最終話 結婚するって本当ですか

枠ではみんなにチヤホヤされて、楽しい毎日を過ごしている私だけれど、今日も両親から結婚について文句を言われる。


国内はもとより、母の親族や取引先との関係など、海外からの見合い話もたくさんある。


なんかムカつくから、今日はノーブラにタンクトップでエアロビしちゃおうかしら?



いつもの様に飛ぶキラコメとキスマークや花火に囲まれて幸せな気分。

その時、立て続けに10本のシャンパンが飛んだの。しかも同じ人から……。

さすがに気になって、その人のアイコンを見てみる。

黒いレスラーマスクをつけた馬。

ハンドルネームは【クロノス】

初見さんよね?


『クロノスさん!たくさんのシャンパンありがとう〜でも無料だけでも良いからコメントもしてね〜』


すぐにクロノスからのコメントが飛ぶ。

『ワタシハ***に****デス!』

何コレ?伏せ字ばっかりじゃない!

『チガウ!******ナンデス』

あ〜もう!あまり伏せ字出されたら私にまでとばっちり来たらどうすんのよ!!


なんなんコイツ?と思って開いたクロノスのプロフィールにTwitterのアドレスが貼ってあるのを見つけた。


『クロノスさんって海外の方かな?良かったらTwitterをフォローしてくれたら嬉しいな。私は英語とスペイン語なら話せるから、そちらでお話ししましょう』


イタリアやスペインの一部では、乾杯をtin-tinと言ったりもするから、今までも外国語でのコメントが、日本のサイトで伏せ字になる事はあった。

でもここまでの伏せ字って、逆にどんな言葉なのか気になっちゃう。

そんなちょっとした好奇心が、私の運命を大きく変えてしまったのよ。



クロノスからの申請を承認して、彼のTwitterのプロフィールを確認する。固定されたツイートには、羽飾りの付いた黒いマスクにマント姿の写真。なんでも仮面舞踏会の時の写真らしい……。


日本のプロレス好きが高じて、今は名古屋の大学院に留学中らしい。

早速、クロノスにDMを送ってみるまずは〚English OK?〛からスタートした。


気になってた伏せ字には何と書いたのか?

本当に伝えたかった事は何なのか?


答えはすぐに返ってきた。

〚ワタシハ、オマンニチンチンデス〛

〚チガウ!チンチコチンナンデス〛

〚貴女に熱愛してます〛

〚違う!大熱愛です〛と伝えたかったらしい。


さすがに私も声をあげて笑ってしまった。

どうやら四国出身の大学生と、名古屋出身の大学生から教えて貰ったらしい。


それからはDMでのやり取りから、チャットに移行するまでには、大した時間はかからなかった。

彼は優しくて紳士的で…何より話の内容からやんごとなき一族出身だと思われた。


一瞬、以前に同僚が引っかかったっていう、【国際ロマンス詐欺】が頭をよぎったけど、彼の一言がそれを打ち消した。


〚貴女のご実家から内々に縁談の話が来ていました。だからリアルな貴女を一目見ようと、貴女の配信を探し当て、恋に落ちた〛と。



見合い話を蹴り続ける私に両親が、絶対文句言わないだろう相手として、クロノスとの縁談を画策していたらしい。


慌てて積み上げられた縁談の写真や書類を引っ掻き回した。

『あった!!………えっ?』

プロレスマスクをつけて、お揃いのマスクをつけた馬に跨る写真。なんなの?顔写ってないじゃないの!!


釣書には聖帝と呼ばれた初代の国王より、国民に愛される王族の為、クーデター等の心配もまるで無い国の、第三王子であるらしい。


馬上で片手を挙げたクロノスの腕に、目がクギズケになる。

引き締まったレオの腕とは違う、逞しい上腕二頭筋。この腕に抱きしめられる事を想像して、胸がキュンとする。


そういえばレオが結婚すると、風の噂で聞いたけど……少しだけ胸がチクッと痛んだ。


その時、クロノスからのメールを知らせる音で我に帰る。いつまでも未練を引き摺るなんて、私らしくないわ。


クロノスからのメールを開いた。


〚今度一緒にデートしませんか?〛

〚我が国の客船が日本に寄港するんです〛

〚一緒にタイタニックポーズしましょう〛

〚貴女がケイト・ウィンスレットで私がレオナルド・ディカプリオで〛


タイタニックって、昔流行った映画よね?見た事は無かったけど、名前だけは知っている。


クロノスの逞しい腕に抱かれて、タイタニックポーズをキメている自分に、ウットリしながら、タイタニックについての検索画面を、流し見する。


『あ!』

検索画面のひとつに【日本中がレオ様に夢中】ってキャプション。

どうやら主演のレオナルド・ディカプリオの愛称はレオ様らしい。


〚絶対連れてってね。約束🫰〛

そうクロノスに返信してベッドに横になる。


『クロノス…あなたが私の運命のレオ様だったのね』

そう独りごちて、近くにあった猿のぬいぐるみを投げてみる。

それは気持ちいいほどスッポリとゴミ箱に吸い込まれて行った。



[完]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嫌われアヤコの一生 恭梨 光 @mikecyantaichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る