6話  教会

 尖った耳の少女を抱え、一晩中走った。

朝になる頃には教会へと人通りが無い場所を通って辿り着いた。

私を見て驚く司教。司教からローブを渡されたのでそれを着た。


 その間にも少女に気が付いた彼は、

事態を一瞬で把握し、大司教を呼び、すぐに人払いを済ませた。



「この娘の呪いを。解呪をして欲しい」


「不可能だ……」


「その方法も知らないの?」



「……その通り。私たちに出来る事は隔離のみ。

死後に呪いが解き放たれぬよう。

特別な結界に封じ込め、安らかな死を待つ。

それ以上、誰かを苦しませる事が無いように」


 司教が少女の在り方に言及した。


「それにその方は恐ろしいまでに、禍々しい呪壺です。

さらに特別な。上位の結界に封じなければなりません」



「そう……お邪魔したわね。そうだ。他に解呪に詳しい人は分かる?」


「私以上に詳しいお方など、限られている……

それよりも。その少女をどうするつもりかね?」



「連れて行くに決まってるでしょう? 隔離何て絶対に許せない」


「愚かな……」



 教会に使える聖騎士が30名ほどぞろぞろと出て来た。



「【ブレイブヒーロー】に属していながらも、

ホワイト等級。その中でも落ちこぼれた最弱の剣士だったな。

知っているよ。君も捕獲対象だ。その禁忌の呪術。

少なからず、関りがあるのだろう?」


「ええ、大ありよ。大司教様」


 大司教の合図と共に一斉に騎士たちが襲い掛かる。

その騎士の動きを見た感想、それは。


(遅い……)



 鎧なら斬撃よりも打撃。

最も近い騎士に掌底を入れる。私は驚く。

最低でもアダマンタイト金属を使用しているはずの鎧が、

紙の様に簡単に穴が空いた。しかし、これは金属。

内側に向かって鋭く尖った部分が、

彼の体に食い込みそうになった。


 不味いと思った私は、ギリギリで掌底を止めると、

相手に《ヒール》をかけた。

騎士は凄まじい勢いで吹き飛ぶと背中を強打し、

意識を失った。


「な! ないぃ! 何故聖騎士が!?」


「ごめんね。手加減とかした事ないから……だから来るなら、覚悟して来て」


「ぇええい! 貴様等、素手の最弱剣士に何を恐れている! 捕まえろ!」



 騎士が剣を振り下ろす。

彼女がそれをいなそうと剣の腹に軽く触れた瞬間、

剣が凄まじい勢いで飛び、壁に刺さる。


「優しく……触れる様に……」


 自分に言い聞かせながら、

軽い掌底を繰り出す。

騎士はやはり吹き飛び、

壁に衝突すると地面に転がった。


「まだまだ、弱くしないと駄目か。

でもコツは分かってきた。

っと、こんなのに構ってる暇は無いんだった!」



 埒が明かないので素早く動き、頭を軽くこずく。

騎士は次々と意識を失って行った。



「馬鹿な! 最弱の剣士が何故!?」


「……大司教様! まさか……呪詛返しッ」



 そこで、尖った耳の少女の方を見た。

信じられない。信じたくないと言った感じであった。


「……そ、そんな馬鹿な! ありえん!」


「言って置くけど、私……呪術の知識は無いわ。

だからわざわざここに来た……

危険を冒してまでね」



 司教が思い付きを口走り、

アルマの言葉を聞いた瞬間、大司教は全てを理解する。

恐ろしい形相でわなわなと震えだす。



「ッ……!? シビルぅ……まさか、奴がぁぁっッ」



(流石は大司教様、ね)



「ッそ、そんな事が……だとしたら不味いです。

【ブレイブヒーロー】の神官が禁忌に手を染めたなどッ。

そのような事実はッ……」



「今すぐ事実を確認しろ!」


「はい!」


 司教が情報を集めに走り出した。



「大馬鹿者めがぁ……アルマよ。契約を結ばぬか? 

もし、君の言っている事が真実の場合、

私たちはやらねばいけない事がある」



「事実確認後に契約を結びたいってこと……でも私には時間が無い」



「正直、状況証拠だけで殆ど真実に近づいていると思っている。

もしもの時に契約をこちらから解除するための保険をかけたい」



「分かった……その内容は?」



「この事は口外しない事。

シビルは我々が処理する。

この件の終息に我々が関わる事だ」


「私怨は抑えて、

お互いに何時も通りの生活を送れるように手回しするってことね……

見返りはなに?」



「解呪の……いや、おとぎ話を教える事……」


「おとぎ話? それを頼りに解呪の方法を勝手に探せって事?」


「それほどまでに強力な呪い……奇跡に頼らねば……どうする事もできん」



「その他の連中は?」


「知らぬ。その者達は教会に関りは無い。

きっと何処かで野垂れ死ぬであろうな」



「私が急に強くなったのをどう説明するの?」


「伝説を探しに行くのだ。

お前は当分、姿を見せない。

その間、適当に説明は考える」


「概ね大丈夫。でも今は納得するけど、後から何か湧きあがるかも。

だから、シビルが禁忌に触れた事実を隠せるのなら。

教会に害が無いなら。

私はそれなりの報復をしても大丈夫?」



「……やりすぎぬ様にな……契約は成立か?」



「最後に……その方法が存在しなかったら?」



「その時は……特別にその少女を好きにしてよい。

ただし、呪いがばら撒かれる可能性がある事は理解しておけ。

少女を救おうとするその心。

騎士を誰一人として殺さなかった君の良心を信じよう……」


 人の居ない場所で息絶えろと遠回しに言う。



「ええ、契約成立……教えて」


 契約書を作成し、お互いに血で母印を押す。

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