第41話 見ちゃった
なんで一緒にお風呂に入るなんてことになったんだろう……
わたしは洗面所で服を脱ぎながら、先程起こったことに考えを巡らせる。
だって普通恥ずかしいじゃん。いくら家族で同性だからって恥ずかしいじゃん。え、逆に何でみんなは恥ずかしくないの?
わたしはちょっと子供っぽく拗ねながら、ズボンを脱ぎ捨てる。
まあ別にどうしても嫌ってわけではないけどさ…… 中学生の頃、修学旅行で一回だけ友達と銭湯に入ったりとかしたことあるし…… だけどさ……
そんなことをぶつぶつと心の中で呟いていると、シャーッという洗面所の扉が開く音が聞こえた。
扉の向こうにいた全く無表情な妹と目線がぴったりと合う。
「…………………………」
一瞬何が起こったのか分からなくなってわたしの思考は止まり、数秒の沈黙が流れた後、わたしを現実に引き戻すように扉は勢いよく閉じられた。
すぐにわたしの頭の時計の針が動き出す。
え、え、え!? や、やばい、見られた!? 茅ちゃん!?!?
わたしは自分の体の状態を見て、その場にしゃがみこむ。
なんとか下着だけはまだつけていたものの、他の服は全てカゴの中。そんな最悪な場面を茅ちゃんに見られてしまったのだ、と今更気がついてもだいぶ遅い。
やば、恥ずかし……
わたしは両手で恥ずかしさを抑えるように、頬を押さえながらも、立ち上がってお風呂に入る。
今でこれだけ恥ずかしいんだから、一緒にお風呂に入るなんてなったら絶対もっと恥ずかしいことを変な形で確信してしまった。
てか、わたし鍵かけ忘れてたのか……
我が家の洗面所には鍵が付いている。お風呂に入るときは鍵をかけると決まっているのだけど、茅ちゃんが扉を開けることができたということはわたしが鍵をかけ忘れたということだ。
恥ずかしさもあるけど、申し訳ない気持ちと、お見苦しいものを……という気持ちもある。
あとで一応謝った方がいいの……かな。余計かな。
今まで一回もこんなことなかったからさすがに動揺してしまった。
でも、一緒に住んでるってことはこんなことが普通に起っちゃうってことなんだよね。わたしもいつか同じことしちゃう可能性だってあるわけだし。それなら早めに裸を見られるのことにも慣れておいた方がいいことなのかな……
なんだかお風呂につかってもいないのに、恥ずかしさと頭の疲労でのぼせてしまいそうだ。
早くお風呂出よ……
☆
「あ、あの、茅ちゃん。入るね……?」
わたしはお風呂から上がって、部屋に戻っていた茅ちゃんの部屋のドアをノックした。
「あの、さっきはごめんね…… 鍵かけ忘れちゃってて……」
「こ、こっちこそごめん…… その、み、見ちゃって……」
「いやほんとお見苦しいものを見せちゃってって感じで……」
「そ、そんなことない! 由衣、その、き、綺麗だった……し……」
「っ……」
嬉しいことを言われているような気もするけど、照れるを通り越して、めちゃめちゃに恥ずかしい。そしてなんだかむず痒い感じ。
「あ、あははっー、その、一回見られちゃったんだからさっ。一緒にお風呂入ることになるのが茅ちゃんだったらいいのになーなんて!」
「っ……!」
そんな恥ずかしさとむず痒さを吹き飛ばすために、わたしは冗談を交えつつ、へへっと笑ってみせた。
もうこれでこの事故のことは忘れよう。うん、そうしよう。今まで通り、普通に接しないと。
「その、さ」
「うん?」
「ほ、ほんとにわたしと入りたいの……?」
「え? あ、いや、うん……」
一応冗談のつもりで言ったんだけども。だけど、ここで「いや、できることなら入りたくないです、ごめんなさい」なんて言うのはもうさすがに無理がすぎる。
「一番?」
「えっと、まあ、一番、かな……」
一応、一回ほとんど見られちゃったわけだし…… 二回も三回も同じなのかも……
「そ、そう……」
そう言うと、茅ちゃんはバッと布団に潜ってしまった。
そんな茅ちゃんを見て、もう寝る時間なのに長く話してしまった申し訳なさを感じながら、ドアノブに手をかけた。
「お、おやすみー、茅ちゃんー」
わたしはたどたどしくそう言って、自分の部屋に戻って行った。
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