第2話 傍から片思い

いやしっかし、なにを食ったらあんなに身長伸びんだよ。ずるすぎるだろ。足長いし出るとこ出てるし。こっちは170ギリないって言うのに。


身長何センチって聞かれた時170って言っちゃう時の情けなさと言ったらもう。だめだだめだ、別の話しよう。


いや身長の話になったらあいつを抜きに俺の苦労は語れねえよ。お前とは大学からだけどよ、あいつとは幼馴染なんだよ。ずっと身長も足の速さも1位2位を競ってきたんだけどな。


え、身長の話?いつって、まあ中学3年とかかな。ごめん嘘。中二の段階で俺はあいつに負けていた。忘れもしない、あれは夏休み明けの健康診断の時。俺が「滝田」であいつが「成田」だから、出席番号的に俺の次があいつだったんだ。


いや田舎舐めんなよ?全校で40いない中学だぞ?それくらい開いて当然だわ。


そんで今はプライバシーだのなんだのってカーテンとかで仕切られてるんだろうけど、あん時はまあ、目の前でってのが普通だったんだよ。


え?いや6年を舐めんな?参議院だって一回は確実に総選挙だからな。身長だってだいぶ差がつくだろ。


そうそれでな、担任が体育会系でよ、声がでかいのなんの。だから記入係の保健の先生に身長告げる時に、保健室中に響き渡るわけだ。しかも三人ずつ出入りするから、身長も体重もそこにいる人間にはよく聞こえるのよ。


え、もう一人?あ〜、確か西なんとかって言う女子だったよ。


で、俺の身長と体重がアナウンスされて、あいつはちょっとニヤってこっちを見るんよ。


ちょっ、一旦ストップ。いちいち質問してくんなよ、話進まねえじゃねえか。俺がいいよって言うまでうなづいてろよ?


よし。


でだ、その目の冷たいこと。一重のくせして大きいから余計睨まれてる気がしてよ、結構悔しかった。


ずっと同じくらいの身長だったのに、中一の冬にめっちゃ伸びて、中二の春の健康診断の頃にはもう結構差がついてた。確か一センチ半とかだったけど、あいつはあの時から足が長かったから、余計でかく感じたの覚えてるよ。


それであいつの番になったんだ。まあ負けてるのはわかってたけど、二センチとかそこら辺だと思ってた。


でも蓋開けてみれば五センチも違うじゃねえか。


その時、俺の自信というか、身長における向上心的なものが折れた音がしたんよ。ずっと競い合ってた相手に大差つけられるとよ、どうでもよくなるんだよきっと。藤浪もこういう気持ちなんだなって、今になって思うよ。


それから俺の身長は伸びなくなって、高一で完全に成長がとまった。結果169.4。悲しいだろ。


いや、違うね。俺は男なんだからそういうフィジカル面では優位に立ってる。ハンデがあるにもかかわらずだよ。全部超えてくるんだあいつは。


というかあいつ肉食えないから魚しか食べないんだけど、骨ごと食うようにしてたとかなのか?俺が肉の脂身食ってる間にカルシウム大量摂取してんなら納得だな。


まあなんやかんやで一緒の高校入って、俺はそのまま野球部、あいつは野球やめて陸上部に転向した。そしたらどうだ、みるみるうちに進化しやがって。


え?はいはいすいませんでした。変化な、変化。


お前の友達が俺だけなのはきっとそういうところのせいだぞ。


続けるぞ。


高二の春体、あいつ100mと200mで県の記録塗り替えたんだよ。同じ日だぞ。そしてその記録は、足に自信があった俺の12秒を超えた。


いや、もうその頃には羨ましいというより尊敬が勝ってた。だって歴代女子の54位タイだぞ。日本で54番目に速い女だぞ。もし怪我してなかったら日本代表になってたかもな。結構ガチで。


すごいよなあ。


でもそれで言ったらお前もすごいだろ優希。あのときたまたまにいちゃんの影響でバレー見るのハマってたから俺はお前を知っていた。


でプロの入団テスト断ったんだろ?


そりゃくるだろうよ。日本一の高校を一回戦敗退まで追い込んどいて何もない方がおかしい。俺はかっこいいと思っちゃったね。あの冷たい目。お前心でエグいこと言ってただろあのとき。


は?マジで声に出したん?人としてどうよそれは。


はいはい合理的ね。いっつも言うそれなんとかならんのかよ。ちょっとうざいぞ。


俺の雪の話もうざいって?いやこれは別に自慢とかじゃないからノーカンだろノーカン。


え、まあ。正直な話、俺はあいつと結婚したい。


いやまあそうだ。でもずっと一緒だから、付き合うとかよりもはや一緒にいたいがゴールになってんのよ。あいつといると居心地がいいんだよ。


それになんでかあいつにはずっと彼氏がいない。性格なのかもしれないけど、あいつの周りにはスペック高いオスが体求めていつでも湧いてた。湯水の如くってあれのことだわ。


そう。なんでだと思う?そういう男との色恋の噂なんて一切ないくせして、俺とはよく一緒にいる。好きではないかもしれないけど、同じように居心地はいいって思ってたのかもな。期待してまうやろそんなの。


出身?北海道だけど?


エセだよエセ。塾の先生が関西人だったからちょっとうつったんだよ。てかそれはいまどうでもいいだろうよ!


まあとにかく、だからこそ俺はあいつから卒業しなきゃいけないと思ってる。


なんていうか、ほぼ義務かのようにあいつのことが好きなんだよ。何回か告ったりもしたけど、今のままの方が楽じゃない?って言われて妙に納得しちゃうのな。その考えに落ち着くんだよないつも。


んー、比べるってほどじゃないけど、あいつと結婚するつもりなのに付き合っていいのかって考えてしまうともうだめなんだよ。


今まで?えっとね、10人くらいかな。全部好きな人がいるからって理由で断った。


まあもちろん機会はあった。バレーサークルもバレーしたくて入って、ヤリサーだって知って、でも誘われても行かなかったんだよな、あいつの存在が大きすぎて。拗らせていまだに童貞だけど別に後悔はしてねえよ。


それもありだな。責任とって俺を夫にってか?割とその方が成功しそうだけどな。


まあもし断られたら、俺はあいつと縁を切る。近くにいたら延々とあいつを求めるからな。


え?ああ、そういう妄想はしたことあるけど。お前もしや天才なのか?んーじゃあその時は俺が厚底の靴をはく。15センチくらいの。そしたらあいつもカッコよくウェディングドレス着こなせるな。なんの同情もなく。


五センチくらいのヒールならお釣りが出るな。


まあなんだ、近々言ってみようかな。ゆき、俺と結婚しようってか。なんてな。





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