閑話 ある<魔女>の奮闘



 世界中の人々の間で恐れられ、み嫌われている<魔女>たちと、その主人である『幽霊船長』の帆船ふね――『トゥオネラ・ヨーツェン』。


 その厨房で今、苛烈な戦いが繰り広げられようとしていました……。


「惚れた男のために料理の腕を磨きたい……その意気やよし! いいだろう、アタシの技術と知識のすべてをアンタに叩き込んであげるよ!」


 調理台の前で気炎を上げているのは赤銅色の髪を後ろで縛っている四十歳の肝っ玉母ちゃん、ターニャさんです。

 彼女は地球から流れ着いた<漂流者>で、夫と娘を本拠地ホームに残し、この帆船ふねの二代目の司厨長コックとして日々この厨房で腕をふるってくれています。なんでも地球にいたころは五つ星ホテル? とやらで腕を揮っていたそうで、各国の料理や食文化に精通していたんだとか。


 そしてもう一人、


「はい! よろしくお願いします、ターニャさん!」


 ターニャさんの隣には、赤みがかった金髪ストロベリーブロンドを紐で縛りサイドテールにした十六歳の美少女が立っていて、両の拳を握りしめ、やる気をみなぎらせていました。…………漲らせてしまっていたのです…………。

 彼女はアリシアさん。この帆船ふね乗組員クルーである<魔女>の中では最古参であり、船長である旦那様……ゴホン、間違えました、イサリ兄さんとは気心の知れた悪友のようなポジションに収まっています。そのため、本人は気付いていませんが、他の<魔女>からは羨望の眼差しを向けられることも多く……、いっぽうで恐れられてもいます。


 その恐れられている理由というのが、


「しかしあれだねぇ……確かにアタシは『腕前を確認したいから、何か一品、試しに作ってみな』とは言ったけれど。『化学兵器を生み出せ』とは言ってないよ」

「化学兵器⁉ よくわかりませんけど、絶対ロクでもない代物ですよねそれ⁉」


 早くも額に脂汗を浮かべてしまっているターニャさんの目の前には寸胴鍋ずんどうなべが置かれていて、その中ではアリシアさんが作った…………スープ? スープですよねあれ? なんか妙にどす黒いですけど……が、ゴポゴポと泡立ち、悪臭を放っていました。


 あれです。あれこそがアリシアさんが恐れられている理由です。


 ……そう。彼女は、料理の腕前が致命的に壊滅的だったのです……。


 彼女の手料理がこれまでに生み出してきた犠牲者の数は計り知れません。

 この帆船ふね乗組員クルーみな、畏怖と恐怖と戦慄と恐れ(全部同じじゃないですか)を籠めて彼女の手料理をこう呼んでいます。


 冒涜的な料理ダークマター、と。


 ……ちなみに命名者は、イサリ兄さん(以後船長と呼びます)です。

 ひょっとしたら『なんで冒涜ぼうとく的?』と思われたかもしれませんが、彼女の手料理は食材に対する冒涜以外の何物でもないからです(キッパリ)。

 あ。一応補足しておきますと、船長が考えたのは『ダークマスター』という呼びかただけで、『冒涜的な料理』という意味である、と勝手に決めたのは、実はカグヤさんだったりします。……何気にヒドイですね、あのチビ仙女も。


「……アリシア。アンタこれ、どうやって作ったんだい? なんか、湯気が当たっただけで目がシパシパするよ? 錬金術でも使ったのかい?」

「普通にジャガモとニンジヌとグリンピスを入れて魚醤ぎょしょうで煮ただけですが……」

「嘘だろう⁉ なんでそれだけでこんな毒物が出来上がるんだい⁉」


 ……『化学兵器』だったのが『毒物』という身も蓋もない表現になってしまいました。


 しかし今更この程度のことで驚くとは。ターニャさんもまだまだですね。

 あのゴギゴギを実際に味わったら、ショック死してしまうんじゃないですか?


「私にもわかりません……。途中まではちゃんと出来ていたと思うんですが……。蓋をして煮込んでいるうちに、こうなっていたんです」

「やっぱ錬金術じゃないのかい……。まあいいさね。アタシの指導は厳しいよ! ついておいで、アリシア!」

「はい! 頑張って最低限おにぎりくらいは作れるようになります!」


 むしろおにぎりを作れないほうがすごくないですか。クオリティにこだわらなければ四歳児のサシャさんでも作れると思いますよ?


 食堂の片隅から厨房のやりとりを見守りながら、わたしが胸中でツッコんでいると。


「……ねーねー、クロエちん」


 向かいの席でグッタリとテーブルに突っ伏している、砂色がかった金髪サンディブロンドの癖っ毛を背中まで伸ばした十四歳のトラブルメーカー、リズさんが話し掛けてきました。


「なんでアタシたち、こんなことになってるんだろうね?」

「愚問ですね」


 わたし――クロエは、母の形見である伊達眼鏡の位置を直しながら、リズさんを睨みます(伊達なのでこの眼鏡に度は入っていません)。


「誰かさんが昨日、くだらない嘘をついたからでしょう。だからそのペナルティとしてアリシアさんの特訓に付き合う羽目になったんじゃないですか。毒見役として」


 実は昨日、船尾甲板クォーターデッキでお昼寝をしていた十一歳の<魔女>、ダリアさんが、寝惚ねぼけて船長に接吻キスをしてしまうという大変悲しい事件があったのですが、目の前のトラブルメーカーは悪戯心から事実とは逆の話を周囲に広めてしまったのです。


 つまり、『船長がダリアさんに強引に接吻キスをした』などという世迷い事を言いふらしたワケですね。


 その結果『トゥオネラ・ヨーツェン』に激震がはしり、初の船内裁判が開かれることになりまして……、みんなが振り回されるカタチとなりました。


 そんなワケで諸悪の根源であるリズさんには、『罰として今日のご飯は三食全部冒涜的な料理ダークマターとする』という沙汰さたくだることとなったのですが……。結果『なんで私の手料理が罰ゲーム扱いされなくちゃいけないのよ⁉ いいわ! みんなして私をそうやって馬鹿にするのなら、意地でも料理の腕前を上げてやるんだから!』と奮起したアリシアさんの特訓に付き合う運びになったのです。必然的に。


「うん、まあ、そーなんだけどねー……。自業自得だって、わかってはいるんだけどさー……。――あれ? でも、アタシはともかく、なんでクロエちんまで?」


 なんで、と訊きますかこの女は。


「誰かさんのくだらない嘘を鵜呑みにし、船長をロリコンと決めつけ、責めた罰だそうです。悪戯を幇助ほうじょしたと見做みなされてしまったんですよ」


 確かに自らの意思で検察官に立候補しましたし、事実確認を怠ったのは迂闊うかつでしたが、この仕打ちは理不尽すぎませんかねツバキさん……?

 というか、わたしと同じく事実確認を怠り、裁判長としてあの裁判を取り仕切ったツバキさんも同罪だと思うんですが?


 くそ……あのお○ぱいオバケめ……。


「自分はいつも協定のグレーゾーンギリギリを攻めて旦那様とイチャイチャしてるくせに……。巨乳だからって調子に乗りやがって」

「地が出てるよー、クロエちん。……なんかゴメンね……。正直アタシもさ、あんな大事になるとは思わなかったんだよねー。……てかさ、アタシが言うのもなんだけど、なんで誰もセンチョーやダリアちんに事実確認をしないワケ? 誰かが確認さえしていたら、アタシの嘘なんかすぐにバレて、あの裁判が開かれることも無かったと思うんだけど」

「旦那さ……船長が女の子に接吻キスをしたと聞いて皆さんが冷静でいられると思いますか? 正常な判断力なんて望むべくもないでしょう」

「あー……あのナズナ姉ちゃんですら、弁護人に立候補しておきながら船長と裁判前に打ち合わせをするという発想に至らなかったみたいだしねー……」

「……どうでしょうね。食えないヒトですから。彼女の場合、最初から全部わかってたけど、船長に『私だけはあなたの味方よ☆』ってアピールするために、えて黙ってたのかもしれませんよ?」

「アハハ、流石にそれは考えすぎでしょー。………………。考えすぎだよね?」


 どうでしょうね。わたしは黒だと確信していますけど。いえ、根拠はありませんが。


「まあ、でも、よかったです。船長からダリアさんに接吻キスしたワケではなくて」


 わたしに手を出す前にわたしの腹心に手を出していたら、船長を刺してわたしも海に身投げしていたところです(ちなみにわたしはこの帆船ふねの『主計長パーサー』で、ダリアさんはわたしの補佐ということになっています)。


「……クロエちん、そんなにセンチョーのことが好きなくせに、なんで普段はあんなにつっけんどんな態度なの?」

「ツンデレなので」

「……ヤンデレじゃなく?」

「失敬な。わたしはそこまで危険な存在じゃありませんよ。別にあのヒトを独り占めするつもりはありませんし。正妻や第一夫人といった立場にもこだわりませんしね。……まあそのぶん、万が一あのヒトが『クロエをお嫁さんにするつもりは無いよ』とかほざくようなことがあったら、そのときはこの帆船ふねを沈めて皆さんにも心中に付き合っていただきますが」

「う、ううーん……、判断の難しいところだなぁ……」


 とか言っているうちに、厨房のほうでは既に奮闘が始まっていたようです。


「いいかい、今伝授しているのは『アノマロカリスのしんじょう揚げ』の調理法だ! 元々は船長サンが食わず嫌いしていた料理だが、最近になって『意外とイケる……かも?』と口にするようになった料理だよ! コイツなら他の嬢ちゃんがこれまでに作ったモノと比較されることもない! そこそこの完成度のモノを作ることが出来れば、その時点で褒めてもらえるって寸法さ!」

「素晴らしいですターニャさん!」

「よし、アノマロカリスの触手を頭部から切り離したね⁉ なら、ソイツの殻を剥いて1㎝幅に切り、すり鉢に入れて滑らかになるまでるんだ!」

「出来ました!」

「え、もう⁉ ちゃんと擦ったんだろうね⁉」

「私、<魔女>としてのチカラで一時的に腕力を底上げ出来るんで! 全力で擦りました!」

「……擦りすぎだよ! 滑らかを通り越して完全なクリーム状になってるじゃないか!」

「え、ダメでしたか⁉」

「初めて見たよ料理で<魔女>としてのチカラを使う奴! やり直し!」

「(´・ω・`)」


 ………………。予め飲んできた胃薬の効き目が切れるまでに完成してくれますかね、あれ。

 ていうか、『アノマロカリスのしんじょう揚げ』なんてこじゃれたモノじゃなく、最初はそれこそおにぎりとかから始めたほうがいいんじゃないかと個人的には思うのですが。


「アリシア姉ちゃん……。真面目にやりなよ」


 リズさんに真顔で『真面目にやれ』と言われるなんて……、これ以上の屈辱があるでしょうか(失礼)。


「今度こそ出来たね⁉ それじゃあそれに卵白1個分、片栗粉小さじ2、アタシが予め擦りおろしておいたヤポネシア芋30g、塩と酒をそれぞれ少量加えて、よーく混ぜ合わせるんだ! <魔女>のチカラを使うんじゃないよ!」

「少量⁉ 少量ってどれくらいですか⁉ なんで片栗粉みたいに小さじで言ってくれないんですか⁉」

「あーもうっ。料理ってのは、えてしてそういうものなんだよ! この場合の少量ってのは、常識の範囲内でお好みに合わせて微調整してくださいってことなんだ!」

「わかりました! 私のほうでどれくらい入れるか決めていいんですね!」

「って、こらーっ! なんで酒をなみなみと注いでるんだい⁉」

「え、その、イサ……船長をていよく酔わせられないかなーって」

「船長サンを酔わせて何をするつもりなんだいアンタは⁉」

「何って……ナニです」

「ナニって何⁉ あーもうっ、いいからやり直し!」


 ………………。念のため予備の胃薬を貰っておいて正解だったかもしれません。


「アリシア姉ちゃん……。ホント真面目にやって。頼むから」


 リズさんの目がわってきました。口調もマジトーンです。あのリズさんをここまでマジにさせるとは……、大したものです。


「で……出来たね? それじゃあタマネグをみじん切りにして、水にさらしたあと水気を切るんだ。で、それをさっきのすり鉢に加えて混ぜ合わせ、一口サイズに丸めな。丸めたヤツは、鍋に油を引いて140℃くらいに熱し、きつね色になるまで揚げるよ。途中、よく混ぜて揚げムラの無いようにするんだ」

「わかりました!」

「それが出来たら、次は甘酢を作るからね。鍋に酢と魚醤、砂糖を入れて火にかけ、沸騰したら――」

「あの……」

「? なんだい?」

「なんか……こうなっちゃったんですけど」

「な、なんだいこれは⁉ 黒い! いや、黒いなんてモンじゃない! 暗黒! そう、これは暗黒だ! 光を吸収している……⁉」

「焦げちゃったのかしら……」

「焦げた……? いや、これは消し炭というより、もはや暗黒物質……! 何をどうしたら、たったの数秒でこんなモノを生み出せるんだい⁉」

「言われたとおり揚げていただけなんですけど……」

「マジで錬金術とか使ってるんじゃないだろうね⁉」


 ………………。錬金術ではなく、むしろ黒魔術とか呪術とかなのでは?

 ある意味<魔女>っぽいと言えば<魔女>っぽいですが。


「アリシア姉ちゃんの馬鹿アリシア姉ちゃんの馬鹿アリシア姉ちゃんの馬鹿……」


 リズさんはテーブルに突っ伏して、呪詛じゅそを延々呟き続けています。

これ、もうほとんど心が折れかけていますね。……まあ、わたしもですけど。


「……アリシア。予定を変更するよ」


 ターニャさんはアリシアさんの肩に手を置くと、重々しい口調で告げました。


「アンタにはまず、おにぎりの作りかたから伝授する」



 ……最初からそうするべきだったと思います。






                  ☽






「というワケで、出来上がったおにぎりのひとつがこちらになります」

「おに……ぎり……?」


 リズさんに代わってわたしの向かいに着席した船長が、テーブルの上に置かれた物体をしげしげと見下ろし、初めて聞いた言葉を反復するような口調で呟きます。


 今、彼の前にはひとつの皿が置かれていて、おにぎりがちょこんと載っているのですが……。


「これ、本当におにぎり? この表面に巻かれているの、海苔のり……なんだよね? いや、でも、海苔ってこんなに真っ黒なモノだったっけ? これ、もはや光を吸収してない? ていうかこの形、これ、もうほとんど真球に近いんじゃ? ってくらい真ん丸なんだけど……。手で握ったの、これ? ヒトの手で、ここまで見事な球体を生み出せるモンなの?」


 気持ちはわかりますが、わたしにツッコまれても困ります。


「お米と塩と海苔と、あと具の昆布こんぶしか材料に使われていないことは確認済みです。なので、出来上がったモノは一応おにぎりであるはずです」

「『一応』とか『はず』とか言っている時点でキミも内心疑ってるじゃねーか」


 言って船長はチラリと厨房を見遣みやり、


「……あれ、大丈夫なの?」


 調理台に突っ伏しているターニャさんとアリシアさんを見て、不安そうに訊ねてきました。


「ああ、あの二人なら単に疲労でグッタリしているだけなので、そこまで心配は要りません。何しろ、それなりの出来のおにぎりを作れるまで、五十回近く作り直していましたから。……まさに奮闘でした」

「おにぎりって作るのに奮闘しなきゃいけないような代物だったっけ⁉ え、待って、ボクが知らなかっただけで、地球のおにぎりとこっちのおにぎりでは、実は全く別の代物だったりする⁉」

「何を起きた状態で寝惚けたこと言ってるんですか。今、お米と塩と海苔と昆布しか使っていないと言ったばかりでしょう。それともなんですか、地球のおにぎりはパンと砂糖と卵と牛乳で出来ているとでもいうんですか」

「それフレンチトースト! 相変わらずボクには辛辣しんらつだなキミ! 目すら合わせてくれないし!」


 すみません。ツンデレなので。

 実のところ、こうしてあなたと向かい合ってお話ししているだけで心臓がバクバクいって爆発しそうなんです。赦してください。わたしなりの照れ隠しなんですよ、これ。


「……って、そういえばリズは? 姿が見えないけれど」

「彼女なら医務室です。山と積まれた試作品に果敢に挑むも、あっけなく散りました。たぶん、今日明日は動けないのではないでしょうか」

「Oh……」

「出来上がったモノは一口ずつしか口にしなかったこともあって、途中までは頑張って耐えていたのですが……、そんなリズさんも十個めでとうとうダウンしてしまいました」


 ある意味、今日一番奮闘したのは彼女かもしれません。

 彼女なりに責任を感じたのか、私に気を遣い、私の前に置かれた試作品も試食してくれましたし。……トラブルメーカーですが、悪いコではないんですよね。


「十個めでダウン⁉ すごい! 一個めでダウンさせなかったなんて! 成長したなアリシア!」

「まあ、最初のほうはターニャさんがだいぶ手伝っていましたからね」

「……おにぎりって手伝う余地ある?」


 作ろうとしているのがサシャさんみたいな四歳児とかならあるんじゃないでしょうか。

 アリシアさんは十六歳ですが。


「……で、さっきから気になってたんだけどさ。なんでボクはここに連れてこられたワケ?」

「言ったでしょう、『アリシアさんはおにぎりを五十回近く作り直していた』『リズさんも十個めの試食でとうとうダウンしてしまった』と」

「…………で?」

「算数が苦手ですか? 試作品はまだ四十個近くあるんですよ……」

「………………で?」

「察しが悪いですね。そんなだから皆さんに鈍感だの朴念仁だの言われるんですよ。――試食を手伝ってください」

「なんでだよ! イヤだよ! ボク、言わば例の裁判の最大の被害者だよ⁉ なのになんでそのボクがキミたちのペナルティを一緒に背負わなくちゃいけないワケ⁉」

「いいじゃないですか。ほら、以前、わたしたち全員を庇うために、船長お一人で大量の冒涜的な料理ダークマターを平らげてくださったことがあったでしょう。あのときのことを思えば、今回の罰ゲームなんて臆するほどのモノじゃありませんて。今回はターニャさんの監修も一応入っているワケですし」

「既にリズが医務室送りになってるんだけど⁉ それを聞いて臆さないなんて無理だよ!」

「いいから食え! わたしと一緒に地獄に落ちましょう! アリシアさんが誰のために奮闘したと思ってるんですか!」

「何その微妙にヤンデレっぽいセリフ⁉ てか、少なくとも今回はボクのためじゃないよね⁉ あの裁判でみんながアリシアの手料理を罰ゲーム扱いしたから、見返すためだよね⁉」

「イサリ兄さんだって一緒に馬鹿にしていたでしょう! 被告人として証言するとき『嘘だったらアリシアの手料理ダークマター以外のモノは死ぬまで口にしないとお約束しましょう(キリッ)』とかなんとか言ってたじゃないですか! そもそも『ダークマター』の名付け親はイサリ兄さんでしょうに!」

「『船長』じゃなく『イサリ兄さん』になってるぞ。……って、ヤメろ! ボクの口の中に無理矢理突っ込もうとするんじゃない! イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっもうあのゴギゴギは味わいたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」




 ……そんなワケで。


 奮闘むなしく、今回の特訓によりアリシアさんの料理の腕前が上がることはありませんでした。

 最終的にわたしと船長は揃って逃亡したため、なんとか医務室送りだけは免れたのですが、それを知ったアリシアさんは完全に拗ね、『今度こそみんなを見返してやるわ!』とますます燃えてしまい……、


「ターニャさん! お願いします、もう一度私に料理を教えてください! 今度は口の中で爆発しないおにぎりを作れるよう頑張りますから!」

「イヤだよ! 普通はあの材料を使って爆発するおにぎりを作るほうが難しいんだって! ていうか不可能なはずなんだよ! アンタは金輪際、厨房に立たないほうがいいって!」


 ……冒涜的な料理ダークマターを巡るアリシアさんとターニャさん、そして毒見をさせられるだろうわたしたちの奮闘たたかいは、これからもまだまだ続きそうです……。


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