25話 個人的な依頼は却下
ある日、大司教から呼び出された。
一人で来てくれと言われたので、クリステルに任せた。
教会に行って見ると、大司教様はご機嫌であった。
「おお、アルマか。先日は見事な戦いだった」
「それで、どうしたの?」
「相も変わらず。せっかちだな。
なぁに、今日はお前に、ちょっとした呪術を試したいと思ってな」
「はぁ……急に何言ってるの?」
その反応を見て大司教はため息を吐いた。
「……天然なやつめ。お前は世間の注目を集めた。
ならば取り込もうとするものもいるだろう。最悪殺そうとする。
だが交渉や力では無理だとすぐに悟る」
「それで、私を服従させる呪術でもかけたいの?」
「違う、大司教だぞ私は……伝承を調べていて分かったのだが、
その聖剣……呪術を弾けるのではないかと思ってな。試そうということだ」
「それが本当なら凄いじゃない」
「最初は簡単な弱い呪術。そして、少し強めの呪術だ。協力者も用意している。
ギルドや国王陛下には話は通してある」
呪術は全てを取り締まってる訳ではない。
新たに生み出される術の対策には呪術師の知識や意見も必要になる。
かなり安全を考慮していた。既に結界まで用意していた。
実際にやってみると聖剣が光り、呪術を弾いた。
「ふむ……やはりか」
「妖精さんに感謝しないとね。今度会いに行くわ」
そして、強力な呪術も簡単に弾いた。
大司教はほっとしているようだ。
「ふぅ……という訳だ。その聖剣は大切にするのだぞ」
「当たり前よ!」
「……手放すんじゃないぞ? 過信はいかんぞ?」
「分かってるって。もう子供じゃないんだから……ぁっ……」
「……」
心配し過ぎだと思ったが、大会を思い出したので目を反らした。
反省だ。
それと呪術防御の失敗を考慮して、カレンを呼ばなかったようだ。
継続して、ポケットには呪術を移す魔道具も入れている。
他に何個も高級な魔道具をくれた。無料で。
カレンのも高級なものに変えよう。っと、訊いておこう。
「……で、幾ら稼いだのよ?」
「……稼ぐ? 何の事かな?」
「はいはい、慧眼を身に着ける訓練だったわね。悪かったわ」
(今日のは稼いだお礼みたいなものかな)
聞いた話ではクリステルのお父さんも、
ずっと満面の笑みを浮かべていたらしい。
賭けた金額は、誤魔化してくるそうだ。
主催者と父親は関係ない扱いで、
その代わり期間内は接触禁止である。
【ギルド:ベル】
今度はベルのギルドマスターに呼び出された。
こっちのギルマスは女性だ。
どうやら指名の依頼が何件か来ているそうだ。
目を通すと個人的な依頼だらけ。
「私以外でも普通に出来そうね。やめとくわ」
「権力に興味なしか……」
「ん?」
その中に、竜の一体の討伐依頼があった。
王都の真逆の方向の辺鄙な場所。
「これをやる」
「うんー……? 額の割に難易度が高い。嗚呼、この町で払えるギリギリの額だね。
いいのかい?」
「町周辺も竜に荒らされてるんでしょ?」
「運の良い町だね……往復で二週間ちょいだ」
「魔馬あるし、もっと早くいけそう。いざとなったら走る」
数日かけて目的地に向かう。
竜の強さを確認したら、任せる予定だ。
カレンを立派に育てたい。
エルフは長命、きっとこの経験が役に立つ時が来る。
竜の住みかへ到着する。
遠くから見てもそれは巨大だった。
傷だらけだった。恐らくどこかの縄張り争いで負けてここに流れ着いたのだと、
依頼書に書いてあった。
もう十人以上は犠牲になっているようだ。
まずはカレンにこっそりと接近させる。
何処まで気がつかれずに近づけるか。
素早く、静かに。ある程度近づいたら、竜はカレンの方を見た。
そこで私が姿を現して、攻撃する。
(良い感じだったわ)
竜の攻撃を処理しながら、カレンにも攻撃させる。
この段階で相手の強さをほぼ全て分析を終えろと言ってある。
適度に弱らせるとカレンに任せる。
ここから私は致命傷以外は手を出さない。
カレンが風の魔法と細剣を駆使して上手く立ち回る。
攻撃は避けている。ギルド対抗戦の時とは違い、慎重だ。
距離感を間違えていない。そうこの戦いに場外やダウンは無い。
凄い集中力で、避けながらもダメージをチクチクと蓄積させている。
守り重視の主体を続けていたカレン。
ある時を境に自身が持つ、倒せるという感覚を頼りに、徐々に攻め主体に転じていく。
(うん、良い感じ……でも……竜も力を残してる)
カレンが好機を見つけ、魔法を全開に畳みかける。
「はぁぁぁああ!!」
竜はそれに合わせて自らも腕を振り攻撃する。
予想外の攻撃だったが、何とか魔闘気で身を守る。
しかし、かなりのダメージを受けた。
勢いよく飛ばされたが、すぐに立ち上がる。
そこで竜が空を飛び、ブレスを吐く。
回避行動をとるが避けきれないと、顔を歪めた。
「おしかったけど、勝ちを急ぎ過ぎたわね」
何時の間にかカレンの前に立って、半透明の壁を張っていた。
それがブレスを完全に遮断する。
そして、剣に纏う黒いもやが、棘に変化する。
恐ろしい速度で目標に向かって伸び、翼を切断する。
軽い様子で跳躍し、落下する竜をそのまま切り刻むと、絶命した。
「ぅー倒したかった」
「最後の攻撃を避けられたらね。
それにもうちょっと成長すれば出来るわよ」
「頑張る!」
「さっ、報告に行こっか」
「うん!」
帰ろうとした時、不自然な鳥が飛んでいた。
それは次第に近づいてくる。
攻撃しようと構えるとカレンが言う。
「アルマ、あれ伝書魔鳥じゃない。足に紙が巻き付いてる」
「? 何か連絡?」
二人はそれを開いて中を見た。
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