22話 大会最終日(2)
【特別席】
「はっ、愚かな。聖剣は、妖精の加護を持つ乙女だからこそ使えるのだ。
お前はその浅はかな欲に負けたのだよ……
おっと、そこの可憐なバニーガール。最高級のワインを……」
「は、はい! かしこまりました!」
そこには堂々と椅子に座る。
態度が180度変わった大司教が居た。
聖剣の件、真偽は定かではない。
だが、調子に乗っていることは確実だ。
現にアルマが聖剣を手放した時には、
この部屋を破壊せん勢いで暴れていた。
「ほぉー……妖精に聖剣ですか。彼女の事をご存じで? ……あ、お嬢さん。私も最高級のワインを」
「はい! ただ今!」
「ええ……少々縁がありましてね。
よくある話です。理不尽に苦しんでいる彼女に、救いの手を。
まあ、神に仕える以前に、人として当然の行いをしただけですなー」
「なるほどー。大司教様とは気が合いそうですなー」
「「はっはっはっはっはっ」」
お付きの人たちが先ほどとは豹変した二人を見て、唖然としていた。
逆に他の貴族たちがその辺をフラフラとゾンブの如く謎徘徊をしたり、
頭を抱えて絶叫したりしていた。
アルマは歩き出す。相手が適度にばらけている、その中心に向かって悠々と。
全員が一斉に攻撃を仕掛ける。
そして、余裕で回避をし、誰にでも分かるように背後をとる。
しかし、何もしなかった。
(見つけた……赤の⑧ね)
彼を狙った際、ゲルデが動揺を見せた。
カレンの近く跳ぶ。
「カレン。⑧は倒しちゃ駄目。それと⑤と戦って。相性がいいわ」
「うん!」
「な、嘗めるなよぉ!」
その会話が聞こえていたのか。
怒りに身を任せ、カレンに襲い掛かる。
しかし、観客も驚くほどにカレンが凄まじい接戦を演じる。
この大会でかなり強くなっているようだ。
私には魔剣使いの二人が遅いかかって来る。
それぞれ風と水を自在に操る。
「《黒焔くろほむら》」
彼等が出す風と水を蝕む炎が発生した。
それは魔法。いや、魔素を辿って行き、終には剣に辿り着く。
「なんだこれ!」
「消えろぉ!」
そして、燃え盛る黒い炎は魔剣を砕いた。
そこでようやく消滅した。
「馬鹿なっ……!?」
「魔剣が……っ!?」
(え? なんで壊れたの?)
この魔法。意味は分からなかったけど、
とりあえず接近して二人を蹴り、
場外に飛ばす。
『強すぎるぅぅぅぅ! 圧倒的だぁぁぁあ! 明らかに異常な力を持つ剣を手放し!
尚も、携えるその剣を抜く気配が無いぃぃぃ! まさに古代伝説のドラゴン! 誰が彼女を止めるんだぁぁあ!』
【観客席】
「ぁ……ぁ……終わった……俺の全財産……試合の前……悪かったな。馬鹿にして……」
男が隣を見ると、親友は居なかった。
親友は最速で逃走していた。
全財産を失った男は叫んだ。
「そいつ! アルマに賭けてるぞ! 追え!?」
唐突な十数人での追いかけっこが始まる事もあった。
それほど会場は混乱の渦に巻き込まれていた。
そして、ある男が特別席にふと目をやった際に気が付いた。
「あれ? 貴族たちが何か凄く悲しんでるなぁー……」
「あれあれ? もしかしてー……」
「あれあれあれ。あの倍率。きっとすげー金額が動いてるよなー」
「どうせ負けなら……皆負けでっ、いいよなぁー!!!」
「「「「そうだなぁ!!!!!」」」」
そこで会場の空気が変わった。アルマコールだ。
憂さ晴らし。ではなく純粋な気持ちでアルマを応援しだした。
それに最強のパーティーが動揺を見せた。
観客、いや会場全体が揺れている。
ここまで観客が敵に回ったのは初めてなのだろうか。
【ドラゴンスレイヤー】は焦りを見せた。
カレンはその焦りを見逃さない。
堅実な部分もあるが、日頃から見ている、
アルマの影響もしっかりと受けている。
急に大胆に、深く踏み込む。強烈な一撃。
「クッ! ガキぁ!」
止められた。
だが、そこからさらに勝利を引き付けようと、
ありったけの魔素を集め、
ウインドスラッシュを大量に放つ。
相手も負けじと氷の魔法で対抗する。
結果……二人は同時に倒れた。
観客が湧き上がる。
『素晴らしぃぃ! お互いに46点獲得です! いやぁー、見ごたえのある勝負でしたねぇ』
『まったくです! まだ子供とは思えぬ強さ! カレン選手もゴールド以上の実力が在りそうですね』
『ええ! 今後の成長にさらに期待ですねー!』
(頑張ったね、カレン)
そして、さらに歓声が響く。
『おおーっと!? 残ったのは赤⑧だけだぁぁぁ!!
果たしてどちらが勝利を手にするのかぁぁああ!!』
彼は後退りをする。怯えているので丁度良い。
「ねぇ……ゲルデからお金受け取った?」
「!? ……ななな、何の事だッ!?」
「あ、そう……もうその反応だけで十分」
じわじわと歩いて追い詰める。
そこで特別席の女性が魔道具で拡声し、叫んだ。
「やめなさい!!」
その場所を見るとゲルデが居た。彼女は続けざまに叫ぶ。
「あ、貴方! 三倍欲しくない!?」
(優勝賞金の三倍って意味か。馬鹿……堂々と宣言しても得はない。
よっぽど焦ってるのね。ちょっと意地悪しすぎちゃったかな。まあ、一度反省しなさいな)
「い、いえ! 五倍っ……じゅ十倍出すわ!」
別の部屋にいる大司教は高級ワインを片手でクルクルと回す。
そして、悲愴に満ちた表情でそれを聞いていた。
「哀れな……妖精に認められた者が、金で動くものか……」
(現状で一番最悪の手はカレンに手を出すこと……
おお、神よ、なんと恐ろしいことか。
触らぬ女神になんとやら。退散退散……)
「大司教様……これも何かの縁。
少し協力してもらいたい……事があるのですが……」
彼は思い出した。怒っていた伯爵。娘。罠。あぶり出す。
そんな言葉が脳裏を過る。
その協力が凄まじく面倒な要件を察した。
(くぅっ。捕まったぁ……ッ)
ゲルデはまだまだ諦めずに叫んでいた。
「貴方、私に逆らうとどうなるか分かってるの!?」
その時、会場の人が食いついた。
「おお! 必死だな!」
「ああ! 必死だなぁー」
「あー負けたけど、美味しい雑草が食えそうだわー」
「飯なら俺が奢ってやるよ」
「マジで!」
「嗚呼、破滅する貴族を肴にな」
「友よ!」
そして、さらにアルマコールは加速する。
リングのうえでお互いは向き合う。
「でも……貴方は無理かもね。
こっちのチームに干渉してきたゲルデ嬢と手を組んだ。お金を受け取ったものね……」
「くっ! くそぉぉぉぉ!」
赤⑧は怒りの形相で、襲い掛かる。
彼の一撃を避け、指で軽く顎をはたくと意識を失った。
ゲルデは青ざめた表情をしていた。
「ぁ、ぁ……ぁぁあああっぁああぁぁぁあああ!」
(どれだけ賭けてたのやら……)
しかし、何とか立て直したゲルデ。まだしぶとく食いついて来た。
「八百長よ! アルマって女は金でそいつらを買収したのよ!
だっておかしいじゃない!
シルバーごときがオリハルコンに勝つなんて!
貴方達もそう思うでしょ!」
負けた貴族や観客を取り込もうとしているようだ。
確かにおかしいとは思うが、同意すると全力で戦った者への侮辱になる。
観客は少し悩んでいた。貴族たちは観客の反応を見ていた。
それを見てゲルデは畳みかけようとする。
「その女は本当は強くないの!
そもそも序盤でオリハルコン同士で戦って、
潰し合ったのもおかしかったのよ!」
(面白い人……それなら)
「良いよ」
「え?」
「この場で私を倒した人に賞金全部あげる。
負けたパーティーでも、観客でも誰でも良い。
手段は問わない。
悪意があろうと無かろうと、どっちでもいい。
来なさいッ。
納得したい人、全員でッ」
「……ッ」
その時、静かに成り行きを見ていた国王が立ち上がった。
「その提案……許可する」
会場に大きな歓声がこだまする。
『おおっと! これは凄い展開だぁぁぁあ!
国王陛下、直々のお許しが出たぞぉぉぉ』
『アルマから賞金を奪い取れ!!!
それではぁぁぁあああ開始ぃぃぃっぃ!!!』
その合図と共に腕の立ち者が一斉に襲い掛かる。
ゲルデもさりげなく護衛を差し向ける。
「カレン、もうちょっと待ってね」
「うん!」
「《アイトファルチェ》……」
抜いた剣が黒い何かに覆われた。闇属性の魔法だ。
複数の影が四方八方に驚異的な速度で伸びる。
(不思議ね。体が。この魔法を選べって、教えてくれた)
高速で伸びた平面の影から、細い円柱が無数に飛び出して、次々と挑戦者の意識を奪う。
認識する暇も無く、倒れた事にすら気が付いていないのが大半だろう。
(ぅ、凄い魔素を持っていかれるわね。
それに本当は、影の刃として使うみたいね……
黒衣の死神さんか。納得)
大司教は聖騎士がやられた事を思い出す。
(そうだったな……全ては杞憂だったのだ……アルマ。
傲慢で強欲なパーティーが偶然生み出した最強無双の魔法剣士……)
結果は一瞬だった。
立っていたのはアルマとカレンのみ。
倒れた者の中に【ゴールドキング】と、
【フォーリングスター】も混じっていたという。
挑む者が居なくなったのを確認し、
国王が堂々と宣言する。
「勝者……【ウォーリア】ッ」
『決まったぁぁぁああ!? 第二十回のギルド対抗戦は【ウォーリア】の優勝ぉぉぉおお!!!』
(一万枚だっけ? ええっと。まっ、カレンよりは軽いでしょ)
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