♯37 月に棲みついた巨獣と、荒涼の地で戦った(後編)



「ルーナ。もう夜も遅い。お主は先に休め」


 一人『トゥオネラ・ヨーツェン』の甲板デッキの端にたたずみ、夜の黒い海に浮かぶ小さな島影をもう何時間も見つめ続けているいじらしい背中に、わらわがそう声を掛けるのはこれでもう何度めかの?


「何度も言うがの、旦那様のことなら心配は要らん。そもそも『<魔女>殺し』が本当に現れるとは限らんのじゃ。それに仮に現れたとしても、あの『深きものども』が合体した化け物すらたおした旦那様じゃぞ? 絶対負けはせん」


「………………」


 反応無し。


 あ、あれ? この童女わらめ、こっちへ振り返るどころか返事すらせんぞ?

 一応これまでは生返事くらいはしてきたんじゃが……。

 ――はっ⁉ もしや立ったまま寝てしまったのか⁉

 い、いやいや、確かにコヤツの言動にはときどき吃驚させられることがあるけども、流石にそこまでぶっ飛んではおらんじゃろ。

 ……おらんよな?(汗)


「る、ルーナ? ひょっとして寝ちゃっ――」


「……ツバキさん」


 そこでようやくルーナが振り返り、妾を見た。

 どうやら寝ていたワケではなかったようじゃ。

 やはりそこまでぶっ飛んではおらんかったか。良かった良かっ、


「今、神様の声が聴こえました」


 ――なんかぶっ飛んだこと言い出した!


「いえ、正確には神様を名乗ったワケじゃなく、わたくしが勝手に神様なんじゃないかなと思っただけなのですけども」


 旦那様ぁぁぁぁぁぁ! 早く帰ってきてあげてぇぇぇぇぇぇ! ルーナが! ルーナが、旦那様がいない淋しさでおかしくなっちゃったぁぁぁぁぁぁ!


「むー……。なんだかツバキさんに、とぉっても失礼なことを思われている気がしますっ」


 いや知ってる人間が突然『神様の声が聴こえた』なんて言い出したら、妾じゃなくてもドン引きすると思うんじゃけども……。


「そ、それで? その神様? は、なんて言っておるんじゃ?」


 妾が(震える声で)取りつくろうように訊ねると、ルーナは自分でも半信半疑なのかちょっぴり言いにくそうにこう答えおった。


「えっとですね……、神様? が言うには、あの島にいる方々をみんな今からここに『てんい』させてくださるそうです」


 てんい。

 ……転移?

 瞬間移動とか、空間跳躍とか、そういうヤツ?

 ………………。えーと、


「ここに……って、この帆船ふね甲板デッキに?」

「はい。まずはあの島にいる<魔女>とそのご家族の皆さん。次にカグヤさん、アリシアさん、シャロンさん。そして最後にイサリさまという順番で、だそうです」

「………………。なんで?」

「なんか、あの島が消し飛ぶ可能性が高いらしいです」

「          」


 妾、絶句。


「なんでもイサリさまは今、トンデモなく恐ろしい敵と戦っているらしく……。イサリさまが最後に放つ一撃はおそらくあの島を消し飛ばすことになるだろう、と。だから神様? が、皆さんをここに退避させてくれるそうです」


 何やっとんの旦那様……。

 そして何をやろうとしてんの。

 え? 『トンデモなく恐ろしい敵』って『<魔女>殺し』のこと? まさか本当に現れおったのか⁉


 い、いやいや。待て。落ち着くんじゃ妾。こんな与太話よたばなしを真に受けてどうする。あれじゃ。この童女、やっぱ妾が話し掛けるまで立ったまま寝ていて、変な夢でも見たんじゃろ。


「ですので、ツバキさんは急いでこの帆船ふねを移動させるようにと、神様? はそうおっしゃっています。あの島からもっと離れないとこの帆船ふねも危険だそうです。あっ、しょーげきは? からこの帆船ふねを守るために、こっちの島を盾にする位置取りで帆船ふねを移動させるように、とのことです」


 名指し⁉

 妾、ルーナを介してとはいえ神様に名指しで指示されちゃったの⁉


「い、いやまあ、この風なら不可能ではないけども。しかしじゃぞルーナ、突然そんなことを言われても正直信じられんのじゃが」


 そのとき。


 妾とルーナのすぐそばに、蒼い巨大な光球が突如発生し、宵闇の暗黒をほんの数秒蒼く染め上げおった!

 そして、その光球がシャボン玉のようにはじけて消えると、


「きゃあ!」


 数秒前まで間違いなく誰もいなかったはずの虚空に、あのリオンとかいう女が出現して、そのまま落下。甲板デッキの上に尻餅をつく。


いったーい……。何が起こったの? なんか今、蒼い光が目に飛び込んできたと思ったら、身体を持ち上げられたような感覚が……」


 尻をさすりながら立ち上がり、キョロキョロと甲板デッキを見回して、「えっ⁉」と頓狂とんきょうな声を上げるリオン。


「どこ、ここ⁉ 帆船ふねの上……? 私、いつの間にかいなくっていたシャロンやイサリくんたちを捜していたはずなのに……、なんでこんなトコに⁉」


 そして目を丸くしてポカンとしている妾とルーナに気付くと、「あらっ?」とあちらも目を丸くする。


「あなたたち、確かイサリくんの……。あっ、ひょっとしてこれ、イサリくんの帆船ふね⁉」


 ……よーく見ると、


「きゃあ!」

「うわぁ⁉」

「な、なんだぁ⁉」

「どこだここ⁉」


 甲板デッキのあちこちで蒼い巨大な光球が出現し、中からあの島にいたはずの連中が次々と現れとる……。


 当然といえば当然なんじゃけども、妾と一緒に当直ワッチに当たっていた乗組員クルーたちは全員、何が起こったのかわからず『なんじゃこりゃああああああ⁉』とパニック状態じゃ……。


「ねえ、なんで私たち、ここにいるの⁉ 娘やイサリくんたちはどこ⁉ あなたたち、何か知ってるんでしょう⁉」


 こちらの制服の襟を掴み、ガックンガックン前後に揺さぶりつつ詰問してくるリオン。

 妾とルーナは見つめ合う。


「えーと……じゃな。これって、」

「……たぶん神様? が仰っていた『てんい』ではないでしょうか」

「つまり……」

「あの島が消し飛ぶというのも本当なのでは……」


 ……マジかああああああああああ⁉


「っ、おまえたち! 持ち場につけ! 展帆てんぱん準備!」


 妾は男衆に指示を飛ばし、自分も持ち場につこうとしてふと「あ。」と思い立ち、最後にもうひとつだけルーナに訊いておくことにした。


「そういえばルーナ、お主に話し掛けてきた神様? なんじゃが」

「はい」

「神様を自称したワケではないんじゃよな?」

「はい。神様というのはわたくしがそうなのかな? と思っただけです」

「なんも名乗らんかったのか?」

「……いえ。名乗られてはいました」

「え。名乗ったのか? なんて名乗ったんじゃ?」

「わたくしに話し掛けてきたのは、」


 ルーナはそこで一呼吸置いて、妾の問い掛けに答えた。


「――さん、と仰るかたでした」






                 ☽






種を摘み取るものスピーシーズバスター>スーザンが言ったとおり、例のあかい光で出来た鎖だけでなく、この亜空間のおりもまた、そろそろ限界だったらしい。

 ゴゴゴゴゴ……という腹の底まで響くような地響きが徐々に強まっていて、荒涼の大地に地割れが広がっていく。

 また、曇天が広がっていた空にもヒビ割れが生じ、パラパラと黒雲の破片が落ちてきていた。

 大地や空に生じた亀裂部分からは、現実世界とおぼしき夜天やてんと砂浜が覗いている。

 このままではあと一刻も経たないうちに、『月棲獣げっせいじゅう』は現実世界に解き放たれてしまうだろう。



 グルルルルルッ!



 当の『月棲獣』は低く唸り、先程からずっとこちらを威嚇していた。


「……へえ。わかるんだ――この籠手ガントレットの恐ろしさが」


 まあ、ボクの両腕に発現した黄金色こがねいろ金属彫刻エングレーブが目を惹く留紺とまりこん籠手ガントレットの性能を思えば、脅威に感じるなというほうが無理だろう。

 何せ、発現と同時にボクの頭の中に流れ込んできたこの籠手ガントレットに関する知識――取り扱い方法や機能などのデータ――に、ボク自身ドン引きしたくらいだ。



 ギャオォォォォォォォォォォッ!



 不意に巨獣が吼え、鼻から伸びる無数の触手を槍衾やりぶすまのようにこちらへと降らせてきた。

 先程までは跳んでかわすしかなかったそれを、ボクは、


「はあっ!」


 籠手ガントレットからほとばしっていた蒼白いプラズマを10m近い長さの刃へと変えて、ことごとく斬り飛ばす。


 その場から一歩も動くことなく、だ。



 ギャオォォォォォォォォォォッ⁉



 驚愕と苦悶の悲鳴を上げる巨獣。


「間違いない……。あれは双聖の神器ツイン・セイクリッド・アームズだ……」


 ボクの両腕に装着された籠手ガントレットを見つめ、カグヤが唸るようにひとちる。


「だんなさまの窮地きゅうちで起動するようマリナが予めプログラムしておいたのか……」


 ……マリナ?

 誰だ?

 もしや、ボクがあの今際いまわきわで聴いた残留思念こえの主だろうか?


「カグヤ。そのマリナというのは――」


 その質問を最後まで紡ぐことは出来なかった。


「きゃああああっ⁉」

「な、なんですかこれぇ⁉」


 アリシアとシャロンの姿が、突如発生した蒼い巨大な光球に呑み込まれ、掻き消えてしまったのだ。

 いや、二人だけではない。カグヤの姿も同様に蒼い光球に呑み込まれようとしていた。


「アリシア! シャロン! カグヤ!」

「大丈夫! わたしたちのことは心配しないで旦那様!」


 慌ててカグヤのもとへ駆け寄ろうとするも、制止されてしまった。


「これはマリナ……がわたしたちを安全な場所へ転送しているの! 旦那様が心置きなくその籠手ガントレットのチカラを解放できるようにね! どうやら島にいた人間は全員、安全な場所に避難を済ませたようだから! 旦那様は全力でソイツを斃して! スーザンと――」


 と、そこでカグヤの姿も完全に掻き消えてしまう。


 あとに残ったのは、ボクとスーザンの二人だけだった。


「もう一人の仙女……?」


 カグヤの他にも仙女がいるというのか?

 けど、いったいどこに――


「今は目の前の敵に集中することだ、我があるじよ」


 戸惑うボクのかたわらに地を蹴って跳んだスーザンがふわりと着地し、いさめてくる。

 ……のはいいとしても、


「『我が主』?」


 誰のこと?

 …………え、ボク⁉


「そうだ。我は、汝を新たな主に相応しいと認める。我がチカラ、存分に揮うといい」


 ……あれ? ちょっと待って。


「キミの声、肉声になってない……?」


 ついさっきまで、頭の中に直接届くテレパシーっぽい声だったよね……?


「ヒトの子らがいなくなったからな。肉声に切り替えた」

「え、何、造物主キミたちって、『創造物ヒトの前じゃ肉声で喋っちゃダメ』みたいなルールでもあるの?」

「別にそんなルールは無いが。我らの言語で喋っても、ヒトの子らには通じんからな。さっきまではヒトの子らの言語を使っていたのだ。……で、思念伝達のほうがヒトの子らの言語を正確に紡げるゆえ、使わせてもらっていた」

「……ん? ってことは、ひょっとしてキミ、今は造物主キミたちの言語で喋ってるの?」

「そうだ」


 ええ……? じゃあ、なんでボクは彼女と会話が出来てるんだ……?


「……いや。そうか。『バビロンの実』を食べて手に入れた自動翻訳スキルのお陰か」

「さあ、お喋りはここまでだ。さっさと我がチカラを揮い、あの混沌の獣を斃すのだ、我が主よ」


 そ、そう言われても……。


「……確かにこの籠手ガントレットには造物主キミたちのチカラを揮う機能があるみたいだし、その使いかたも不思議とわかるけれど……」

「けれど?」

「その……ボクの頭に勝手にインストールされた知識によると、ボクがキミのチカラを揮うには、キミと『主従の契約』とかいうのを交わす必要があるみたいなんだけど? ボク、人間だよ? 人間を主として仰ぐのって、キミ的に問題無いの?」

「無い」


 無いんだ……。


「だとしても、どうやって契約を交わすのさ? 契約を交わす方法までは、インストールされた知識の中に無かったのだけれど。……っと」



 ギャオォォォォォォォォォォッ!



 巨獣が咆哮とともに再度繰り出してきた触手を、スーザンをお姫様抱っこして、バックステップで躱す。

  ……って、あれ?


「ちょっと待て! 触手はさっき全部斬り飛ばしたはずだぞ⁉ なんで元に戻ってるんだ⁉」

「再生したのだ」


 ボクの疑問に、イヤがるかと思ったら意外と大人しくお姫様抱っこされているスーザンが答えた。


「あの混沌の獣の一番厄介なところはその図体ではなく、驚異的なまでの再生能力なのだ。あの程度の傷であれば一瞬で回復してしまう」

「な……。そんなのどうやったら斃せるんだ⁉」

「知れたこと。奴をちりも残さず消し飛ばすのだ。一撃で――圧倒的な力でな」

「圧倒的な力……」

「そう。我がチカラ――『衝突の冬』インパクト・ウインターのような、な。言っただろう? 『我がチカラ、存分に揮うといい』と」

「……いやでもキミが降臨したときのセリフから察するに、その『衝突の冬』インパクト・ウインターってのは、かつて地球に小惑星を衝突させて恐竜とかを絶滅させたチカラなんだよね?」


 うろ覚えだけれど、衝突した小惑星の大きさは直径10㎞を軽く超え、衝突時のエネルギーは広島に落ちた原子爆弾の約10億倍で、直径160㎞近いクレーターを生み出したとか聞いたような気が……。

 衝突地点で発生した地震の規模に至ってはマグニチュード11以上、生じた津波の高さは300m近かったという記述を見た記憶もあるのだけれど……。


「うむ」


『うむ』て。


「揮えるかぁ! そんな恐ろしいチカラ! 一歩間違えなくても大惨事だぞ⁉」

「大丈夫だ、汝なら必ず『衝突の冬』インパクト・ウインターのチカラを制御できる。混沌の獣を斃すのにちょうど良いサイズの隕石を召喚することが出来るだろう」

「ほ、本当かなぁ……」

「我もサポートはする」

「てか、それで斃せるのなら、何故キミはアイツに勝てなかったんだ?」

「いろいろ制約があってな。我らは自身のチカラを好き勝手には揮えんのだ」


 造物主カミサマってのも意外と不自由なんだな……。


「自分で好き勝手に揮えないチカラを、ボクに揮わせてしまっていいワケ?」

「構わん。汝はそのために『現在いま』『ここ』へと導かれたのだから」

「………………」

「それに、確かにその籠手ガントレットには『主従の契約』を結んだ相手のチカラを揮う機能があるが、揮うには都度相手の許可が必要だ。汝の意思だけで我らのチカラを好き勝手に揮えるワケでもないしな」

「……でもさ、キミと『主従の契約』とやらを交わす必要があるんだろう? どうやって契約を交わすのさ?」

「簡単だ。こうすればいい」

「えっ? ……むぐっ⁉」


 ちょっ……この造物主カミサマ、いきなり接吻キスしてきたんですけど⁉


 って、待って待って待って舌でこっちの唇を強引にこじ開けないで舌を入れてこないで舌で舌を押さえないで「ふうぅぅぅぅ」って肺に熱い吐息を送り込まないでイヤアアアアアアこれもうほとんどベロチュウじゃんカグヤとだってまだしてないのに!


 ああああお姫様抱っこで両腕が塞がっているから引き剥がすことも出来ないっ!


「フフ……。これで『主従の契約』、すなわち『魂魄タマシイの婚姻』は完了した。、末永くよろしく頼むぞ、『旦那様』」


 唇を離し、お互いの口と口の間に引いた唾液の糸を拭いながら、スーザンはそう言って悪戯っぽく笑う。

 それはこのぶっきらぼうな造物主カミサマが見せた、初めての笑顔だった。

 人間の少女と何も変わらない、少しだけ照れの混じった愛らしい笑顔。


「くっ……」


 造物主カミサマにこんな感想を抱くのは不敬かもしれないけれど、こうして見るとやっぱ美人だな、このコ。


 とか思っているうちに、スーザンの姿が紅い光の膜に包まれて変化する。


「えっ……スーザン⁉」


 気が付けばスーザンは、掌に収まるサイズの紅いロザリオへと姿を変えていた。

 スーザンにそっくりな聖母の彫刻が施されたロザリオだ。

 そしてロザリオは空中にふわりと浮かび上がると、そのままボクの胸へと吸い込まれるように消える。


「これは……」


 感じる。ボクの魂魄タマシイにスーザンが『宿った』のを。

 ――ボクの中にスーザンがいる。

 これが――『主従の契約』。『魂魄タマシイの婚姻』……。


 ……って、


「婚姻⁉ 伴侶⁉ 末永く⁉ ちょっと待ってそれってどういうこと『主従の契約』っていうからボクもっと違うモノをイメージしていたんだけど、ていうか婚姻なのに主従って表現はどうなんだというかカグヤ的にこれはOKなのか⁉ というか勝手に話を進めないでほしいんだけど!」



 ギャオォォォォォォォォォォッ!



「あーもうっ、うるさい! おまえのせいで、なんかややこしいことになっちゃったじゃないか!」


 こうなりゃ自棄やけだ! やってやる!


 ボクは巨獣の触手をくぐり、もう一度バックステップで距離を取ると、左腕に装着された籠手ガントレットの表面に浮かぶ白鳥をかたどった純白の光芒を指で押す。

 すると光芒が光の文字列へと変化した(なんか液晶画面みたい)。




 ――『使用する神威かむいを選択してください。

     現在使用可能な神威かむいの数:3

     ・<Gaia system>:「♊」Deirdre

     ・<Daisyworld program>:「♓」Mercy

     ・<Impact winter>:「♉」Susan』




 ………………。なんかいろいろと気になる点があるけれど、ひとまず気にしないことにして、<Impact winter>をタッチする。

 すると、




「衝突の冬」インパクト・ウインターインヴォーグ――隕石召喚メテオストライク




 頭の中にスーザンの思念こえが響いて、同時に左腕の籠手ガントレットに浮かんでいた光の文字列が消え、代わりに『Ⅹ』という文字が浮かんだ。

 そして文字は『Ⅹ』から『Ⅸ』へ、そして『Ⅷ』へと、次々と表示を変えていく。


神威かむい体現闘法たいげんとうほう漁火いさりびけん>――」


 バチバチバチッ!


 ボクは巨獣と、その背後、虚空に生じた亜空間の亀裂から覗く現実世界の砂浜を見据え、右腕の籠手ガントレットからほとばしる蒼白いプラズマを拳に収束させる。

 そして一足飛びで巨獣の懐に飛び込むと、


「――『電光石火でんこうせっか』!」


 その胴体に、これまでとは比較にならない規模のプラズマをまとった渾身の一撃を叩き込んだ。



 ギャオォォォォォォォォォォッ⁉



 先程のようにその白い脂ぎった皮膚ではじき返せるものと高をくくっていたらしい巨獣は、しかしボクの一撃でアッサリ吹き飛ばされると、虚空に生じた亀裂から現実世界の砂浜へと押し出される。


 同時にボクの左腕の籠手ガントレットに浮かんでいた表示、カウントダウンが、『Ⅰ』から『0』へと変わった。


 偶然にも、その瞬間、完全に砕け散り消失する亜空間の檻。

 そして先程カグヤたちを安全な場所へ転送したあの蒼い巨大な光球が今度はボクを包み込み、不思議な浮遊感とともにどこかへと運ぶ。


 転移する直前、ボクが最後に見たのは、現実世界の砂浜で『電光石火』のダメージに悶え苦しむ巨獣の姿。

 そして、そんな巨獣を容赦なく圧し潰す、夜天から飛来した直径20mはあろう巨大隕石だった。




 ――その日、ひとつの小さな島が地図から消えることとなった。


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