が取り調べと思想矯正させられる施設だった。

「第一大学」という文字を刻まれた表札が、ゲートにかかげられている。大学という名前にふさわしい立派なキャンパス、講堂、体育館、図書館……。そして、軟禁するための寮があった。僕はその寮の一室に閉じ込められた。しばらくすると……ノックが玄関にあった。その後、勝手に扉が開くと天見総理大臣が入ってくる。

「残念です……藤堂先生……聞いていいかしら?」

「なんでしょうか?」

 なぜ僕はいきなりこんな政治犯が軟禁される施設に連れてこられているのか? 全く意味がわからなかった。だが、その疑問を口にするのは止めたほうが良いだろう。

「瀨海さんのスマホのスイッチは消さないようにファイルに注意書きをしておきましたが、なぜ消したのですか?」

 しまった! 瀨海さんの外見や精神構造をみるのが、なにか悪いことをしているようで……結果として、僕はすべてのファイルを見ていない。

「いえ……特に理由は……ないです。スイッチを入れるのを忘れただけです」

「常時、電源を絶対に落とさないようにしろと大きな字で注意書きがありましたよね?」

「……うっかり、電源を落としてしまいました」

「ふふ、どうだか……なにかやましいことがあるのでは?」

 ……黒糖さんとの一件を思い出し、やや動揺する僕。

「すいません……私的なことですが、彼女に見られたくないことがありまして……」

「それは総理である私にも言えないことか?」

「言いたくないです……」

「話せ!」

 どうこれをやり過ごせばいいのだろうか……。仕方ない、正直に話すか……。

「実はある女性と情事をしておりまして……それを見られたくなかったのです」

「ほぅ……。別に構わないではないか。Hのことで情事の動画を発表していたお前がなにをためらう必要がある」

「初恋の女性だったのです……」 

「はははは、笑わせてくれる。たとえそうだとしてもAIは人間とは違う。PCが一台余計に部屋にあったところで、何を気にする必要があるというのだ? ん?」

 そうだ総理にとって、AIの瀨海はただの道具なのだ。

「お前には教育が必要なようだな……」

 ……なにをされるというのだろうか……。

「私をどうされるおつもりですか……」

「どうやら……お前はAIを人間と同等に考えているふしがある」

 痛いところをつかれた。

「不審に思わないのか? なぜ、私が政治犯と護衛もつけずに顔を合わせていることを」

「……」

「お前の前に居る私は、人間ではないのだ……」

……AIに操られた影武者?

「なるほど……」

「これから目の前に居る私とHをしろ……それが命令だ」

「なぜ……そんなことを」

「オナニーを見られるのがいやなのか? お前の目の前の私はただの人形だ気にすることはない。私は別室でそれを見させてもらうよ……」

「そんなことをして、どんな意味が……」

「できないだろう、お前は目の前の私を人形と思うことが思想的に無理な政治犯だ」

「ヤれば、釈放してくれると……」

「そうだな……目の前の人形をつかって自慰行為に興じることができるのであれば、心を入れ替えたとみなして赦しても良い」

 ……どうする……。

「できない! そんなこと無理に決まっているだろ」

「何をしている! 早く私を使ってひとりHをしろ」 

「……気が狂っている!」

「おかしいのはお前だ。ただの人形を人間扱いすることがどれほど罪深いか」

「どうみても人間にしか見えない……」

「しかたない、強硬手段には出たくなかったが……」

 天見と思っていた人形は突然僕の服をぬがそうとした。

「おい、なにをするんだ!」

「これから、お前は目の前の人形である私によって犯されるのだ」

「ちょっと待て、はやまるな」

「……気は変わったか?」

「仕方ない、乱暴なのは良くないよ」

「私を抱いてくれるのだな?」

「ああ、抱く。それで満足なんだろう……」

「一応いっておくが、やさしくは困る。きつく乱暴に壊れるような抱き方をしてほしい」

「それは無理だ……」

「やさしい抱き方では、お前の疑いはとけんぞ?」

「乱暴なのは……ダメだ」

 僕はそういうと天見総理にキスをした。少しずつ服を脱がしていく。

 場違いではあったが、いい雰囲気になったかなと思った時のことだ。

 邪魔が入ることになる。

「眼の前でお楽しみのところ悪いのですけど……そこまでにしていただけますか? 全くこれだから、老けた人間はイヤですわ」

 まだ子供の女性の声が後ろからした。

 行為をやめ後ろを振り返るとそこにはまだ十二歳ぐらいの少女の姿があった。カワイらしい白のワンピース。長い髪の毛は大きな空色のリボンがあしらわれている。お人形さんのようにカワイらしい外見だ。

「はじめまして、私のことはユメとお呼びくださいな。発情したオスとメスの行為を私のような少女に見せつけるとは、はしたない。」

「あいにくだが、ユメさん。状況がつかめない……君は何をしにここに来たんだ?」

「ふふ、助けにきてあげたのに、その言いぐさはないでしょうドクター藤洞先生」

「助け……。だが、僕は君を知らない」

「あ、そう……。助けなくていいんだ?」

「い、いや。助けてほしいが……見返りはなんだ」

「わたくしに、今やっていたことの続きをしてもらいますわ……それだけ約束していただければ、無料で助けてあげます」

「なぜ? 意味がわからない……」

「大丈夫です。今はわからなくても、そのうちわかります。とにかく、ドクターは私のものになって欲しいのです」

……くそ、なんて面倒な条件なんだ。

「ふふふ、行って来い籐洞。だが忘れるな。わたしはお前を思ってこうしたことをな」

 天見総理大臣と思っていた人形はあっさり諦め、僕たちを逃してくれた。

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