第22話 カフェラテ
「あ、これ美味しいよ、茅ちゃん」
「そう」
映画が始まるまで残り一時間くらい。ゲームセンターだけではさすがに二時間も時間を潰すことはできず、残りの時間は併設されているカフェでゆっくりすることにした。
だけど、問題が一つ。茅ちゃんはスマホをずっと見ていて、残念なことにわたしとはあまり目が合わないことだ。
「茅ちゃん、何してるの?」
「ちょっと友達と話してる」
「そ、そっか」
わたしと一緒にいるんだから、わたしと話して欲しいと思うのは我がままだろうか。
「これちょっと食べる?」
わたしは半分ほど食べていたショートケーキを茅ちゃんに差し出した。
「……大丈夫」
そう言うと、また茅ちゃんの視線はスマホに向かってしまう。
(むう……)
なんかこうなったら、どうしてもこっちを見て欲しくなってきた。
「あー、このケーキ美味しいなあ。今まで食べたケーキの中で一番美味しいかも! ちょうどいい甘さだしー、イチゴも酸っぱすぎないしー。茅ちゃんも一口どう?」
わたしは見せびらかすように、ケーキを口に運んでみせた。
ふっ、どうや! これなら逃げられまい!
「ん? いや大丈夫」
そう言って、茅ちゃんはすぐにスマホに視線を落とす。
(むむむむむっ…… こうなったら……)
「茅ちゃん、ショートケーキ嫌い?」
「嫌いじゃないけど」
「じゃあ、はい」
「え?」
「一口あげる」
わたしはケーキを一口サイズに切り分けてフォークに刺し、茅ちゃんの目の前に差し出した。
「いや、さっき大丈夫って──」
「はい!」
わたしは無理やり茅ちゃんの言葉を遮る。
ふふ、これなら逃げられまい。
「……いい」
(なぬっ!? これでもダメなの!? もうこれ以上、無理なのか……)
わたしは茅ちゃんに差し出したケーキをしぶしぶと自分の口に運んだ。
美味しい。だけどなんかさっきの方が美味しかったかも……
はあ、もうやめとこ。あんまり言いすぎて茅ちゃんに嫌われたくもないし。
わたしは残りのケーキを口に放り込んで、カフェラテで一気に喉に流し込んだ。
「由衣、ついてる」
「え……」
茅ちゃんがわたしの顔に向かって手を伸ばし、口の横についていたクリームを手で拭ってくれた。
「あ、ごめん」
「そういうとこ、あんまり変わってないよね」
「……え?」
あんまり変わってない……?
ということは今までご飯粒でもつけながら、ご飯を食べていたということだろうか。茅ちゃんたちが来てから、食べ方には気を付けてたつもりではいたんだけど……
それに関してはものすごく恥ずかしいけど、ようやくわたしの方を見てくれたということは嬉しかった。
この子は人を振り回す才能があるかもしれない。もちろんいい意味で。
「……なに、にやにやしてるの?」
「んー? 茅ちゃんのこと好きだなーって思って」
「なっ……!?」
ちょっと素っ気ないところもあるけど、すごく優しい。わたしの方がお姉ちゃんのはずなのに、絶対茅ちゃんの方がしっかりしてるし。
そういうところが好きだし、わたしももっとしっかりしないとなあと思わされる。
「そ、そう…… その、さ。わ、わた、わたし、も……」
「ん?」
「わたしも…… ゆ、由衣のこと、す、すすす、好き……だから……!」
「へへ、ありがと~」
ちょっと照れて言うようなところも茅ちゃんの可愛いところだ。
これがたとえお世辞だったとしても嬉しい。この言葉は何度でも再生できるように、頭の中心にしっかりと置いておこう。
「わたしも茅ちゃんのこと好きだよ~」
「ん"ん"……!」
「茅ちゃん!?」
茅ちゃんはぎゅっと胸を押さえて、下を向いている。というか、おでこを机の上にくっつけたまま、全然起き上がってこない。
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫…… ちょっとクリティカルだっただけ……」
「く、クリティカル?」
「いや、なんでもない……」
茅ちゃんはゆっくりと起き上がって上を向くと、深呼吸をし始めた。
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫……」
「これ飲んで」
わたしの飲みかけで申し訳ないけど、茅ちゃんの飲み物はもう残っていないので、仕方がない。わたしは自分の頼んでいたカフェラテを茅ちゃんに渡した。
本当は新しく頼むのが一番いいとは思うんだけど、それを待っているような時間もないし。
「あ、ああ、ありがと……」
茅ちゃんはわたしからカフェラテを受け取ると、ストローを伝ってカフェラテが茅ちゃんの喉に流し込まれていくのが確認できた。
良かった。茅ちゃん、さっきよりも落ち着いてきたみたい。
「ってこれ由衣の飲みか……け……」
「あ、ごめん、それしかすぐにはなかったから……」
「う"……」
「茅ちゃんー!?」
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