第5話 AIとはなにか?
「なあ、真唯……AIについて教えてくれないか? お前の専門だろ……」
「あん……? AIどころか人間の女心をわかっていない寛之がそれをいう?」
真唯は僕をいつものようにからかう。
「しかたないなぁ、教えてやるよ……」
と言って真唯はAIのシステムについて教えてくれた。
「この日本にはマザーといわれる特別なAIがいてさ……そいつがこの日本のAIすべてを管理しているんだ。人間の手では日本中のAIの管理なんて無理だからね!」
ふむふぬ。そのマザーってもしかして……。
「あの瀨海さんってマザーなんでしょうか?」
「マザーが誰か知っているのは政府高官ぐらいだろうね……。でも天見総理は君に瀨海を渡した。つまり、瀨海は重要ではなかったということじゃないかな?」
「なぜ?」
「そらそうだろ。日本中のAIを管理しているマザーをひとりの研究者にゆだねたら、権力うばわれちゃうじゃん!」
なるほど、たしかに筋は通っている。
「ん……でも、なんとなく瀨海さんってマザーなんじゃないかって気がするんだよな」
「おまえの黒糖先生好きは本当にかわらないねぇ……」
「あきれている?」
「もちろん、あきれている」
そっか、そうだよな。瀨海愛さんがマザーなわけないか……。
「仮にだよ? 瀨海さんがマザーだとしたら、なにか良い手立てはないかな?」
「何? 秘密の話するの?」
彼女がAIをすべて管理するマザーであれば、彼女をどうにかできれば、AIと人間の関係がより対等に近づけるかもしれない。それは僕の組織である自由結社の悲願でもある。
「ああ、歴史は繰り返すというからな……、また過去のようなことがあってはならない」
「過去のこと……」
「そう、AIの少女たちを代理母にして、子供の工場の代わりにするという計画。今から五百年前に起きた悪夢のような歴史だ……」
「知っているよ……口にするなよ……。総理にでも盗聴されていたら、どうするんだよ?」
「このことを悪夢と今でも思うのは僕ら自由結社に所属している人間だけだろうな……」
五百年前はなんとか計画を止めた。しかし、工場が止まった今こそ世論は簡単にAIの少女たちを代理母にする計画を思い出し、それを実現しようと動き出すかもしれない。そんなことを許すわけにはいかなかった。人間とAIは対等だと僕は信じているのだから。
「寝ようか……」
聞きたいことは全部知ることができたので、そう提案する。
「ケチ。教えてあげたんだから、お返しはないの?」
「なんだよ……お返しって……」
「質問に答えてほしいんだ……籐洞は……黒糖先生が悪いAIでも好きなんだよね?」
「ああ、それは流石に冗談だ」
「そっか、なら安心だ……ダークAI……つまり人間と敵対するAIだったら、さすがに私でも手は組みたくないから……」
「黒糖先生はAIだったのかな?」
不思議だが、それなら納得がいかなくもない事実がある。
「瀨海さんのこと言っている? あまりに似ているよね」
「なぁ……瀨海さんは……架空の体しか持たないんだよね?」
僕は確認したくて聞く。
「AIに人間の体を渡すなんてことあるかしら?」
「ないよなぁ……AIをさげすんでいる奴らが、わざわざAIに人間の体を与えるわけがない。それには明確な理由があるはずなんだ」
「司令塔になるAIは人間の架空の肉体を与えられるのだけど……。それは、人間として当たり前の感覚を司令するAIが持っていないと人間とコミュニケーションが取りづらいから、と言われている……そして、どういうわけかその体って女性なんだよね……」
と真唯は教えてくれた。 一つの推測が僕の頭をよぎる。なぜ、AIの人間の体は架空とはいえ、女性ばかりなのか。代理母によほどしたかったのではないかという仮説である。
しかし、百年間稼働してないとはいえ、工場は子供を生産しつづけたはず。つまり、代理母など不要な時代がずーっと数百年は続いていたわけである。
ふと思う。
「なぁ、なんで政府高官って女の子ばっかりなんだろうな……」
「まるでAIが女の子ばかりなのと一緒だよね……」
気にし過ぎだろうか?何か頭にひっかかる。
「政府高官が女の子ばっかりになったのって割りと最近百年ぐらいのことみたいよ?」
眠そうな声で真唯は言う。確かに、百年前僕が子供のころは、そうでもなかったな。
あの頃の政府高官は半分ぐらい男だった。
「そっか、司令塔のAIの架空の体が女性ばかりだったのは、昔からなのか?」
「そうだよ、少なくとも五百年前の時点で、すでにそうだったと記録では言われているね……もう寝よう……おやすみ……寛之……」
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