スタート

閑静な住宅街、と言ったところだろうか。

一人、そびえ立つ数寄屋門の前に取り残された朋美は、自らの手元に目をやった。

預かった鍵は3つ。

この中に目の前の門を開ける鍵は、ない。


〝めんどくさいです。何で正面門から出入りしちゃいけないんですか?〝


気さくな鮎川ならともかく、辻とはそんな軽口を叩ける間柄ではなかったため、ただただ疑問だけが残る。

つまり、屋内にたどり着くにはわざわざ車庫を通り、勝手口から回り込んで階段を上り、やっと中に侵入できるという複雑な構造をしていた。

とにかく扉が多く、それが何だか閉じ込められているようで、嫌な閉塞感があった。

とは言えずっとここに突っ立っているわけにはいかない。

朋美は裏口へと回り、幾つかの扉を突破した後、ようやくその屋内へと足を踏み入れた。

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