26話 スタンピード(1)

 ギルドには定期的に土地の状態を監視する者たちがいる。

正確には魔物の様子を見ているのである。


 その情報をギルドの情報処理の部署に渡し、

危険に応じ、対応をする。

ここで、ギルドが直接依頼を出すこともある。



 その日、調査員はスタンピードの前兆を確認した。

スタンピードは魔物の暴走の事だ。


 スタンピードには三種類がある。

一つは群れの中に知能の高いボスが生まれ、

それが自分以外の種族に攻撃するパターン。


 二つ目が原因は不明だが、魔物が暴走状態になり、

なりふり構わず進み村や街に偶然接触する。

何故か行列を作るのが厄介である。これは自然災害と同列に扱われている。


 三つめは人族などが人為的に起こすものだ。

困難だが不可能ではないらしい。


 そして、今回は二つ目の暴走状態である。

付近の村や街に避難勧告が出される。



 行く先を計算する。

どうやら今回は運悪く、数日後に王都に接触する。


「規模千五百を超え、危険度はプラチナからアダマンタイトに変更です」


「なに。不味いな……」


 魔物の規模(危険度)はギルドでも使っている名称を使う。

しかし、等級とは違い。シルバーでも処理が難しい。

危険度がゴールド以上になると、オリハルコン等級のパーティーにも声がかかり出す。


 偵察が調べた数と質から予測し、危険度を決定する。

今回のものは単純に数だけを見ると二千から三千の大群である。



 王国騎士団は王都の防衛と整備に。

ギルドのパーティーが複数呼び出された。

三重の堀を作る。最前線の堀の後ろにはオリハルコン等級が待ち構え、

二番目の堀の後ろにはプラチナ等級前後が集まる。

最終ラインには騎士団が防衛をする。



 前線のオリハルコンパーティーの中に、

依頼をこなしていたので大会に出られなかった【スカーレットフラワー】もいた。

リーダーはニコラス。


 四パーティーのオリハルコンが集まった。合計人数は80人。

ただこれが全員ではない。

緊急のため、各地にいる者達は集められなかった。

リーダーの三人は周囲を見渡し、

ある人物を探していたが、見つからない。



 少し遠くからニコラスは嘲笑を浮かべ、

【ドラゴンスレイヤー】のリーダーに言う。


「大会では大恥をかいたそうじゃないか、ラファエル? 

何時も偉そうなクセしてみっともない!」


「ああ? 参加してねぇお前には関係ねぇ」



「ハハハハ! まったく言い返す事も出来ないか。

同じオリハルコンなのが恥ずかしい。

シルバーに惨敗だなんて、

僕ならそんな屈辱を受けたらパーティーを解散するねー。

なぁ、オズワルド、アシュリー。

お前等もそう思うだろ?」


 二人の方を向いて同意を求める。


「全然」「特には」


「ええっ! なんでだよ!!?」



「勝てなくても仕方ない。現に名声は落ちてないよ」


「あれはシルバーでもオリハルコンでもないし。例外だから仕方ないな」



「う、嘘だろ……どうしてしまったんだっ……

オリハルコンの誇りが消滅している……

まさか金でも受け取ったんじゃないだろうな!」


 ラファエルが切れ気味に返す。地味に事実なのが余計に腹が立つ。


「何を勘違いしてるかは知らんが……

俺はオリハルコン如きに留まるつもりはねぇ」



「……オリハルコンは最高の等級だぞ……お前……負けてしまって、頭まで……」



「もう黙れ、ニコラス……俺たちの受けた依頼は魔物の討伐だ」



「そうとも。王都を守る事が使命」


「日頃は仲が悪かろうと、依頼はこなす」



「おしゃべりは終わりだ。来たぞ」



 もの凄い地響きが近づいて来る。

王都を蹂躙する魔物の大群。


「死ぬなよ……お前等」



「誰に言ってんだぁ?」


「そっくりそのまま返すよ」


「もっと気の利いた言葉をいいたまえ」



 リーダーたちはパーティーに指示を飛ばす。

まだまだ距離がある。

遠距離を得意とする者たちが一斉に攻撃を仕掛ける。



数匹倒れるも、全体にはまるで影響がない。

分かっていた事だが、実際のそれを見て顔が引きつる。


 後、数十秒で大群と接触する。

リーダーたち。全ての者たちがそれぞれに武器を抜く。


 そして、各リーダーの鼓舞と共に、一人一人の声が合わさり、

辺り一帯に喊声が鳴り響き、大地を揺らす。開戦だ。




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