24話 シルバーから昇格
王都の厩舎に行くと、魔馬が丁重に扱われていた。
「こ、これはこれはアルマさん。お、お馬さんは元気ですょ……っ」
「ありがとう」
「いえ! とんでもない!」
かなり可愛がられたみたいで、魔馬は本当に元気だった。
逆に彼は目に隈が出来ていた。
必要以上に気を遣っているみたいのなので、
金貨を十枚ほど渡した。何度もお礼を言って来た。
クリステルは一足先に屋敷に戻った。
金貨や王都で買った服や雑貨等を運んでくれている。
案内人が待機していたので、一緒に屋敷に向かう。
とても住みやすい立地で、
私の屋敷もこの辺に作られるらしい。
前に居た街とはそれほど離れていない。
王都は少し遠めだが、
魔馬ならそうかからない。
近くにそこそこの都市があるので、
基本はそこでギルドの依頼を受領する。
近くに貿易都市もあるので、かなり栄えている都市だ。
しかし、一度。
以前のギルドマスターに挨拶しておきたいので、向かった。
ギルドに入ると騒めく。憧憬と恐怖が半々だ。
ある男が怯えた様子で謝って来た。
弱かった私が悪かった、と言おうと思ったが、
それを言うと仕返しを考えている風に聞こえなくも無いので適当に言う。
「いいわよ別に。気にしてないし」
マスターが居たので部屋に通してもらった。
申し訳なさそうに口を開いた。
「アルマ……【ブレイブヒーロー】の時は気が付けなくてすまなかった」
「仕方ない。あいつら、小賢しい真似が上手かった……」
「そう、だな……ふむ。賞金も手に入った。引退の報告か?」
「しないわよ。引っ越し……? したから都市ベルの方が近くなるってだけ。
何か依頼があったらそこに通してって報告に来たの」
「そうか……その精神があれば今頃は奴等も……」
「無かったからこそ私がここに居るのだけどね……」
「……何とも皮肉な話だ」
「カレンに引き合わせた事には感謝してるわよ。
それとあの成……じゃないか。金持ち大司教様にもよろしくね」
「聞いていたのか……」
「聞くまでもない。事が上手く運び過ぎ」
「……嗚呼。それと異例だがアルマ、
【ウォーリア】はプラチナに昇格となる。
僅か三週間にも満たない期間でよくぞ。世界最速だよ」
「そんなにポンポン上げちゃていいの?」
「これでも少ないだろ……王都のアレを見て、それを否定できるモノなど居ない」
(大会に来てたんだ……)
挨拶をして奥の部屋から出ると、
カレンが皆に近所の子供の如く可愛がられていた。
それでいて大会の活躍を褒められていた。
「行くよ、カレン」
「アルマ! 用事終わったの」
「ええ」
一度は見た事ある男が言う。
「ど、どこかに行っちまうのか?」
「そうね。でもまあ……依頼してたら、またどっかで会うんじゃない?」
「!? ……そうだな。俺たちはギルドに所属しているからな……」
「またね」
「バイバーイ!」
【都市ベル・ギルド】
室内に入ると、皆がこっちを見ていた。
見ない顔だからだろう。
巨漢がテーブルで酒を飲みながら、声をかけて来た。
「見ねぇ顔ヒャックっ。おい、ねぇーちゃん。
俺と遊ばないかっ。一発で気に入ると思うぜぇ」
「はっはっはっは。酒癖悪すぎんだよ~おめ~は~」
そこで誰かが、その男を止めた。
「おい! やめとけ!」
「あ~ん? やんのかぁごらッ」
「違う馬鹿かっ。そいつ! アルマだ!!」
「は……っ?」
ギルドの空気が一瞬固まった。
酔っ払いが思わず立ち上がる。
「シ、シルバーの!?」
「オリハルコン連中をボコって血祭りにあげたって……ッ」
「ほんとだ。あのちっこいのカレンだ」
「もうプラチナになったわよ。
こっちのギルドが近くなったの。よろしくね、皆」
「ひぃ……ッ」
酔っ払いはそのまま尻もちを尽いて転んだ。
受付嬢が緊張しながら聞いた。
「ア、アルマさん……依頼はどれを……」
「取りあえず。古いの沢山で」
「えっ。わ、分かりましたっ」
受付嬢は十数枚の依頼を出した。
その中から選ぶのかと思ったら全部受領したのに驚いていた。
「行こっか、カレン」
「行こー!」
二人が外に出た後に誰かが言った。
「お、大人しい……っ」
「おいおい、誰だぁ?
お腹空いたから会場中の奴を片っ端から殴り飛ばしたって言った奴っぅ」
「言ってねぇ」
「と、とにかく……冗談が通じるやつで良かった……」
尻もちを尽いた男は酔いがさめていた。
全部の依頼を終えて帰って来ると、
彼等は先ほどとは一転、気さくになっていた。
「お、もう終わったのか。ほら奢りだ」
さっきの酔っ払いが酒を渡して来たので、
飲み干す。
「おー! 良い飲みっぷりだなっ」
「ありがと」
ふと隣を見ると大きなとんがり帽子を付けた女性が、
お手製の白いトカゲさんのぬいぐるみをカレンに渡していた。
頭でっかちの変なトカゲの頭を撫でていた。
「わー、ありがとう。おねぇちゃん」
「もぉー可愛いー。カレンちゃん~」
受付嬢も微笑みかけてくれた。
「お疲れ様です、アルマさん。もう終わったんですね。噂通り、凄いです!」
「ありがとう。皆には余り気を使わなくていいって」
「いえ、あの後皆さん喜んでましたよ。凄い人が来たって」
「それなら良いのだけれど」
ぬいぐるみは持って帰るとクリステルが調査した。
呪術系統に従者に詳しい者がいるらしい。
調べてみて特に何も無かった。
半月の間、このギルドで依頼を受領していると、
アダマンタイトになり、ミスリルにも昇華した。
昇格する度に、何故か皆が自分の様に喜び祝ってくれた。
根は悪い人たちではなさそうだ。
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