届かない手紙

田川侑

届かない手紙

親愛なる仲間達へ。


 お元気ですか。

 僕はあまり元気とは言い難いですが、皆んなとの思い出を胸に今日まで生きてます。

 時が経つのは早いもので皆んなと別れてから今日でちょうど一年が経ちました。

 もし、もう一度だけ会うことができるのであれば皆んなに聞いてほしい話が山程あります。 

 でも、それは叶わないかもしれないので、この手紙に伝えたいことを記そうと思います。

 それとごめん。

 別れ際皆んなに酷いことを言ってしまったことを謝らせてください。

 本当にごめんなさい。

 もう会えないかもしれないから面と向かって謝ることはできないかもだけど、このまま喧嘩別れが最後なんて嫌だから、いつか仲間の誰かがこの手紙を見つけてくれることを願っています。

 

 

 皆んなと別れてから僕はすぐ一人の少女と出逢いました。

 彼女との初対面は最悪なものでした。どちらかが悪いと言うのであれば、多分僕が悪いんだと思うんだけど、状況が状況だしあんなことろでまさか水浴びをしているなんて思いもしなくて。

 謝ろうとしたんだけど、顔を合わせて早々に顔に思い切り平手打ちをもらったことがすごく印象的な出逢いでした。

 それから彼女と行動を共にするようになり、彼女の色々な面に触れていくうちに、次第に僕の胸の内に一つの感情が生まれました。

 彼女の他人を第一に思う優しい心、ふとした時に見せる寂しそうな表情、ふざけている時の無邪気な笑顔、僕が自暴自棄なことを言うと真剣に怒ってくれるところ。

 言い出したらキリがないけど、そんな人一倍優しい彼女を好きになりました。

 同じ時を過ごせば過ごすほどにこの思いは増していき、忘れもしない雲ひとつない青空の日、僕は彼女にこの気持ちの胸を伝えました。


 結果は、泣きながら承諾してくれました。

 そんな彼女を見ていたら思わず僕も泣いてしまってしばらく二人して泣いた後、ひたすら笑い合ったのを今でも鮮明に覚えています。


 それからの彼女との日々はすごく、すごく楽しかったです。

 二人でいろんなところへ出掛けました。

 移動手段が徒歩しかないからあまり遠くまでは行けなかったけど、近くに遊園地や公園、ショッピングモールなんかがあったから退屈しのぎにはなったかもしれないですね。

 まあ僕は彼女と一緒ならどこにいても楽しいんだけどね。

 そうそう、ショッピングモールで一匹の子犬を拾った時は二人して喜びました。

 どこに行っても〝まともな人間〟にも動物にも会えかったからすごい嬉しかった。

 ただ、かなり衰弱していたのもあって、一緒にいられたのは数日間だけでした。

 

 そして、子犬が死んでしまってから数日後の晩から彼女の様子がだんだんとおかしくなっていきました。

 お別れの時が近い。そう思ったのか、彼女は僕にあるお願いをしてきました。

 何度も何度も悩み、数日かけてようやく決心をしました。

 とても辛かったけど、あんな化け物になるくらいなら、良かったんだよね。

 僕もすぐ逝くね。


 

 ここまでいろいろ書いてはみたけど、そろそろ限界みたいだから書くのはここまでにしようと思う。

 読み返してみると、皆んなへの手紙なのにほとんど自分のことばかり書いてしまったみたいだ。

 でも皆んなは優しいからきっと許してくれるよね。


 皆んなと別れた一年前のあの日、

〝世界がウイルスに侵された〟あの日から今日まで生きてこられたのは、彼女の存在や皆んなとの思い出があったからこそです。

 もし、皆んなの誰か一人でいい。今もどこかで普通の人間として生きていて、もしこの手紙を手に取り読んでくれたのなら、次に会う頃にはきっと今までの僕ではないと思うけど、

 どうか僕を見つけ出して、



 殺してほしい。

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届かない手紙 田川侑 @tagawa_yu

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