第2話 幼馴染ルームメイト瑞島真唯
長い会議が終わったので、家に帰る。僕の家は研究施設の用意したモノだ。部屋が潤沢にあるとはいえずルームシェアをしている。普通ならルームメイトは同性だろうが……。
「寛之? 飯にする? 風呂にする? それとも私と……一緒にイイことしよっか?」
そこにはビールとおつまみの唐揚げで、すっかり出来上がっている瑞島真唯がいた。
「うーっす。疲れたっしょ? 飲もうよ?」
「ごめん、真唯。僕はお前と結婚しないために、今必死なんだ……」
家に帰るとすぐ始まる僕の日課。それは……。
「なにぃ? マッチングアプリまた開いているの? あきらめ悪いねー? ちみは?」
真唯は僕に肩に手をかけると体重をかけてくる。そして、僕のPCをのぞきこんだ。
「またまた栗色の髪のお姉さんばっかり……やだねぇ未練がましくて……」
「うるさいっ」
「緑色の瞳の女の子にも、イイねしてるんかい!」
「うるさい……」
「そうだ、スマホ見てみまひょうか? 待ち受け画面は?」
と瑞島は天見から渡されたスマホを開こうとする。
「けっけっけ、どうせパスワードは……五九一〇。こくとう、でしょ?」
「くそっが!」
ズバリ的中。仕方ないだろう。黒糖先生を僕は忘れたくないんだ……。
「キモっ……、ほら当たり!」
「や、やめろ、それは政府から渡された重要なスマホなんだ!」
「また、またぁ……」
そこには、瀨海愛のアイコンだけがあった。栗色のロングヘアをしたサファイア色の薄緑色の瞳をしたAIの美少女の姿が描かれている。
「あれれ? これはレアですねぇ……。てか、黒糖先生と超クリソツじゃないですか!」
「うるさい。これは仕事用なんだ。さわるな見るな!」
「へー。仕事……ねぇ。」
「なんだよ? なにか文句があるのか?」
「いや? きっとドクター藤洞先生は仕事熱心なんでしょうね?」
「一応言っておくが、これは機密情報だ……」
「はいはい、わかったって」
「っち、この少女は日本最古のAIである瀨海愛さんだ……。断じて黒糖先生ではない!」
「ふーん。これは……AIと人間のはじめての結婚も近いかしらね?」
「だ、か、ら。彼女は僕の考古学の研究を手伝ってくれるアシスタントAIなんだ」
「それは、それは。研究がはかどって仕方ないねぇ。二人のはじめての協働作業ってか?」
「嘘じゃないところを見せてやる!」
「ほほー。じゃ、私が代わりにテキスト打ってやる! お前のセリフはコレできまりだ!」
瑞島は僕から強引にスマホを奪うと素早くテキストを音声入力した。
「僕と二人で良い家庭を築いていきましょう!」
カワイらしいハスキーな女性の声で入力されたその内容が素早く瀨海愛に送られる。
「あ、ああああああ。ど、どうするんだよぉ」
くそ、AI少女に対するなんていう初挨拶! ……すると瀨海愛も入力中になった。
「あああああ、AIの少女に変人だと思われた! 返事に困っているんじゃないか?」
瀨海愛はなかなか返事を返してこない。僕は油断していた。だから、また瑞島にスマホを奪われる。彼女は、たたみかけるように、さらにヒドい内容のテキストを送る。
「僕は処女の女の子が好きです! あなたは処女ですか?」
瑞島は入力し終わると、
「ふふふふ、あー面白い!」
と爆笑している。
「うぉおおおお」
僕はあんまりなテキストの内容に絶叫した。
「私は童貞の男の子が好きです。あなたは童貞ですか……と返させていただきます!」
AI少女である瀨海愛のあんまりな返答。あああああ、AIの少女にあきれられている……。明日からの仕事にさしつかえるっ。どうするんだよ? これ。
「へっへっへー。油断大敵なのでありまーすぅ」
おい、バカだよ僕。また瑞島に端末とられたー。
「ちょー童貞でーす。よろしくお願いします!」
「ふ、ふざけるな!」
端末を返してくれる瑞島。スマホを見るとそこにはビデオ会議の要請がAI少女から来ていた。い、言い訳しないと。
「どうするの? くくくっ、出るの?」
「おい、お前……。余計なことを言うなよ?」
コイツはまた何をしでかすかわからない……。ここは釘を刺すか……。逆効果になりかねない脅しなのだが。最後の手段に出るしかないっ。
「なぁ、瑞島……」
「な、なんだよ? あらたまって……」
「僕と二人で良い家庭を築く覚悟はあるか……」
「わるかった、わるかったからっ。もう、お前の恋路は邪魔しないから!」
「わかってくれると信じていたよ……」
これでひと安心だ。さて、AI少女である瀨海さんの誤解を解かないと。僕は彼女とのビデオ通話を承諾する。すると……。
「はじめまして、瀨海愛です……」
「はじめまして籐洞寛之です。先程は失礼いたしました……」
「なによ? 童貞!」
AI少女は激オコだ。
「すいません……実は同居人がいたずらをしまして……」
「はい?」
「ゴミのような女なんですけど、一応研究仲間なんで……ルームシェアしているのです」
とその時、
「あーん、誰がゴミ?だぁああああ」
「事実を言っただけだろ」
「婚約者をゴミよばわりかい!」
といつものようにケンカ。
「仲が宜しいようですね……。童貞さんと処女さん……」
「ふーん、なによ! このAI女ムカツクわね!」
「どうでもいい質問で、私を怒らせたのはあなた方お二人ですよね?」
「あ、瀨海さん、許してください。僕は、一行もメッセージ送ってないんでっ」
と素早く事情を伝える。
「なるほど……」
AI少女の瀨海愛は状況を飲み込んでくれただろうか?
「いいですよ? 藤洞さん、結婚しましょう!」
瀨海愛は満面の笑みで端末に向かって弾んだ声で発言した。そ、それって?
「あ、あのぉ。瀨海さんはAIで僕は人間ですよぉ。いくらなんでも……」
頼む火に油を注がないでくれ!
「いい度胸じゃねぇか……藤洞。この真唯さまとは婚約解消して、人間ではなくAIと家庭を築くと……言いたいわけだな……」
真唯が婚約を嫌がっているのは事実だったが、女性としてAIに負けたのがよほど腹ただしかったに違いなかった。
「瀨海さん……。日本最古の最強AI様。あんまりです。僕は本当にあなたへ何もメッセージ送ってないんです! 信じてくださいってばー」
「では、あなたのPCの画面は一体……からかってますよね? 絶対!」
画面には瀨海さんと雰囲気が似た女性だけが映っており、言い訳ができそうもなかった。
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