流れ星が起こした奇跡

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 その日の出来事が、私の人生を大きく左右することになったのだが。


 まさか、通学路で誘拐犯に車に詰め込まれる事が、フラグだとは思わなかった。


 フラグっていうのは、旗ではない。


 そういうのに詳しい同学年の子どもたちが、劇的な出来事の前触れの事をそう言っていた。





 流れ星に願いを叶えてもらうのは、とっても大変な事。


 だって、流れ星が見えるのは時々だし。


 めったに見えない事だから。


 見えたとしても、一瞬で消えてしまうから。


 一体だれが、そんな話を広めたんだろうね。


 雲をつかむような嘘の話を。


 そんなのさ。


 絶対にさ。


 どうやってもさ。


 叶えられるはずがないんだよ。


 きっとその話を広めた人はイジワルなんだろうね。


「できるかも」と思って希望を持った人が、絶望するのを楽しく思うような人なんだろうね。


 どんな悪人なんだろう。


 きっと、ものすごい悪人なんだろう。


 そう、目の前にいる人みたいな。


 捕まった私は、縄で縛られることなく、埃っぽい部屋に放置されていた。


 しかし、隣の部屋からは人の気配。


 電話で何か話すような言葉が聞こえてくるが、すぐにその通話は終わってしまった。


「ちっ、わざわざ金持ちの子供を狙ったっていうのに、身代金払ってくれねーじゃねーか」

「「わざわざ処分するのに手間がかかるから困っていたのよ、そっちで処分できるならそうしてちょうだい」ーーだってよ」

「普通、子供を切り捨てるか? 金持ちの思考ってのはわけわけんねぇ。てか借金どうすんだよこれから」


 ラジオの音に紛れて、隣の部屋から言い争っている声が複数。


 けれど、どうだろうか。


 ううん、私の家族ほど悪人じゃないから、そこまでの残酷な事はしないかもしれない。


 絶対に叶わない流れ星の噂を流すなんてこと。


 どう見ても普通の人だ。


 でも、普通の人でも追い詰められたら、何でもしてしまうだろう。


 聞こえてくる話がきな臭くなってくる。


「どこかに捨てるか」

「いや、さっき顔を見られちまった」

「馬鹿、だから帽子とるなっていっただろうが。こうなったら口封じにやるしかないか」


 話し合いが終わったらしい。彼等がこの部屋にやって来た。


「悪く思うなよお嬢ちゃん」

「生かしておいたら、俺達が危ないんだ」

「恨むならパパとママにしてくれ」


 普通な彼等は私を殺そうとしている。


 罪悪感を持っている。


 憐れんだ視線もセットだ。


 なんて普通なんだろう。


 そんな事を考えてしまうくらい、私の家の環境はやばかったらしいと、今更ながらに気付いた。


「最後に何か言い残すことはあるかい」


 私は首をふった。


 奇跡が起きなければ、私はここで死んでいただろう。


 無残な死体になっていたはず。


 けれど、








 隣の部屋のラジオから緊急ニュースが流れた。


「――区域にいる人達は至急避難してください」


 そこで、轟音が空から降って来た。


 何かが地面に衝突して、私達は猛烈な風でもみくちゃにされる。


 しばらく気を失っていたみたい。


 気が付くと、あたりどころが悪かったらしい普通の人達が、あたまから血を流して死んでいた。


 付近に飛び散った建物の建材にぶつけたのかもしれない。


 周囲を見ると、離れた所にクレーターができていた。


 知ってる。


 これは、空から奇跡が降ってきたのだ。


 私は「あはは」と笑いながら、自由になった身でどこかへと歩いていく。


 家には帰らない。


 もう二度と。


 こんな災害だ。人間が一人消えてても、誰も不自然には思わないだろう。


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流れ星が起こした奇跡 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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