閑話 それは少しだけ未来の(イチャイチャ)話①



 甲板デッキよりも少しだけ蒼穹そらに近い場所――30m近い高さがある一番前の帆檣フォアマストの、真ん中よりもやや上のほう。

 半月状の『檣楼しょうろう』と呼ばれる見張り台にて。


「ねーねーセンチョー。……なんかあったの?」


 ここまで登ってくるやいなや腕を組んで仁王立ちし始めたボクを怪訝に思ったらしく、がそう訊ねてきた。


 砂色がかった金髪サンディブロンドの癖っ毛を背中まで伸ばしたこの十四歳の女の子の名前はリズ。

 少し前にボクが出逢い、紆余曲折を経てこの船の一員になった<魔女>の一人だ。


 当然、彼女もツバキたちのように女性乗組員クルーの制服である『セイラー服のえりがついたスクール水着モドキ』を身に着けており、一部の女性陣が初対面で『ほ……本当に十四歳なの……?』と戦慄し顔を引き攣らせた実績を持つその胸には、ミミズがのたくったような字で『るっくあうと』と書かれたゼッケンが縫い付けられていた。


 ルックアウト。要は見張りである。


 視界が良好なら10海里――つまり約20km先の水平線すら見通すことが出来るこの檣楼から、暗礁などの障害物や他の船、目的地などが見えないか見張ること。それが彼女の役割だ。


 この帆船ふねは『四時間働いたら八時間休む』というサイクルで一日二回、計八時間働く『三直制』という勤務形態を採用している。そのためみっつの班が存在するのだが、今はリズが所属する『第2班』が当直ワッチを務めていた。


 だから彼女が見張り台ここにいるのは何もおかしくない。

 が、


「なんでセンチョーがここにいるの?」


 リズの言うとおり、船長のボクがここにいるのは、本来であればおかしい。

 別に『船長が見張り台にいちゃダメ』なんてルールは無いが、どんな船であっても船長自ら見張りをするなんてことは通常あり得ず、ボクがここにいることにリズが疑問を抱くのは当然だ。


 答えが気になる、どうしても知りたいと思うのは仕方ない。

 でもね……、


「ねーねー、なんで?」


 二歳ふたつしか違わない異性の腕に自分の両腕をからめ、ほとんどすがるみたいに身を寄せてグイグイと自分のほうへ引っ張り、こっちの気を引こうとするのは、正直どうかと思うんだ。


 ほら、当たってる! 当たっちゃってるんだってば!

 ……どこがとは言わないけれど。


「リズ。キミにはこれが見えないのかな?」


 ボクはそう言って、首からげていたひもの付いた木の板を見せる。


「んん? なんか書いてあるね。えーとなになに……『私は罪作りな男です』? …………何これ?」

「知らない。こっちが訊きたいくらいだよ」

「……これってアリシア姉ちゃんの字だよね?」

「うん」

「……何があったの?」


 さーて、どう説明したものやら……。


「今日の朝食ってさ、作ってくれたの、ナズナさんだったじゃん?」

「うん。みんなで話し合った結果、『司厨長コックのターニャおばさんをたまには休ませてあげよう』ってことになったんだよね」

「……ナズナさんが作ってくれた料理、メチャクチャ美味しかったじゃん?」

「うん。流石はナズナ姉ちゃん、って感じだったよね。料理の腕前までプロ級なんてさ。どんだけ完璧超人なんだろうねあのヒト」

「確かに。あそこまで欠点が見当たらない女性を、ボクは他に知らないかも」

「……そういや誰かさんってば、ナズナ姉ちゃんの手料理を食べて絶賛してたっけねえ。『これならもういつでもお嫁さんに行けるね☆』とか言ってたっけねえ!」


 なんで後半キレ気味なの。


「お陰でみんなからブーイングを浴びたけどね。何? あれってイケメンじゃないと言っちゃダメなセリフだった? ボクそんなに顔に似合わないことを言っちゃった? だとしてもあんなに舌打ちしたり睨んだりすることないじゃない……」

「………………。ナズナ姉ちゃんはメチャクチャ喜んでたけどね」

「不幸中の幸いだったよ。あのときナズナさんに苦笑いやイヤそうな顔をされていたら、ボク、それこそ立ち直れなかったかも」


 まあ、ナズナさんはそんなことするヒトじゃないってわかってたから、ボクも冗談半分であんなセリフを言えたワケだけど。


 ホント、ナズナさんが喜んでくれてよかった……。


 いつもはおっとりした包容力溢れるしっかり者のお姉さんという印象なのに、喜しさのあまり赤らめた頬を押さえ『本当? お姉さん嬉しい☆』って子供みたいにもじもじしているナズナさんは、なんていうか、反則的な可愛さだったなぁ。


「でもさ、そのあとちょっと落ち込んでたよね、ナズナ姉ちゃん」

「え、そうなの⁉ 料理に夢中で気付いてなかった! 何か、ナズナさんが落ち込むようなことでもあったの⁉」

「そりゃあ……誰かさんが『いつでもお嫁さんにね』なんて言うから……」

「? ちゃんと褒めてるじゃない」

「……誰かさんのそーゆー釣った魚には餌をあげないトコ、正直どうかと思う」


 どゆこと⁉


「『もういつでもお嫁さんに行けるね』は、ボクの故郷では女性の料理を褒めるときの常套句じょうとうくなんだよ? 特に男性が女性の手料理をご馳走になった際はそう言って褒めるのが伝統なんだ」

「ホントかなぁ……。ちょっと盛ってない?」


 だいぶ盛ってます。


「うーん……よくわかんないけど、あの褒めかたじゃダメだったかぁ」

「……センチョー以外のヒトだったらあれでもよかったんだろうけどね」


 なんでボクだけピンポイントでダメなの……。理不尽すぎない?


「あのときナズナさんが作ってくれた料理の中に味噌汁があればなー。別の誉めかたもあったんだけどなー」

「別の誉めかた? どんなの?」

「『このとっても美味しい味噌汁を、ボクのために毎日作ってくれませんか?』」

「……確かそれ、プロポーズのたぐいの言葉じゃなかった? アタシ、ターニャおばさんからそう聞いたよ」

「え? ……あ」


 そうだったかも。危ない危ない。ノリだけでプロポーズしてしまうトコだった。


『ごめんなさい……私にとってあなたは手の掛かる弟みたいな存在ものなの。そういう対象としては見れないわ』ってフラれちゃうトコだった。


「気付いたら告白したことになってて、しかもフラれるとかイヤすぎる……」


 不意打ちを喰らうに等しい。普通に告白して普通にフラれるよりも精神的なダメージがデカそうだ。


 そりゃあナズナさんはとても魅力的な大人の女性だから、ボクみたいな半分お子様が告白したところでフラれるのは自明の理だけれども。フラれるにしたって、心の準備くらいはさせてほしい。


 ……あと、フラれたら慰めてもらえるように手配もしておきたい。カグヤやルーナ辺りに頼めば快く引き受けてくれると思うんだよね。告白中は近くの物陰で待機しフラれたら出てきて『可哀相に。よしよし』って頭を撫でるくらいはしてくれると思うんだよ、あの二人なら。


 ……仮にも男子高校生が小学生の女の子に告白を見守ってもらって、あまつさえフラれたら慰めてもらう気かよ、って感じだけれど。


 いやホント今朝は味噌汁が出てなくて助かったー。


「なるほど……こりゃ確かに罪作りだ。これぞセンチョーって感じ」

「何がっ⁉」

「なんでもない。――それで? ナズナ姉ちゃんが朝食を作ってくれたことと、センチョーが『私は罪作りな男です』と書かれている板を首から提げてここで仁王立ちしてることに、なんの関係があるの?」


 ……なんか、こうして改めて言語化されるとすっげー変な奴だなボク……。


「実はね、アリシアの奴が、ナズナさんの料理の腕前に触発されたみたいでさ。『お昼ご飯は私が作るわ!』って言い出したんだ」

「へー。あのアリシア姉ちゃんがねえ。……触発されたのはホントに料理の腕前になの?」

「? 他に何があるの?」

「そーゆートコだぞ」

「だから何がっ⁉」

「それで? アリシア姉ちゃんがお昼ご飯を作ってくれて、どうなったの?」


「……しかばねの山が出来た」


「…………は?」

「だから屍の山が出来たんだって」

「……それは食材の話?」

「違くて。アイツが作った料理を食べた乗組員みんなの屍の山だよ」


 正確には当直ワッチの最中だったリズたち『第2班』を除く乗組員みんなの屍の山だけども。


「ええええええええええっ⁉ ちょっと待って! もしかしてアリシア姉ちゃんって料理の経験無かったの⁉ それなのに自分からお昼ご飯を作るって言い出したワケ⁉」

「ある意味勇者だよね」

「……一応確認しておくけれど、『屍の山』は比喩表現、『死屍しし累々るいるい』的な意味合いであって、みんなの生命活動が本当に停止したワケじゃないんだよね?」


 当たり前である。みんなが本当に死んでしまっていたら、いくら呑気者のんきもののボクだってこんなことしてない。……けど、


「信じられるか……? あのお上品で気配り屋さんなルーナが、一口食べた瞬間『ぶはっ』って盛大に吹き出して、口から煙みたいなモノを吐いて動かなくなっちゃったんだよ……?」


 ツバキは白目を剥いていたし、シャロンは激しく痙攣けいれんしていたし、ナズナさんは食卓に突っ伏して「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」って何故か謝り続けるし、クロエは椅子いすから半ば崩れ落ちながら「これはもはや食材に対する冒涜です彼らの死を無駄にする所業なのですなんで人間にこんなモノが作れるのですかおかしいですよこれ逆にすごいですいえ待ってください実はすべて計算どおりなのではライバルを排除するための狡猾な罠だったのではないでしょうかなるほどそういうことか得心がいったおのれ女狐め」とかなんとかブツブツ言ってたし。


 他のメンバーもみんな似たり寄ったりな反応だった。


 カグヤだけは持ち前の勘を働かせたのか、最初からあの場にいなかったけれども。……そういうトコ、ホントずるいわぁあのコ。


「……そ、それで? センチョーはどうしたの?」

「ボク、先にトイレへ行っててさ……。食堂に行ったらもう目の前に地獄絵図が広がってたから……」

「逃げたんだね」

「いや……片っ端から食べていった」

「この流れで⁉ すごい! すごいよセンチョー! アタシ、初めてセンチョーのこと尊敬したよ! <魔女>としてセンチョーに助けてもらったときですら尊敬『は』しなかったのに」


 いやなんでだよ、そこは<魔女>として助けてもらったときにちゃんと尊敬しておけよ。キミ、普通に殺されるトコだったんだぞ。ボク、あれで結構、キミを救うために身体を張ったつもりなんだけど。


 ていうか、『尊敬は』って、じゃあ何ならしたってのさ?


「仕方なかったんだ……。だってアリシアの奴、そんな状態のみんなに、『せっかく作ったんだから残さず食べてよね!』って追い打ちをかけようとしたんだもの」

「鬼畜の所業じゃない」

「だからボク……みんなを護るため、すべての料理を一人で完食したんだよ……。頑張ったんだ……」


 正直、死ぬかと思った。まだ口の中がゴギゴギしている。ゴギゴギってなんだよもっと別の表現があるんじゃないのかって感じだけれど、でも、ゴギゴギとしか言いようが無い。初めての感覚だ。未知との遭遇。ホントなんなのこれ。食材として使われていたウミサソリに毒でもあったんじゃないの。


「センチョー……アンタ男だよ。でも命は大切にしたほうがいいと思う」


 確かに。心情的には『みんな! ここはボクに任せて先へ行け!』って感じだったもん。絶対死ぬヤツじゃんよこれ。


「リズ。このあとボクがダークマターのせいで急に泡を吹いて倒れたりしたら、そのときはよろしくね☆」

「なんでそんな明るく言えるの……。あとダークマターって何」

「ボクがあのフルコースに付けた名前」


 なんか、妙に黒い料理が多かったから。しかも不気味な蒸気? 空気? みたいなモノが立ち昇っていたから。焦げていたワケでもないのに。不思議。


「で、センチョーが首から板を提げてここに立っている理由は結局なんなの? 今の話がどう関係してくるワケ?」

「なんかね、ダークマターをきっちり完食してからぶっ倒れたボクを、無事復活できたメンバーが涙ながらに介抱してくれた美しい光景が、アリシアのしゃくさわったみたいで……」

「てかセンチョーもぶっ倒れてんじゃん!」


 ボク、『自分は無傷だった』なんて一言も言ってないよ?

 ぶっ倒れるに決まってんだろあんなの。どうやって耐えろっていうのさ。食べた直後は口の中どころか全身がゴギゴギだったんだぞ。

 たとえ『変身』したとしても防ぎようがねーよあんなの。


「まあ、そんなワケで、ボクは今アリシアから課せられた罰――『いいと言うまでこれを首に提げて見張り台に立ってなさい』を実行中なワケさ」

「理不尽すぎる」


 日本の教育現場では一昔前まで何か悪いことをすると先生に『廊下に立ってなさい』と言われることがあったらしいけれど、帆船の見張り台に立たせられた人間はボクが世界初なんじゃないだろうか。

 ていうか、ボク、何も悪いことしてないと思うんだけどな……。


 ボクの説明を聞き終えたリズは「なんだかなぁ」と嘆息して、


も、この帆船ふね乗組員クルーの中でも古株かつ親友ポジションであるアリシア姉ちゃんには歯向かえないんだねえ」


 何故か面白くなさそうに、そう言った。


「いや、まあ、確かにアイツは性格とかがボクの従妹いとこに似てて、正直やりにくいトコはあるけども。でも歯向かえないってワケじゃ」

「だったらなんで無理してアリシア姉ちゃんの料理を完食したの?」

「だからそれはみんなを護るために」

「ハッキリ言ってやったらよかったじゃん。『こんなモン食えるか! みんなにも食べさせようとするんじゃない! 全部捨てろ!』って」

「……それは無理」

「ほら、やっぱり歯向かえないんじゃん」

「そうじゃなくてさ、」


『あの』アリシアが――<魔女>として迫害され、傷付きすぎたせいで、寄る者触れる者すべてを拒絶し、誰にも心を開こうとしなかったアリシアが。みんなに食べてもらうために、初めて料理に挑戦したんだ。


 そんなの――残すワケにはいかないじゃないか。


 ボクはアイツに約束したんだよ。

 ボクたちの帆船ふねに乗っている限り、決して淋しい思いはさせないって。

 これからのキミの人生に、楽しいことや嬉しいことをいっぱい用意してあげるって。


 リズ。キミや他の<魔女>たちにも、そう約束したようにね。


「…………そっか。そうだよね。それがセンチョーだもんね……」

「いやそんなしみじみと言われるようなモンでもないけれど」


 こう言ったら身も蓋も無いけれど、今回ボクがしたことって、ダークマターを食ってぶっ倒れただけだし。


「ううん、そんなことない。センチョーは偉いよ。頑張った。……よーし。アタシがご褒美をあげよう☆」

「え……ご褒美?」


 なんだろう? 何かくれるのかな?


 目をしばたかせるボクの頭を、リズは背伸びをして両手で掴むと、そのままグイッと引っ張った。

 その自己主張の激しい胸にボクの顔をうずめ、耳元で囁く。


「センチョーは頑張った。偉いぞー。特にアタシのぶんのダークマターをよく処理してくれた☆ いやー助かったわー」


 途中から我が身可愛さが漏れ出ているぞ。

 ……っていうか!


「こ、こらリズ! 離せって! こんな高所トコでふざけてたら最悪転落死だぞ⁉ あと、ボクだって男なんだから、こういうことは……モゴッ⁉ むー! むー!」


 こ……コイツ、いっそう強く抱き締めてきやがった……!

 待って待ってこの感触はヤバい! あと耳元で囁くリズの吐息もヤバい!

 てか苦しい! 息が出来ない! 死ぬ! 死んでしまう!

 ああああああああああ柔っこい温かいムニュムニュするぅ!

 あ、でも、着衣の下、リズの胸の谷間に浮かんでた汗が! リズの匂いがする汗が! ボクの顔じゅうにべったりと!

 何この天国と地獄!


 てか何を考えてるんだこのコは⁉ 確かにこのコもアリシア同様ずっと誰かの温もり、愛情に飢えていたようで兄貴分のボクに対してスキンシップを求めてくることが以前まえから多かったけれど! でも、今回のこれは流石にやりすぎだろ⁉ まあもちろん? 兄のように慕ってくれるのは構わないし気を許してもらえて嬉しくないと言ったら嘘になるけれど? でもこのコは、ボクだって年頃の男なんだということをちゃんと認識するべきだと思う! ボクは聖人君子でもなければ悟ったヒトでもないんだ! 性欲だって普通にあるんだよ! ていうかこのコ、カグヤやルーナと違ってボクと二歳ふたつしか違わないんだぞ⁉ 現代日本なら中学生だよ⁉ もうちょっと恥じらいを持つべきじゃないかな⁉ よし決めた、正しい男女の距離感を今度ツバキかナズナさん辺りに教育してもらおう!


 でもそのためにはまずリズの胸ここから脱出しないと……!


「ねえ、センチョー。ううん……イサにい。アタシもうすぐ当直ワッチが終わるからさ。そしたらイサ兄の部屋に――」


 ああああああああああ! リズがなんか言ってるけれど全く頭に入ってこない!

 ダメだこのままじゃボクの理性がいや耐えろ孤児みなしごのリズはボクをあくまで『ようやく手に入れた家族』『お兄ちゃん的存在』として慕ってくれているだけなんだその信頼を裏切るワケには、




「――ゴホン!」




「「わぁ⁉」」


 不意に聞こえた咳払いに、ボクとリズは慌てて離れた……というか、リズがボクをドンと突き飛ばした。……ボクを殺す気かコイツは。危うく転落死するトコだったじゃねーか。どうせ死ぬのならあのままリズの胸で窒息死したほうがまだマシだよ。


 って、今はそれどころじゃない!


 咳払いが聞こえたほう――足元へ恐る恐る視線を向けると、この見張り台と甲板デッキの間を行き来する際に使用される横静索シュラウドと呼ばれる縄梯子なわばしごに掴まった少女が、頭だけを覗かせて、ジト……とした目をこちらへと向けていた。


 腰に届く赤みがかった金髪ストロベリーブロンドを紐で縛りサイドテールにした、ボクと同い年の少女。


 他でもない、彼女こそが――


「……あ、アリシアさん……? いつからそちらに……?」


 少女――アリシアに、ボクは(思わず敬語で)訊ねる。


「『ナズナさんが作ってくれた料理、メチャクチャ美味しかったじゃん?』の辺りからよ」


 ほぼ最初からじゃねーか。


 全然気付かなかった……。

 じゃあ、ボクとリズの会話、全部聞いてたってこと?


「流石にね? 私も『ちょっと理不尽だったかなー』って思って、アンタに『やっぱ罰は無しでいいよ』って言いにきたの」


 ちょっとですか。そうですか。


「――でも、余計なお世話だったみたいね。せっかくリズとヨロシクしていたのに邪魔しちゃったわね。メンゴメンゴ」


 待って待って待ってすごくイヤな予感がするアリシアの全身から怒気が立ち昇ってるのがわかるよ? 漫画だったら彼女の背後に『ゴゴゴゴゴ……』って文字が浮かんでるヤツだこれ。


「ふふ☆」


 抱き合ってガクガクブルブル震えるボクとリズに、アリシアは一転、天使のような笑顔を向けてきた。


 そして下される死刑宣告。




「船長。最低でもあと一時間、そこに立ってなさい。リズは見張りルックアウト、一回ぶん延長ね☆」




「いやああああああああああああああああああああっ!」

「なんでアタシまで⁉ あとなんでアタシのほうがキツイ内容なのぉ⁉」




 ――かくして大海原に木霊こだまするボクとリズの悲鳴。


 日々にちにち是好日これこうにち


 この船は毎日がこんな感じです。


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