最終話

私は雑貨屋の扉の前にいた

いつもなら、走ってたどり着いていたのに…

静かに扉を開く


和風の内装…

床の間に和鏡が1台…

周りはぼんやりとしている

私は床の間に入っていった

和鏡の蓋を開く…

美しい彫り物がある鏡…裏返してみる


……………

鏡に映し出された私は…

……生成りの盤若の顔をしている


私じゃない…

鏡を戻した


そうかしら?

背後から声がする

振り向くと能面のような表情の私がいる


このままでいいの?

薄ら笑いを浮かべた私が言う

鏡に映る私が言う


無表情の私…

生成りの盤若の私…

私は誰?

恐怖と困惑で、私は雑貨屋を飛び出した


夢は繰り返す…繰り返す…

現実との境が消え去っていく


……………



アナ…今日は良い天気だよ

元義家族から、慰謝料と搾取された分をもぎ取ったよ…すまなかった…すまなかった、アナ


兄は私を施設に入れたみたいです

私はアパートで餓死状態になっていたそうです

管理者の方が私の小学校時代の同級生で

家賃の事で訪ねた時に発見され、実家に連絡をしてくれました

そして、兄は元義家族との取引をやめました


アナにした所業を許さない

親族だからと取引をしたのですが、すでにアナは夫君と離婚していますので…


待ってください…困ります

元夫君と元舅が慌てだし、嫁に対する態度を謝罪した…そして、姑と義姉も事の重大さに青ざめる


僕に言われても…アナに直接、謝罪していただけますか?

兄は、元義家族を廃人と化した私の所に連れて行き


アナに許しを請うてください


元義家族は私の姿を見て、言葉が出なかったという

去り際に元舅が…示談をしたいと呟いたそうだ



なぜ、私がこの事を知っているか?

……和鏡が教えてくれるからです

私の魂は雑貨屋の和鏡の中に置いてきたから…

施設にいるのは抜け殻…

ありのままでいたいと願ったら

無表情の私も…生成りの盤若の私も…

アナ…そう、私自身と気付いたから…

和鏡の中が私の居場所になりました






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