27話 スタンピード(2)

 【ドラゴンスレイヤー】と【スカーレットフラワー】が、

前に出る。範囲の広い高火力な魔法、魔剣で正面を攻める。

【ゴールドキング】や【フォーリングスター】は目にも止まらぬ速度で、

各個撃破をしていく。


「お前等! もっと気合を入れろ! ここで如何に食い止めるかにッ、

王都の未来がかかってんだぁッ!!」


「「「「うぉおぉぉお!」」」」



「限界以上を引き出せ!」


「俺たちが全部倒すつもりで突っ込め!!」


「「「「「うぉおぉぉお!」」」」」



 戦いながらもさらに士気をあげて挑む。

しかし、それも虚しく、どうしても全てを排除しきれない。

彼等の防衛を抜けた何体かの魔物が、第二ラインまで近づいて行く。


 最前線が抑えてくれている御かげか、

そこは何とか処理出来ている。


 薄々は気が付いている。

オリハルコンパーティーが少しでも崩れれば終わる。

だが、誰もその事には触れない。

ただ、自分が出来る事を。

愚直に、ひたすらに目の前の魔物を狩り続ける。



 戦闘が始まり、時間が経つと次第に魔物がまばらに、広がり始める現象が起きた。


「ちっ、そこまで手が回らねぇ! ニコラス!」


「俺たちも余裕が無い! 他は!」



 他のリーダーも首を横に振る。

最強のパーティーが他のリーダーに助けを求めるくらいに、

追い詰められていた。


 その時、騎士団の騎馬隊が飛び込んで来た。

リーダーたちはそれを見て、口元を少しほころばす。

いい仕事だと、騎士団の団長を称賛する。


「私は赫月騎士団、団長ブライアン。加勢する!」


「……確かハディントン伯爵のとこの。良い判断してるッ!!」



 軽い挨拶を終えると速やかに助功に似た動きを取る。

用途は違うが、臨機応変に動けるのは日頃の訓練の賜物だろう。

逆側。左には副団長のケヴィンが指揮をしていた。


 いい流れが出来ていた。

だが、千五百を倒した頃、彼等は疲労を隠せなくなる。

倒しても倒しても留まる事は無い魔物の群れ。

第二ラインは崩れ、最終ラインもすでに戦闘を始めていた。


「もっと全力で止めろぉぉお!」


 しかし、そう叫んだニコラスが膝を付いた。


「な……に……」



 自分が何故膝を付いているのかも理解出来ていない。

自身でも気が付かない程に体力を、魔素を酷使していた。

魔物が向かって来ている。間一髪、ラファエルが彼を救った。


「くッ……俺がッこんな失態をッ」


「離脱しろっ。後は俺達が」


「ふざけんな! 俺はオリハルコンだッ。そんな真似が出来るか!」


 そこでリーダーですら対処できない事実を見た【スカーレットフラワー】の面々、

いや、ここにいるパーティー全体の士気が落ちてしまった。

これは彼のせいでは無い。

ラファエルも、他の二人もやせ我慢をしているだけで、

すでにボロボロであった。

張り切りすぎた彼が少しだけ、誰かよりも早かっただけのこと。


「クソ! 離せ! 戦わせろ! 突破されされるぞ! 

ここで食い止めないと王都がぁ!」



 下っ端がこの場から強制離脱させようとニコラスを掴む。

その下っ端を振り払う力すら残ってない彼は必死に抵抗する。

そんな時、最終ラインで喊声が鳴り響く。


 この状況だ。彼は見たく無かった。

最終ラインが落ち、王都が壊される光景が、

最初に頭に浮かんだ。


 しかし、それは違っていた。



 そこには子供を連れた女がいた。

黒い刃が地面から大量に突き出ていた。

それが魔物を全て貫いているのだ。



 その瞬間、空気が変わる。

この喊声。

まるで開戦前、

魔物と接触する前のような気合に溢れたものであった。

ニコラスは呟いた。


「なにが……」



「ちっ。俺一人でも十分だったのによぉ」


「嗚呼、間に合ったんだね」


「アルマ……今、空から来なかったか?」


「跳んだんじゃないか?」





 竜を討伐した後、手紙が届いた。

王都に来て欲しい。

危険度プラチナのスタンピードが起こっていると。

なのですぐに魔馬を近くに街に預けて、

カレンを抱え全力で走った。

山とか谷とかは関係ない。

ただ、王都へ一直線に走る。


 そして、王都が北門が見えた。

どうやら南側でそれはおきているらしく、

急いで門を飛び越える。


 さらに、南門に着くと、大きく跳躍をした。

空から状況を全て把握し、

影の刃で第二ラインを突破している魔物全てを撃破した。

カレンも風魔法で何体か倒す。

着地するとカレンを下ろした。



 ニコラスは驚く。

さっきまで遥か後方にいた者が、

すぐ隣まで来ていたからだ。

それが近づいたと同時に、

影の刃が周りの魔物を蹂躙する。



「ッ……」



「お疲れ様。後は私がやるわよ」


「走って来たのかよ。アルマこそ、疲れてんじゃねぇのか?」


「そこそこに。でも、休んでる場合じゃない状況だし」



 そう言って、超スピードで走り出した。


「誰なんだ……あれは……ッ」


「ギルド対抗戦、あの大会の優勝者だ……」


「奴が!?」



 ラファエルが口元を僅かに広げていた。


「ふん。またアルマの戦いを見れるとは光栄だな」


「いや、ラファエル。お前見るの初めてだろ……」


「瞬殺だったからね」


「……黙れ」






(多い。予想以上ね)



 影の攻撃は便利だ。

誰一人傷つけずに魔物を全て撃破出来た。

速度も威力も申し分ない。

しかし、魔素の消費が凄い。それなら。

今持っている剣を左手に持ち替える。



(今なら聖剣を制御出来る。密かに練習したんだからっ)



 鞘からそれを抜くと光り輝く。

それだけで周りの魔物が何十体も絶命した。


(相変わらず凄い剣ね……)



 力を込めて、魔力を込めてただ剣を振るう。

一閃。それだけで魔物が次々と消滅していく。

大雑把に聖剣で倒し、細かいのを闇の刃で蹴散らす。



 彼等は魔物が蹂躙されていく様をただただ見ていた。

暫く経つと、アルマは何事も無かったかのように歩いて戻って来た。

背後では皆がアルマを称えていた。



 ボロボロのニコラスは多少、回復したのか自分で立ちあがる。


「うおおおおお!! 尋常に勝負しろ! 勝った方が優勝だぁ!」



 そう言いながら襲い掛かって来た。

両手には剣を持っているので蹴りで対応した。

ニコラスは吹っ飛んだ。彼は意識を失う。

強力なヒールキックだったので、

ニコラスは肉体的にはかなり元気になった。


「あ、ごめん……よく分からないけど蹴っちゃった。誰だっけ?」


「気になさらず……きっと錯乱していたんだろう。

眠らせるのが適切な処置かと」


「馬鹿が。万全な状態でも無理だっての」



 アシュリーが軽く教えてくれた。


「彼、オリハルコンのパーティー。【スカーレットフラワー】、ニコラス」


「あー、大会より依頼を優先したっていう、良い人ね。ごめんって伝えておいて」



「それよりも助かった」


「ははは、結局俺たちは要らなかったな」



「なわけないでしょ。私は一人、パーティーはカレンだけよ。

全部に対応出来ないの。

ここまで抑えてくれなかったら王都が危なかったでしょう?」



「そういってもらえると有難いよ」



 辺り一帯に勝利の歓声が鳴り響びいていた。

その日、戦闘をした戦士のために特別な宴が開かれた。




 皆がお酒を飲み楽しんでいる。

あるテーブルを見て、皆が注目していた。

アルマ、カレン。

そして、オリハルコンのリーダーが一緒に座って居たからだ。


「最強の美男子が同じテーブルに……素敵ね」


「あれ見て!」


「きゃー、アルマ様もいる!」


「カレンちゃんもいるぅ! 可愛いわねー!」



 オズワルドが黄色い声を聞いて、

満足そうに言う。


「アルマは女性にも人気なんだね」


「あなたたち目当てじゃない?」


「それで、何処でその聖剣を作った?」



 ニコラスが興味津々に尋ねる。


「んー、知り合いに貰った」


「それを手放す奴って……どんな人間なんだよ。嘘を吐くな、嘘を……」


「ニコラス……それが無くてもアルマの強さは変わらねぇよ。諦めろ雑魚が」


「ああ?」



「まあまあ、こんな時に無粋だよ。ささ、これを飲んでアルマちゃん」


「ありがと」



「おい、オズワルド。酔わせて部屋に誘い込もうって魂胆じゃないだろうな」


「ははは、ラファエル。大切な友人に。そんなことはしないよー」


「前科はあるけどな」


「何を言う? 後から承諾はもらった。前科ではない」



 そこでアルマの椅子が動くと、クリステルが割り込んで来た。


「アルマに手を出すのは許しませんっ」


「おぉ、これはこれは。クリステル嬢……ささ一杯どうそどうぞ」


 それを受け取ってゴクゴクと飲む。


「ぷはぁー!」


「お、いけるねぇー」



「なにクリステル。暇なの?」


「もー。アルマが帰って来ないから心配したんじゃないっ」


「言ってなかったっけ?」


「カレンが手紙を送ってくれたから知ってる」



「ならいいでしょ」


「カレンが居なかったら分からなかったでしょうが」


「ごめんごめん。気を付けるわ」



 そのまま飲みまくる。

カレンは果実ジュースを飲みながら思う。

ラファエルは気まずく無いのかな、と。

後からこういう時は例外だと勉強するのであった。



 クリステルが酔いつぶれたので、

オズワルドが宿まで運ぶと言い出した。

丁重に断って彼女を背負う。


 宿のベッドに寝かせると、

腕を掴まれていた。

呂律が回ってなかった。


「一緒ぃ……寝ぉー」


「それは良いけど、先に」


 カレンに背後から押された。

眼が少し閉じかけている。

素直に眠いと言ってきた。


 クリステルにもそのまま抱き着かれて離れなくなったので、

仕方なくベッドに横になるとカレンも布団に潜り込んで来た。


 三人とも密着した状態になった。

確かに疲れたので、そのまま眠る事にした。


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