坂本理沙

「ぁぁああああああああああ!!!」



「うん、だからやべぇ奴じゃん。」



どっと笑いが起きる。


一同は各自スマホのライトを照らしながら、荒れ果てた元ラブホテル内を踏み荒らしていた。


「いや、プラスのパワーっていうの?大声出してれば霊とか絶対寄ってこないんだって。だから皆やろうぜ。」



「お…

「やめとけバカ。流石に迷惑だろ」


翔に続いて奇声を発しようとするみのるに、比較的常識人の隆司がラリアットした。


「バカじゃねぇわ。

こんな人里離れたとこで迷惑もクソもねぇだろ。」


「もぉうるさい~」——


とある廃墟に、モラトリアム期間を余す事なく満喫する男女五人の大学生集団がいた。

察しの通り、目的は肝試しである。

翔は当初、ペアで回るはずだった女子が急遽来られないと知ってぶつくさ文句を垂れていたが、「もう全員で回ればいいじゃん」という事になり、このような状況にいたった。

それでいて結局一番楽しんでいるのが翔。

こういう性格の人が一番幸せなんだろうな、と隆司は思う。


はしゃいでどんどん奥へ進む男達を尻目に花は、ふとさっきから発言のない理沙に声をかけた。


「ねぇ理沙、大丈夫?さっきからなんか顔色悪いけど」


「…………うん、ちょっと。」


その場にしゃがみこんだ理沙に合わせてとりあえず座る。


「実は昼に知り合いに電話かけてる時さ……中学の同級生とちょっと話して。

色々嫌な事思い出したらなんか無理になってきた。

あと…さっきから耳鳴り止まんない。」


その様子を見て、たまたま同じ中学だったみのるが、いつになく神妙な顔つきで言った。


「あぁ……あの事か。」


「おいおいどうした」という感じで先に行っていた2人も引き返してきた。


「中学時代の理沙、結構トガってたもんな。どうせあいつの事だろ?」


「えっ、何々?なんかあったの?」

それを知らない他メンバーはちんぷんかんぷんという様子で頭に?を浮かべている。



「いやこいつ、いじめで女転校させたからね。」


「へぇー、やるじゃーん。」

誰も興味がなさそうだった。

この集団の中に被害者側に回った経験のある者はいないのだろう。


「いやあれ私だけの責任じゃないっしょ!みのるとかもやってたし、そもそもあれくらいで…」


ここまで理沙がムキになるのには理由があった。

みのるはただの人間だから、このように軽く口に出せるのだ。


「どしたの理沙っち。いつもの感じじゃねーよ?」

「本当にやべぇならこれからどうするよ、引き返す?」


「頭痛い。頭痛い。痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!!!!もうやだ帰る…」

理沙の耳鳴りは悪化する一方で、ついに耳を塞いで地面にうずくまってしまった。


茶化せる空気でもなくなり、一同はお互いの顔を見合わせた。

誰がこんな事になると予想しただろうか。

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