第5話 出会い4

 刑事達が帰ってから間借りしている部屋でぼんやりと出窓から外の景色を眺めていた。同じ東京都でも練馬区から眺めていた景色とここから眺められる景色での大きな差違。忙しない騒音も無ければ、鬱陶しいくらいの密集する人の姿も無い、緩やかな時間の流れを感じさせてくれるこの環境は有り難かった。



 明かりも付けずに夕暮れの空を眺めていると、「さっ、これから楽しい飲み会の時間よ! 運転よろしくね、海津原君」意気揚々、若干もうお酒の色香を纏わせている未來理さんが僕の肩をギュッと掴んで、「楽しいから、楽しみましょ、ね? ね!」甘えた口調と共に僕の背中を押してガレージへと。



 未來理さんはガレージの扉と庭先の門を開けると助手席に座る。教習所で習ったことを一つ一つ思い出しながらキーを回して、ハンドルを手に馴染ませるように握る。免許は持っていてもペーパードライバーだ。最後に運転したのだって去年の年始め、まだ大学生活を謳歌していた時に家族で出かけた以来。



 ガソリンも満タンであること、未來理さんがシートベルトを装着している二点を確認、緩やかな傾斜はブレーキを使いながらクリープ現象で道路へと。すぐに車を止めるよう指示され、まさか何かやらかしたかと焦ったが、「ガレージの扉と門を閉めてくるから待っていて。先に行かないでね?」車を出ていった。



 再び助手席に戻ってきてようやく車を走らせる。陣馬街道から美山通りに、高尾街道を使って彼女の指示に従いながら右左折していく。日はもう完全に沈んでいる。意外に身体が感覚をおぼえていて、元八王子町を抜けて長房町まではスムーズに来ることが出来た。



 長房町は近隣と比較しても道が広く綺麗な印象を受ける。



 彼女の言う喫茶店は陵南公園近くにあった。



 こじんまりとした佇まい。レトロ臭さを漂わせるレンガ造りに合わせた窓枠や扉に木を使っている外観。専用の駐車スペースには軽自動車や普通車が何台か停車してあり、紛れ込むように停車させる。



 車から降りるなり、未來理さんは両腕をめいっぱい伸ばして、「運転ありがとう、帰りもよろしくね。その代わり好きなだけ食べていいから、遠慮しないでお腹いっぱいにして楽しんでね」これから彼女はお酒を飲んで楽しい時間を過ごす。逆に僕は緊張していた。久しぶりの運転で手汗をかいていたのか、これから知らない人達と顔を合わせることに緊張していたのか定かではない。ただ黙って食事をしているのも彼女の連れという立場上それは良くない。ここに集っている人達は彼女の同業者であるというが、どういった人達なのかも全く予想もつかず、少々重たくなる足を無理矢理にでも前へ進めた。



「未來理さんいらっしゃい! ふぅん、その子が言っていた子だね。いやぁ、若くて俺の次くらいにイケメンじゃないか?」



 カウンターの中にいる四十代くらいの背の高い男性がにこやかに迎え、「残念。海津原君のほうが私的には好みかなぁ」冗談で未來理さんは返す。



 先客たちが一斉に此方を見るなり、笑顔で片手を挙げるなどして挨拶してくれた。



 店内は六人掛けのカウンター席と四人で囲めるテーブル席が壁際に四卓並んでいる。「読ちゃんそうたいぶり! いつもの席どうぞ。すぐひやいハイボールひっしこ作るからね、マスターが」高校生くらいの少女が未來理さんの手を引いて席へと案内した。何処かの方言だろうか。エプロン姿なのだから店員だとは思うけど、僕はどこに座って良いのか判らないので彼女たちの後に続く。カウンター席とテーブル席の間の道は狭く、両側面から、「へぇ、未來理さんが助手をねぇ」や、「羨ましいぞ!」少なくとも邪魔者扱いはされていない歓迎の声を浴びながら進み、「えーと、にー名前は?」長い黒髪を揺らしながら、息が掛かるくらい顔を近づけてきた。



 距離が近いし……、にーって僕のことか?



「海津原聖人」



 喉が詰まったように低い声で名乗ると、「海ちゃん緊張しとるわい? うちは穗村佳奈ほむらかな。みんなぬくいからすぐに慣れるんよ。はいここにおっちゃん」肩を掴まれて未來理さんの隣の席に座らされた。「おっちゃん……?」僕はまだそんな歳じゃないと反論したいが、初めて会った相手にそこまで言える度量がないのが悔やまれる。



「座って、って意味よ」



 僕の勘違いを訂正した未來理さんはクスクス笑って、「一杯目はひやい焼酎ハイボールをお願いね、佳奈ちゃん」さっそくオーダーを入れる。



「マスター、まけまけね」

「あいよぅ」



 聞き慣れない方言に戸惑っているのもお構いなく、「読ちゃんの言うとおり、しんから可愛い子やね、海ちゃん」ぐいぐいと懐に踏み入れられ戸惑いつつも、表情だけは取り繕いながら彼女の質問に簡潔に答えた。



 右隣には三十代くらいのスーツを着た、見た目の印象で言えば中間管理職を定年まで続けていそうな、高坂智則こうさかとものりと名乗った男性が座り、「ここの男連中、もちろん私やマスターも含めてだけど、未來理さんはアイドルのような存在でね。彼女がここに顔を出してる時といない時じゃあ、気合いの入りようが違うんだ」グラスに入った、たぶんウイスキーであろう液体を気持ちよさそうに傾け、「会員全員に未來理さんが来るってマスターから連絡があってさ、たぶん久しぶりに全員顔合わせになるんじゃないかなぁ」照明のせいか顔が赤く、目元はとろんとしていた。



 店内には僕とマスターと穗村さんを除いて九人が居合わせている。十人がコミュニティーに加盟しているということはあと一人で揃うということになる。



「ぼっちゃんは飲める口かい?」



 整えた顎髭を生やした浅黒い肌のマスターが歯を見せて笑うと、どこか海外のやり手カジノディーラーに見えなくも無い。彼はカクテルでも何でも作れる、と言って酒を勧めるが、「海津原君がお酒を飲むと帰れなくなっちゃうのよ」苦笑して未來理さんが割って入った。



「車で来たんだ。なるほど、運転手も兼ねての見習いさんか。でも、それならここにいる誰かに乗っけてもらえば問題ないだろう? ここにいる連中は助手席に乗せる男女の間柄もいないだろうしなぁ!」



 酒を飲み交わしていた男女からブーイングを受け、悪びれもせずに大笑いするマスターと連られて笑って済ませる彼らの仲の良さが窺える。知らずと僕も笑っていて、「いい顔してるんよ、海ちゃんは笑った顔が可愛いわい」お茶を運んできた穗村さんに指摘され、気恥ずかしい気持ちを隠すようにお茶を煽り飲んだ。



「僕はまだ見習いなので、今日は情報屋の方達がどういったやりとりをするのかを勉強させてもらいます」

「真面目だねぇ……。とは言っても、やりとりなんてそんな堅っ苦しいもんでもないんだがね。何か聞きたいことがあれば誰でも良いから聞くと良いよ。みんな喜んで教えてくれる」

「マスターは名前なんていうんですか」

「おっ、いきなり俺にナンパかよ。未來理ちゃんどうしようか。お宅の助手さんはホの字かもしんねぇ。まあ男女に人気があるとそういうこともあるわなぁ」

「あら。ホの字なの、海津原君」

「違いますって!」



 高坂さんが酒を吹き出して盛大に咳き込んだ。



 また豪快に笑い。「冗談だ、冗談。名前だったな、高村雄一たかむらゆういちだ。おい、海津原君、いま普通の名前だとか内心で思わなかったか?」そう言ってメニュー表を手渡し、高坂さんにはおしぼりを渡した。



 何でも食べていいという未來理さんの言葉に甘えるつもりは無く、なるべく安く腹持ちが良さそうな料理と炭酸飲料を選ぶも、「却下だな。男なら肉を食え肉を。食わねぇといざという時に力が出ねぇぞ」マスターこと、高村さんに拒否されてしまった。その代わりにメニュー表の中で一番高価だったステーキを焼き初める。



 その様子を面白そうに笑いながら、穗村さんが持ってきたジョッキを半分ほど空けた未來理さんは良い感じに酔いが回り始めているようだ。もう顔つきなんてとろけてしまっている。



 しばらく情報屋達に絡まれて僕の個人情報のあれこれと詮索されて時間を過ごし、ようやく周囲も落ち着きを見せた頃合いを見て、「お聞きしてもいいですか」カウンター越しに穗村さんと談笑しながら酒を飲んでいる高村さんを呼び、「未來理さんって情報屋としてどの程度なんですか?」結局、雰囲気と大勢に勧められて僕は酒を飲んでいたので、周囲の、主に未來理さんの様子なんておかまいなしに聞いていた。



 渋い顔をしながら髭を撫でて「どの程度……、ね。情報屋の仕事や報酬についてどれくらい聞いてるんだ?」酔い酔いして席を立った未來理さんを一瞥して高村さんは唸った。



 未來理さんに教えてもらったことをそのまま話した。未來理さんは背後のテーブル席の情報屋たちとなにやらゲームで盛り上がっている。



「情報屋が動けば大金が動くねぇ……。それは未來理ちゃんの基準での話だな。俺達程度がそんな大金にありつける依頼は舞い込まない。多額でも一件数万から二十万くらいの案件がせいぜいだ。先月分の額を聞いたんだろう。あれは幾つの案件での額だと思う?」

「一千七百八十万と言ってましたから、結構な件数ではないんですか?」

「一件だよ」

「はい……?」

「未來理ちゃんは一件でそれだけの報酬が得られる。いいかい、未來理ちゃんは日本の情報屋の中で一番信頼されて、危ない情報源パイプを幾つも握っている。最近でこそ命の危険があるような依頼から手を引いちゃいるが、彼女に仕事をしてもらいたいって顧客は国内外の表から裏まで数多だ。最短納期完遂率信憑性百パーセントの情報屋なんて、まず彼女を除いて存在しないね、俺の知る限りではの話だけど」



 まさかの未來理読子という人物の表面上からは想像もつかない地位。マスターの話ではここにいるの情報屋たちの平均月収は六十から九十の間くらいらしく、仲介役も兼ねて信頼を得ているマスターでも情報屋としての仕事だけで二百万程度だという。それでも他のコミュニティーに加盟している情報屋たちより高給取りのようだ。



「まっ、このコミュニティーには日本でツートップの情報屋が在籍してくれているお陰で、こっちとしては仲介料でがっぽりと稼がせて貰っているけどな」



 日本でツートップの情報屋とは誰か回りを見渡している、そんなタイミングで。



「ほら、あいつが二番手の情報屋だ。遅いぞ、鳴海」



 今まで賑わっていた各テーブルが一斉に静まりかえって、最後の来訪者へと視線を向けた。みんなが自分たちの時ような歓迎の声もあげない。彼の動きに合わせて全員の視線だけが動く。隣に座る高坂さんは、「酒が不味くなるんだよなぁ……」ボソリと酔った口を滑らせた。



 鳴海と呼ばれた僕と同い年くらいの男性は店内を眼鏡越しに冷めた視線で一巡し、この中で見慣れない異物ぼくを見つけるや視点を定めて歩いてくる。背後には穗村さんと同い年くらいの女の子を連れていた。彼女はすぐに近くのグループに交じって飲み物を注文するや、輪に打ち解けて楽しそうにしている。つまり歓迎されていないのは彼だけということ。



「どけよ、高坂」



 僕の隣に座って酒を飲んでいた、自分より歳上の男性に敬意もない威圧的に命令した。



「なあ。せめてさ、歳上に敬意を払ってくれてもいいんじゃないか? いつものことで、いちいち腹を立てるの面倒だけどよ」



 見下ろしている青年を睨み付ける。

 


「敬意を払って欲しいなら相応の稼ぎと実績を見せろ」



 カウンターに拳を叩き付けた勢いで立ち上がった高坂さん。見下ろす構図が逆転して一触即発の雰囲気が店内に充満していく。ここの管理者である高村さんは我関せずと言った様子で穗村さんとスケベェな話題で再び盛り上がっている。他の客達もどうでもいいと言った様子でグループ毎にトランプに興じていたり、未來理さんのテーブルでは人生ゲームで一喜一憂の歓声を賑わしている。



 ああ、未來理さんが勝っているのか……。なんて盤上の様子を冷静に伺った僕は我に戻り、二人の仲裁に入るべく席を立った。



「あんたがどれくらい凄い情報屋かは知らないけどさ、目上の人には敬意を払った方が」

「目上の人? 無能を自分より上に見る気はないな。付け加えると、駆け出しのお前が指図するな」



 値踏みするように服装や装飾品といった品々を見るやいきなり溜息をつく。



「お前だろ、未來理読子の助手だって奴は。どんな奴か興味が湧いて足を運んだが、負け犬人生を歩んでいそうな奴だな」



 高坂さんを押し退けるようにして彼の前に対峙し、「はぁ!? 負け犬とは心外だねぇ。キミは友達が少ないだろう。ああ、絶対にいないタイプだ。僕だったらキミみたいな奴と仲良くなろうとも思わないからねぇ。それになんだい、そのインテリ眼鏡。キザったらしいじゃないか、それで市街地を歩ける度胸がまず信じられないよ」捲し立てるように、あえて小馬鹿にしたように片方の口角を嫌らしく持ち上げて言った。



 ああ、気持ちいいな。



「口だけはよく回るんだな。そういう奴はボロを出す。新人に対して俺からの親切な忠告だ」

「余計なお世話だよ!」

「これは刺激してるわけじゃない。お前のそういう口が未來理読子の得た情報を悪戯に広める可能性があると示唆してやっている。お前もあの男の二の舞に」



 鳴海が言い終わる前に背後で大きな音がした。



 誰もが、静寂を作ったその方へと顔を向けた。



 音の出所は未來理さんのテーブルであり、彼女本人であった。



 俯きながらジョッキをテーブルに叩き付けた姿勢で固まっている。誰かが固唾を飲んだ音。高坂さんもこの状況に酔いが醒めたらしく、「おい鳴海、謝った方がいい……」囁いたつもりだろうが、静寂の店内には彼の声は全員の耳に渡っていただろう。



「ねえ、鳴海君。いま、誰の話をしようとしたのかしら?」



 微動にしない無表情から優しい声で問う。




「いや……、俺は別にそういうつもりじゃ」

「喧嘩はダメよ。だってここは家族が集まる場所なんだから、楽しく、よね?」



 誰に同意を求めたのか全員が同時に首肯した。



 表情と感情の不一致。



 これはまるで。



 仮面を被っているようだ。



「俺はちょっとあっちのグループに行ってくるから座れよ。穗村ちゃん、同じやつおかわりで」



 トランプのグループに移動した高坂さんに代わって倉澤が座る。



倉澤鳴海くらさわなるみだ。あきる野市で情報屋をしている。普段はめったに顔を出さないが、マスターの招集だから来てみれば期待外れの徒労だ。お前と馴れ合うつもりは無いが、言うことは言わせてもらう。未來理読子の足だけは引っ張るな」

「僕だってご免だね。ああ、仕方ないから名乗ってあげるよ、僕は」

「海津原聖人だろ。事前に聞いている。お前の事も少しは調べたが……、いや、止めておこう。過去に意味は無いからな。お前が素直に聞き入れるかは知らんが、もう一度だけ忠告してやる」



 わざとらしい大きな溜息を吐き、「口は災いの元だ。特に情報屋という生業に身を置くならなおさらな」横目で睨みつけてからまた溜息を吐いた。



 この男の一々が気に食わないが、それはどうしてか鏡で自分と向き合っているような気分にさせられる。そこがまた気に食わない。こんなむしゃくしゃする時は酒の力だ。マスターに追加のビールをオーダー。倉澤は上品ぶった名前も聞いたことの無いワインを注文する。別にビールが悪いわけではないが、ワインを頼まれるとビールを飲んでいる自分が惨めな敗北者になったようで面白くない。



「それはキミも一緒だと思うけどねぇ」

「フン。本当に鏡に語りかけているようでウンザリだ」



 これ以上互いに口を開けば相手を罵る言葉ばかりで、周囲の和やかな雰囲気からすれば場違いだ。むしろここにいる連中は厄介者の相手を僕に任せているのではないかとさえ疑心を持ちたくもなる。



 男二人並んで酒を飲んでいると、「鳴ちゃん。もう用事は済んだ?」倉澤が連れてきた少女が両手に焼き鳥を持ってやってきた。



「お前は未成年だ。飲むなよ」

「わかってるもん。でも、来年になったら一緒に飲もうね! あ、そうだ、そっちの……、ええと、海津原さんは未來理さんの助手なんでしょ? 凄いよね、見込まれたってことなんだもんね」



 倉澤の性格とは正反対な良い意味で遠慮を知らない少女は、「逢瀬充おうせみつるです。鳴ちゃん……、倉澤鳴海の助手をしてます」未來理さんとはベクトルの異なる笑顔を見せた。



「雇用主を呼び捨てにするな。それと充、お前は誰彼構わずに親しくなるな。こいつは」

「未來理さんの助手だから? 鳴ちゃんってさ、未來理さんに対抗意識をメラメラに燃やしてるんだよねー」

「うるせぇ! お前は殴られても学習のしない馬鹿かよ! あぁ!?」

「そうやっていっつも怒る! 殴られようが罵声を浴びようが、私は変わりませーん。はい、残念でしたぁ」



 逢瀬充という少女もまた握りこぶしを振り上げ、もちろん焼き鳥の串が指の隙間から伸びている。それを振り下ろそうとする寸前に、「馬鹿女! あぶねぇだろうが! それを手から離せ」本気で焦っている様子をきっと僕は勝ち誇ったような笑みを浮かべてやっていたに違いない。彼越しに逢瀬さんと目が合い、彼女は一瞬だけウインクした。



「二人は仲が良いでしょう?」



 いつの間にか人生ゲームを抜けてきた未來理さんが酒の臭いを振りまきながら、ニコニコと彼らのやりとりを眺めている。微笑ましい兄妹のよう、と呟いて二人のやりとりを肴にグラスに口を付けた。



「彼ね。充ちゃんを助手にする前は本当に危ない……、うーん、この危ないは、暴れるとか何をするかわからないとかじゃなくて、本当にお金を稼ぐことや私を越えることばかりで、依頼内容を問わずに仕事を受けていたの。まあ、おかげで今の地位があるんだけどね。でも、充ちゃんのお陰で大分丸くなったのよ」

「僕はこいつが嫌いですよ」

「そんなこと言わないであげて。きっとお互に良い共有者パイプになれるわよ」

「冗談は止めてくださいよ、飲み過ぎじゃないですか、そろそろ帰ります?」



 時計はだいぶ時間を進めていた。



 二十三時を過ぎている。入店してから三時間は経過している。あっというまの時間に自分がこの空間と雰囲気を楽しめていたのだと気付かされた。もう一度、店内を見渡してその理由がわかった。



 誰も彼も、男女問わず、年齢もバラバラな集まりでも全員が楽しく酒を飲み交わして遊戯に耽っている様子を見て、まるで子供にでも戻ってしまったような輝きを見た。僕も酔っているのでそう見えてしまっているだけかもしれないが、まさしく家族という間柄に相応しい水入らずな関係だ。



「そうねー、そろそろ眠いしお暇しようかな。でも海津原君、飲んだでしょう?」



 あ……、しまった。

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