憂鬱
「木内さん、この前たまたま君の担当場所通りかかったんだけどさ。」
出勤早々、上司の辻がじとりとした目で言った。
「2階の雨戸、開けてなかったでしょ。
それくらいちゃんとしてもらわないと困るよ。」
「…はい、気をつけます。すみませんでした」
木内朋美は、数か月前からアルバイトとして、この不動産会社の事務員の一人として働いていた。
と言っても小さな会社で、人数不足のカバーとして、時折売り出す物件(オープンハウス)の現地で待機させられる事も少なくなかった。
オープンハウス。
間取りを見てあれこれ想像を膨らませるのが楽しいという人は多い。
買う気は更々ないが、冷やかしにふらっと立ち寄ったことのある人は多いのではないだろうか。
あれは基本、そこが見学可能だという事を外部にアピールするため、全ての雨戸を解放して室内が見える状態にしておく事が決められていた。
そこでひたすら待機し続け、客が来ると対応し、適当に接客しながら細かい説明を行う。
マニュアルもあるし、される質問といってもある程度決まっていた。
多少の知識さえあれば客が来るまで特にすることのない、言ってしまえば楽な仕事であるが、家に一人で監視役もいないとなると人間、手を抜く生き物である。
たまたま前回、理由あって待機先の二階の雨戸に手を付けなかったのを運悪く上司、辻に見つけられ、咎められているというわけである。
「…あの、今日の待機場所、またあそこなんですよね。」
「何?文句ある?」
「……いえ、大丈夫です。」
朋美はひどく気が重かった。
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