鏡に映るもの…番外編

私はアナ…

のどかな場所にある施設で暮らしてます

暮らしているのは抜け殻の私


事あるごとに兄夫婦が来るようになりました

先日は両親の眠る墓に墓参りに行きました


アナ…ずっと行きたかったんだよな

凹んだ瞳には何も映りません

手を合わせる兄夫婦

ぼんやりと車椅子に座る私…


無表情の私が薄ら笑いを浮かべ

盤若に成り果てた私が朱い涙を流しています


和鏡のある床の間の景色がはっきりしてきました

壁の所々に小さな鏡が掛けられて

兄夫婦や元義家族の姿が映し出されます


兄夫婦は…アナ、すまなかった…と苦しい表情になり、抜け殻の私の世話をしているのです

かつての兄から想像がつかないほど

優しい兄になりました


今日は家でゆっくりとしょう


アナさん、行きましょう



……………………………………………………………

おふくろとあねきのせいだ!

俺はアナを愛していたんだよ!


夫君も私達の味方だったじゃないの


そうよ!

こっちのせいにしないで!


元舅の眠る仏間での口論が耐えない


元義家族は兄の融資が途絶えた後

立ち行かなくなって…大口の商売ができなくなっていた

かつかつの暮らしの中で、互いにいがみ合ううちに

元舅が突然死をした


わしゃ…はぁ

アナさんに詫びに逝くよ

元舅の最後の言葉だった


ある日

元夫が私の実家を訪ねて来た


何をしにやって来たんだ?


アナに会わせてください

こちらにいると聞きました


会ってどうするんだ?

アナはお前らの召使いじゃない!

アナは…とにかく、帰れ!

兄は低音の声で言った


謝りたいんです

アナの朗らかな笑顔が忘れられない


朗らかな笑顔を消したのは誰だ!


僕です…だから、謝りたいんです


あなた…

義兄嫁が私を玄関まで連れて来た

時間よ…迎えが来るわ


アナ…

元夫が私の手を取る


…………………


申し訳なかった…どう詫びたらいい?


盤若の私が怒りを顕に…

無表情の私が一層、無表情に…


き…え…て…

微かな声で

凹んだ瞳をまっすぐに、元夫に向け

呟いた


兄夫婦と元夫が驚いた


アナ…わかるのか?

僕だよ


妹から離れろ!

兄は勢いよく元夫を門まで追い払う

もう二度と姿を見せるな

アナは…きえて…と言っただろう!


以来、元夫が訪問する事はなかった…



鏡は因果応報を映し出す

朝、鏡を覗く事があるでしょう?

その時に

盤若を映し出すか…

無表情の顔を映し出すか…

それとも、朗らかな笑顔を映し出すか…

貴方の業で変わっていくものですよ







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