7話  泉の妖精

 大司教が言うには、東の森に泉があり、

その泉には妖精が住んでいる。

もしもその妖精と会う事が出来れば、

呪いを解けるかもしれないとのこと。



 付近の教会にも協力してもらえる様に紹介状を書いてもらう。

苦しそうな少女を背負うと早速東の方へと走り出す。

彼女たちが去った後に大司教は呟いた。



「神の御加護があらんことを」




 走る。道が在ろうと無かろうと、ひたすらに走った。

馬では登れない急斜面を駆け上がっては、駆け降りる。


 《ヒール》を常に少女にかけているが、

気休め程度。少しづつ力が弱くなってきている。


 一瞬、少女を気に掛け、ふと前に目線を戻すと、

盗賊が数人いた。

悪い笑みを浮かべ、道を塞いでいる。

無視しようと思ったが、女盗賊が紛れていた。


「おい止まれ! 俺たちは無く子も黙る極悪非道の盗賊! 

有り金全部は勿論のことッ、二人とも」「ゴグぁぅハッ!?」



 蹴りを顔面に入れる。《ヒール》キック。

回復魔法を足で使い、

怪我の具合と回復の差異の調整で、軽減する方法を思いついた。

と言っても前に聖騎士に掌底をして、

殺しかけたミスを補った。

それを最初からやってるだけなのだが。

兎に角これなら多少手加減に失敗しても殺さずに済む。

取りあえずの臨時の対応である。



 女盗賊の方を見ると、

私の顔を見て怯えた表情を見せ、後退りした。


「盗賊さん。丁度良かった……動き易そうな服だね」


「ひぃ!」



 一瞬で倒し、服を奪って着る。

葉っぱ下着にローブより動き易くなったので、

さらに加速できる。

その過程で襲い掛かって来た盗賊も五人ほど倒した。



「次、牢獄以外で会ったら、もっとひどい目に合わせるから……」



 地面にある剣を足を器用に使って真上に飛ばす。

そして落ちて来る剣に蹴りを入れる。

その剣は綺麗に真っ二つになった。

それを見て盗賊は言う。


「は、はい! じ、自首します!」



 それを信じ、先に進む。後でこの辺は見て回る。

その後も魔物もほぼ一撃で倒すか、無視して進む。

教会で多量の食料を貰い道を聞く。


 そして、秘境の地に辿り着く。

しかし、泉には辿り着けず彷徨う。


「何処! 何処に泉があるの!」



 疲れがたまり、イライラが爆発する。

そこで私は目を細める。

半透明の小さな竜が居た。

30センチほど、桃色で手足が短い。二足歩行の竜だ。


 不思議とその竜を追う。

翼を使わず歩いてぴょんぴょんと跳びながら移動する。

追っている最中に見えない、

薄い膜の様なモノに当たった。

蜘蛛の巣に近い感覚。



 暫く着いて行くと、そこには光る泉があった。

そして、美しい人の形の妖精が現れた。


 それは竜の頭を撫でると、再び歩きだし、

泉の周辺で消えた。私に。

どちらかと言えば、背負っている少女に妖精が言った。



「……非運な者よ。よくぞこの地に辿り着きました。

どのような願いでも二つだけ、叶えましょう」



 少し掴む力が戻った少女を地面に優しく下ろす。

その時に見た顔は心なしか柔らかくなっていた。

どうやら妖精が何かしてくれているようだ。


「この少女にかかった呪いを全て解呪。私が望むのはそれだけ」


「貴方の願いは良いのですか? もう一つも遠慮はいりませんよ?」



「要らないから早くその子を治して欲しい」



 それを聞いて妖精は笑い出した。



「良いでしょう。気に入りました。

特別に願いを叶えましょう、と言いたいのですが」


「無理なの?」



「どうも最近、この辺りに魔物が住み着いた様で」


「倒しに行けばいいのね? その子を預けても?」



「会って間もない私を信じるのですか?」


「私は呪術に疎い。信じるしか無い。

それに……その子より、

貴方との方が多く会話してるくらいには、

行き当たりばったりだから。もう今更……」


「そうですか」



「それと特別にって言ったけど?」



「どんな願いでもと言いましたが、

あれは嘘……そんな事は不可能です。

かなり遠い位置からでも貴方の願いは分かりました。

その呪いはそれほどのもの……

私でもそれなりの代償を支払わなければなりません。

出来ればやりたくないので、

二つめの願いを聞いてから了承するか決めようかと……

もし、それが下らない願いだったら……」


「その魔物は何処に?」



「北西の方です。それではよろしくお願いします……

そうでした、これを……」



 空間からどことなく剣が現れ、それがゆっくりと降りて来た。

両手を出し、落ちて来るそれを受け止めた。



「聖剣エヴィニスティリオ。幻の鍛冶師、ジーンが鍛えたとされる聖なる剣」



「……何これ……あり得ない……」


「流石です、分かるのですね。その力の奔流が……」



「恐ろしい力。この世に存在して良い物じゃない……

何故こんなものを私に?」



「私では使いこなせないからです。

その聖剣は使用者を選びますので……それではお気をつけて」




 早速、魔物を狩りに行く。それは現れた。

全長九メートルほどの黒く気持ちの悪い生物。

様々な生物を適当につなぎ合わせた造形だった。

飛行に役立ちそうに無い、蝙蝠の様な翼も特徴的だった。

そして、禍々しい負のオーラを発し、それが木々を枯らしてした。



「うっ……異臭……」



 かなり遠くからでも分かる腐敗の臭い。

それは私のと目が合うと襲い掛かって来た。


(デットリータイガー以上の魔物ッ。油断は駄目ね)


「時間が無いから全力で行くよ。この聖剣の切れ味、試させてッ」



 鞘から剣を僅かに出しただけで強烈な光を放つ。

半分ほど剣を抜いた時、魔物は消滅した。


「え……け、剣を振るまでもないなんて……そんなのあり……ッ?」



 魔物を倒して戻ると、少女が丁度目を覚ました。

私は思わずその少女を優しく抱きしめた。


「ありがとね! 本当にありがとう! 貴方のおかげで私はっ」


 少女は困惑していた。自分が何故ここに居るのか。

何故生きているのか。

そして、何故呪いが消えているのかが分からなかった。


 ただ、少女はアルマの抱擁が心地よかった。

少女は微笑み、同じく抱き返した。

少女もまた病み上がりのたどたどしい声で、

ありがとうと返した。



 彼女の名はカレン・フォーア。十歳。

エルフと言う自然を好み森に住む一族だ。

最近では都会に出て来るものもいる。

彼女もその一人で都会に出た所を攫われたらしい。

カレンにも今までの経緯を話した。



 落ち着いたところで妖精が驚きの発言をした。

どうやらまだ眠っている、本来の力。

潜在能力を解放してくれるらしい。

手を頭に当てると優しく光り出す。


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