23話 有名人
【翌日】
酒場で早めの昼食を食べる三人がいた。
その中の一人は場違いなほど高価な服を身に着けていた。
そこに一人の男が近づく。それを見た他のテーブルの男たちは笑っていた。
「お、また殴られに来た。何回目だ?」
「さあ? 忘れた」
男は緊張しながらも声を絞り出す。
「ア、アルマさん! ぼ、僕と付き合ってください!」
「え? 僕とド付き合って下さい?
まずそっちから殴って来て。
その後、私が全力で殴るから」
「すみませんでした!」
男はそそくさと帰って行った。
もう一人、男が酒場に入って来る。
目的の女性を発見すると近づいて来た。
「アルマさん! 俺と結婚してください!」
「え? 俺に鉄拳制裁ください?」
「すみませんでした!」
見事なフットワークで帰って行った。
「そろそろ出ようか」
「そうですね」
「次は何処行くの?」
「カレンが行きたいところ」
そんな時、上品な身なり。金髪碧眼の美男子が、
酒場に入って来た。誰もがその姿に目を奪われた。
男は、タンゴのような情熱的なステップで近づいて来た。
膝を付き。床を見つめ、目を閉じる。
そこで思いを今一度込める。
そして、それを想いを解放し、
詠うような美声を放つ。
「この様な場所で出会うとは、何という運命……アルマ嬢……僕と」
僕のタイミングで顔を上げ、アルマを見つめる。
しかし、そこには誰も居なかった。誰かが言う。
彼女ならもう会計済ませて行ったと。
数秒前、店員はアルマに言った。
お会計は銅貨二枚だと。クリステルが言う。
金貨しかないと。
アルマが代わりに銀貨1枚を支払う。
ちょっと騒がしくしたので、
お釣りは要らないと言って出ていった。
コミカル男は急いで外に出て行った。
先ほどの会計のやり取りを思い出した客は言う。
「いやー。貴族連れてるうえに、
優勝して銀貨一枚とかの金銭感覚が地味に可愛いよなー」
「俺だったら調子に乗って金貨出してたわー」
「あ~上目遣いでチュポチュポ奉仕してもらいてー」
「……本人の目の前でそれを言った時にはぁ、
俺はお前と友達を止め、暫く教会に匿ってもらうぞ」
「わ……分かってるって……冗談だよ冗談……ハハハ……」
歩いていると、背後から金髪の男に声をかけられた。
何故か息を切らしていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……あのですね……僕は謎の男っ……アルフレッド!!!」
アルマは誰だろうと思った。
クリステルは気が付いた、殿下だと。
カレンは思い出した。昨日陛下の横に居た人だと。
そこで、知らない男が会話に割り込み突如叫んだ。
「アルマさん! 結婚してください!」
「全力の鉄拳100発耐えたらいいよ」
「すみませんでした!」
男は流れるように去って行った。
「……」
少しの間、沈黙の時が流れた。アルフレッドは言う。
「アルマ嬢……僕に見覚えがありませんか? 昨日……あの時……運命の!」
「?」
(あ、殿下……日和った)(誰?)(謎の男。偉い人かな?)
「……おと……陛下の隣にいたっ……」
「え? 陛下の隣に誰かいたっけ?」
「……」
(殿下、もう無理です……アルマはカレンと遊ぶ事しか考えてません)(?)(分かった! 王太子様だー)
「実は……僕は……何と……この国の王太子! アルフレッドなのです!」
「あっ、そういう。
あー、アルフレッド王太子殿下こんにちは。
私たちは用事があるのでー」
「っちょっと! 待ってくださいぃ、アルマ嬢……僕と婚」
「え? 私に用事……もしかして内乱の計画?
ごめんなさい、ちょっと無理です」
(それはそうですよ殿下……色々と無理があります)
「……たッ、確かに……運命を信じる余り、
少々短絡的になってしまいました。
それでは今度パーティーにご招待します……
そこから始まり、紡がれる詩も、また素敵かと……」
「誰が出場するんです?」
(アルマは戦いたいのね……)
「……き、貴族とのパーティーにご招待しましょう」
「領主様かー。よく分かんないけど、
辺境伯とか籠城戦が強そうね! ね、カレンっ」
(アルマ、それは色々と前提がおかしい……)
「うん! 次は負けない!」
殿下は思った。わざとなのか天然なのか分からない、と。
どう返すか迷うアルフレッド。
そこで、従者という名の追手に捕まった殿下は抵抗も虚しく、
王宮へ連れ戻されていった。
去り際に諦めない的な事を言っていたが、
アルマには届いて無かった。
「大変ねー。従者の人」
「そうですねー……」
歩いていると見知った男に出会う。
「あ、ラファルコン」
「繋げるんじゃねぇ……ッ」
「思ったよりも軽傷ね。流石はオリハルコンってところかしら。それじゃあね」
「ふん……言って置くことがある」
「なに?」
「ゲルデと取引をしたあいつはクビにした……くそ!
最近はあんなに頑張ってやがったのに、くだらねぇことに手を出しやがって!」
(……? それは残念ね)
「それと……仲間から聞いたぜ。俺を倒した時、俺のために会場中を敵に回したらしいな……
余計な事しやがって……まあでもその御かげか……
名声に傷がつく事もなかった……だが俺たちはそんなので満足はしねぇ。
パーティーはまた一からやり直す事にした……ふっ。久しぶりだ。こんなに高揚したのはよぉ……
結成時を思い出す」
(なんか聞いても無いのに語り出した……しかもなんか違うし)
「いや……それは」
「わぁってるッ。おま……いや。
アルマより強くなってからだろ?
今より強くなって迎えに来るッ……じゃ、じゃあな!」
彼は一人でなにか納得したらしく。去って行った。
カレンは幼いながらに何となく思った、
意識を失った彼はあれを見ておらず、
自分の発言の無謀さに気が付いていない。
彼とはもう二度と会う事はないだろうな、と。
クリステルは悲しんでいた。自分に声がかからないことに。
了承するかはおいて、声くらいはかけられたいと思った。
そんな時、優しそうな男が現れた。
「あ、もしかして! クリステル嬢!
ち、近くで見ると美人ですね。あの!」
「は、はい……!」
「大会凄く盛り上がりましたね! 最高でした! また主催やってください!」
「はい! 何時か必ず!」
男は去って行った。クリステルはそれを笑顔で見送りながら思った。
(なんかちょっと違う……)
カレンの好物、
甘い棒状の食べ物を口に入れながら、
都市を歩く。
すると怒鳴り声が聞こえる。
ゴロツキが女性に絡んでいた。
(まだお祭り中とはいえ、騒ぎが多い所ね)
しかも、よく見ると大会前日のゴロツキ。
止めるために前に出ると、
アルマと言う名前がちらほらと聞こえてくる。
女性の黄色い声が上がる。
ゴロツキがこちらに気が付いた。すでに後退りをしていた。
「ぉ……ッ」
偶然大会前日もいた一般市民が叫んだ。
ゴロツキはそれに耳を傾けた。
「で、出るぞ! あいつはオリハルコンにも関係なく立ち向かう危険な輩だ!
きっとシルバーの塊に変えてやるぞ! とか言い出して挑むぞ!」
「おおおお!」
「ッ……!?」
刻一刻と近づく。
ゴロツキは女性の方に向き直して必死に叫ぶ。
「さあ! 俺を殴れ! パーじゃなくグーでだぁぁ!!!」
「ぇえ!」
「はぁッ! 早くしろ!!」
女性が訳も分からずに、ゴロツキを殴る地面に転がる。
そして震えた声で叫んだ。
「う、うわぁぁぁ!!!? か、勘弁してくれぇぇ!」
ゴロツキは被害者になり、そのまま逃走した。
その場にいた人たちは、その機転に感心していた。
ゴロツキはそれ以降大人しくなったそうだ。
後に彼は仲間に語った。
あの時、俺の頭は一生分の回転をしていたと。
何もしていないけど、
女性が握手を求めて来たので、
取りあえず右手を出した。
するとお礼を言いながらギュュと手を握られる。
顔が赤かった。それはそうだ。
あんな変なのに絡まれれば誰だってそうなる。
さらに歩いていると痴話げんかが聞こえた。
「ほっんと! 信じられない! 私を担保にするなんて!」
「そ、それは謝る!」
「五月蠅い! 離婚よ離婚!」
「そ、そんな! ちゃ、ちゃんと当たったんだ……銀貨20枚が……」
急に小さくなる声。女性はそれが嘘だと思った。
「はぁ? 金貨20枚借りて、たったそれだけ? ふざけてるのっ?
それで、金貨3枚になった? それとも4枚? それで満足なの? さいってぇッ!」
「1028枚だよ……大きな声じゃ言えないけど……」
「……え? 何言ってるの? う、嘘ついて誤魔化す気ね」
「だ、だって……君はここにいるだろ? あと1000枚残ってるぅ……」
彼女耳元で囁くように言う。
「……いや……ちょっと? そんなことある?」
その時、その二人に関わりの無い声が別の場所から聞こえる。
「あ~あ。俺もアルマに賭ければ2057倍だったのになー。まじでもったいなー」
「はぁー。時間戻してぇーー。当たった奴見つけたら奢って貰おうぜー」
「だなー」
男たちは去って行った。女性は計算した。
すると女性は猫撫で声を出して言った。この間僅か8秒ほど。
「ダーリンっ愛してるわっ。何時までも一緒に居ましょうねっ」
「嗚呼! 信じてくれたのかい! マイハニー!」
彼等はこれから甘い夜を過ごすのだろうか。
あっという間に夜になり、宿に戻る。
クリステルがソワソワとした後に言う。
「アルマは帰ったらどうするの?」
「何時も通り。依頼をこなすよ」
「もう十分なお金があるじゃない?」
「お金はあっても、困ってる人はいるでしょう?」
「なるほど。じゃあさ。今まで通りの宿に?」
「当たり前じゃない。まだ家作れないでしょ?」
「それならさ、私の屋敷に来ない? 家が完成するまで!
もうアルマは有名人だから普通の宿だと面倒よぉ~」
「……確かにそうね。カレンはそれでも大丈夫?」
「うん! クリステルのお屋敷楽しみ!」
クリステルはこそっと嬉しそうに拳を握る。
「今日は寝ましょうか」
背後に回り込むと背中を押された。
倒れないので数回押す。
さらに体重をかけて押して来たので、
腰を下ろしてベッドに入る。
するとクリステルもベッドに入って来た。
カレンもベッドに飛び込んで来た。
「狭くない?」
「いいのいいの」
「いいの~! いいの~!」
そのまま三人でぐっすりと寝た。
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