第13話 帰還

 明けて一夜、拠点本部へと戻り攻略部隊は本格的に撤収の準備を始めていた。

 あちこちで忙しなく、エルフや王国兵達が行ったり来たりを繰り返してしている。

 撤収作業完了後、派遣されてきたエルフの兵たちはアルヴへ。騎士や兵達は王国へと帰ることになる。

 そんな中ユエとソルの二人はもちろんそんなものは待っていられないと、一足先に帰国しようとしていた。


「では、我々もすぐに帰国致します。馬車と御者を用意してありますのでお使い下さい。いらぬ心配かとは思いますが、どうかお気をつけて」


「すまんの。お言葉に甘えてお先に失礼するとしようかのう。そっちの二人も世話になったの」


 二人が帰国するということで、この場にはシグルズとアルヴィスの二人も、挨拶のためやってきていた。


「ああ、こちらこそ二人には世話になった。借りもできちまったしな。改めて礼を言わせてもらう」


「今回は、お二人を見て己の未熟さが身にしみました。次は是非、稽古をつけてください」


 時間にすれば出会って二~三日といったところだが、共に戦ったということもあっかなかに気安い間柄になってきたところだ。アルヴィスは何か感じるところがあったのだろう、その目はやる気に満ちていた。


「おっ、では次に会う時には漏らさんようにのう!」


「ふふ、オムツを持参すると良いですよ。お姉様の稽古は厳しいんです」


「なっ・・・!アレは違います!もう、いつまでイジるんですか!」


 不用意に口を滑らせてしまったばかりにすっかり定着してしまった不名誉なキャラ付けに憤慨するアルヴィス。むろん冗談なのだが、反応すればするほど相手の弱いところをつつきたくなるのがこの姉妹であった。


「今年いっぱいはこれでイジり倒すつもりじゃ!敵の弱点をつくのは基本じゃからのぅ!」


「敵!?・・・しかも思ってたより長い!」


 イジり甲斐のある相手を見つけたユエの顔はとても楽しそうである。親愛の証といえば聞こえはいいが、それは完全に新しいおもちゃ扱いであった。ユエは基本的にS寄りであった。


「そのへんにしてやってくれ、一応うちの副団長なんだ。」


「仕方ないのぅ、今日はこのへんにしておいてやるわい」


「とにかく、だ。もし王国に来ることがあればウチに顔を出してくれ。きっと何か力になれる筈だ。それと・・・此度の助力、誠に有り難く。騎士団を代表して、お礼申し上げます」


 急に真面目な顔になり、普段とは違う丁寧な言葉づかいで礼を述べるシグルズ。

 騎士団長として、立場上は形を整えておこうということらしかったが、とても似合っているとは言えない。

 少しの間、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になるユエ。ソルは相手の思惑が分かっているためか後ろで微笑んでいるだけである。


「なんじゃ急に気持ち悪い。よいよい、わしらも命令で来ただけじゃしな。王国に言った時はアホほど集ってやるわい!一番高い店で一番いい飯を奢らせてやろう!・・・次に似合う日はそう遠くないじゃろうしな」


 最後にぼそりと付け加えた不穏な言葉はシグルズには聞こえなかったようだ。

 彼は今から、どの店に連れていくのが一番傷が浅く済むかという点で頭が一杯になっていた。


「お手柔らかに頼むぜ、団長の給料なんて意外と高くねぇんだぞ?」


「くふふ・・・恐怖に震えてその日を待つがよいじゃろう!では、達者でのう!」


「何者だよ・・・ああ、またな」


 そう言ってユエとソルはアルヴへと帰国していった。

 さっそく騒いでいるのか、遠ざかる幌馬車の荷台はどたばたと揺れていた。


 ──────────────




 ゴトゴトと揺れながら帰路を進む馬車の中、ユエとソルが会話をしていた。



「お姉様、今回の旅はいかがでしたか?」


「やはり国の外へ出るのは楽しいのぅ!ああ、あやつに美味い飯を奢らせるのが今から楽しみじゃわい!王国にはどんな店があるんじゃろうなぁ」


「ふふ、では?」


「うむ、帰ったらさっそく支度をしようかのう。明日の夜に決行じゃ!わしらの野望の、その第一歩の始まりじゃな!」


「はい!今から楽しみですね、お姉様」


「うむ!・・・唯一の不安は王国騎士団の、団長副団長をして刀を見たことがないと言っておったところじゃな・・・わしの刀、誰も買わんのでは・・・?」


「心配いりません、きっと大丈夫ですよ。それにお姉様は刀の他にも、剣や槍等も作れるのでは?」


「一応、じゃがのぅ。・・・まぁなんとでもなるじゃろ!」


「なんとでもなります!二人で頑張りましょう!」



 こうして馬車はアルヴへとゆっくり進んでいくのであった。

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