オープンハウス
金平糖
プロローグ
「あれ、木内さんって下の名前綾子だっけ。」
上司の鮎川が、退勤前の朋美のカバンにつけられたキーホルダーを見てふいにこぼした。
カバンには少し前に流行ったゆるキャラ「ポムりん」のマスコットと一緒に、「AYAKO」というタグがぶら下がっている。
「…え?
あぁ、これ。中学の修学旅行で。
当時親友だった子の名前なんです。
ノリでお互いの名前交換して。」
「ほう…。
えっ、おじさんちょっと分かんないんだけど、今の子ってそういうのが当たり前なの?なんていうか…」
「鮎川さん、セクハラっすよそれ」
「あっごめんごめん違うんだよ本当、そういうんじゃなくて…許して」
その明らさまに慌てた様子はいかにも「かわいいおじさん」。
朋美は思わず微笑んだ。
鮎川真一。
彼は朋美よりも15ほど歳が離れていたが、営業マンなだけあって清潔感があり、すらっとしてスーツが似合う顔立ちをしていた。
この会社に入った時から彼には色々助けてもらっており、そうでなくてもこの憎めない感じが好きだった。
「当たり前かどうかは分からないですけど、女の子の友達同士って結構普通に手とかも繋ぎますよ。」
朋美は鮎川が何か勘違いをしている気がしたので、一応そう断っておいた。
「いやぁ、男にはわかんない感覚だね。田中君はやる?友達とそういうこと。」
「いや~ないっすね。街歩いてても……」
何やら雑談が始まりそうだったので、朋美は軽く頭を下げた。
「じゃあ、お先に失礼します。」
「あぁ、お疲れ様。悪かったね呼び留めて」
朋美は事務所を後にし、帰路に就いた。
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