第12話 寄り添ってくれる
「知らなかったんですか!?」
「え、何を?」
「わたし柚ちゃんと姉妹なんです!」
「え、あ、え……? そうなの!?」
藤田さんのこの驚きよう。どうやら本当に知らなかったみたいだ。
諸麦なんで苗字滅多に見かけないだろうに、藤田さんは何も不思議に思わなかったんだろうか。
もしかして隠れ天然?
「よろしくね、お姉ちゃん!」
「あ、うん。よろしくね」
あー、びっくりした。
姉妹で同じバイト先なんて普通にないでしょ。
友達とかなら聞いたことあるけどさ。
まあでも柚ちゃんとなら、やりやすいと言えばやりやすいからいいのかな?
「えーっと、じゃあ由衣ちゃん、柚ちゃんに仕事教えてもらってもいいかな?」
「あ、はい。ところで藤田さんって結構天然だったりします?」
「あ、あははは、どうだろうか」
そう言って、藤田さんは裏に行ってしまった。
藤田さん。その答えだと「僕は天然です」って言ってるようなものですよ。
「……じゃあ柚ちゃん。仕事の内容教えるね」
「うん!」
ここでのバイトの作業はいろいろある。
花の手入れをしたり、簡単なラッピングをしたり。
あとは、どこでも同じような接客や会計作業。
それにお客様とのコミュニケーションも結構大事だったりする。
他にもお客様の要望に応えてオリジナルの花束を作ったり、注文を受けたお花の配達なんかがあるけど、これは全て藤田さんがやっている。
「──ということなんだけど、どう? 分かった?」
「け、結構覚えることあるんだね……」
「あはは、すぐに慣れるよ」
花の手入れだけでもいろんな作業工程があるから、細かい作業が苦手なわたしも最初は大変だった。
だけど、植物が周りにある環境は好きだし、みんな優しいから辞めようという考えは一切思いつかなかった。
「ところで柚ちゃんはなんでここでバイトしようと思ったの?」
「ん? えーっとねえ、お姉ちゃんがここで働いてるって知ってたから!」
「え、知ってたの!?」
柚ちゃんにはここでバイトをしているということを話したことはない。
楓ちゃんにも茅ちゃんにも話していない。
となると、残りは……
「お母さんからお姉ちゃんはお花が好きだって聞いたの。そしたらお父さんがこのお店で働いているって教えてくれて」
「やっぱりそうだったんだ」
わたしがバイトをしているお店はお父さんと久美さんにしか教えていなかった。
別に隠していたわけではないんだけど、言うタイミングもなかったし、特に言うような内容ではないかと思って、話していなかったのだ。
「わたしもお姉ちゃんが好きなものを好きになりたいなーって思って、ここのバイトに応募してみたの!」
「え……」
(こ、この子……!)
こういうときに「ズキューン」っていう擬音を使うのが正しいんだろう。
本当に柚ちゃんに心を撃ち抜かれた気分だった。
こんなこと言える人なんて、この世に何人いるだろうか。
自分の趣味に寄り添ってくれることがどれだけ嬉しいことか。
(妹ってほんと可愛い……)
きっと柚ちゃんが他人だったとしても可愛いのは変わりないんだけど、自分の妹だと思うと、さらに可愛く思えてしまう。
「……柚ちゃんさ、もうモテてるでしょ?」
きっと一年生の間で、「あの子ヤバくね!?」とか「可愛すぎるだろ!」みたいに、話題になっているに違いない。
まさに楓ちゃんと同じような感じで。
「んー、どうだろ? 連絡先交換してくださいとはよく言われるかなあ」
「やっぱりモテてる」
「まあでも連絡した先から消していってるけど」
「なぜ!?」
「えー? だってまだよく知らない男の人たちの連絡先持ってたって意味ないし。せめて一緒のクラスの男子とかならいいけどさ」
す、すごいな、柚ちゃん……
強心臓の持ち主だ。
「あ、いらっしゃいませ!」
扉を開けてやってきたのは七十代くらいの腰が少し曲がったおじいちゃん。
お客さんだ。
接客をするために、ここで柚ちゃんとのトークは終了となった。
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