第47話 本当にそれは、君の思いなのかね?
高丸君がD学院に通い始めて3年、いよいよ卒業が迫ってきた。
レポート対策は順調で、岡山駅前にあるD学院校舎にもほぼ毎日通い、しかも学校が行う行事には積極的に出るようになっていた。
当時のD学院HPで、彼がかれこれの行事に参加している姿を度々目にした。
しばらく検討した結果、彼はゲームクリエイターになりたいのでコンピューターの専門学校に行きたいと言い出した。その専門学校は関西圏の某駅前にある。D学院は私が紹介したが、今度は高丸君自ら専門学校を探し出してオープンスクールにも通い、受験を決めた。
幸い受験科目は面接だけ。高卒資格に必要な単位はすべて取得したので、彼は高校卒業見込の受験資格で専門学校を受験するわけである。
レポート対策もいくらか残っていたが、2009年の夏から秋にかけて備作アカデミーとも相談し、いくらか指導時間数も増やして面接指導の要請を受けた。
面接といえども試験。
まずは想定問答を作成。即答できるならともかく、慣れるにはまずどう答えるかを紙に書くなりパソコンに打込むなりして文章を作ってみる方がいい。
私はノートパソコンを高丸君宅に持込んで想定問答を打込み、それに基づいてまずはしゃべってもらい、それでおかしいと思えば修正を加えていった。
できたデータは自宅でプリントアウトしてもらい、それでさらに練習を重ねた。
想定問答通りに進めても問題ない質問ならいいが、志望動機や将来の進路、何よりこの学校に進学して何をしたいかという質問になると、書いた通りをそこで話せばいいというわけにもいかない。
試験といえどもやはり面接であり、そこは面接官と受験者との会話の場である。
普段の何気ない会話同様、いやそれ以上に、どんな対応が相手から返って来るかわからない。そこにも柔軟に対応できる会話力を磨かなければいけない。
いくら取繕った回答を用意してそれを面接官の前で吐出して回答しても、それに真実味がなければ相手も果たして彼(彼女)を合格させていいものかどうか、考えざるを得ないのは当然である。
そして2009年8月下旬。
彼は関西のコンピューター専門学校の受験に赴いた。
いよいよ面接が始まった。
これは高校受験のように一通りどんな人間かを面通しするようなものではない。 相手がどれだけ本気でここにきて学ぶ意欲があるかどうかを問うものなので、かなり突っ込んだところまで聞かれる。当然一人にかかる時間も長くなる。
実際にはせいぜい10数分程度だろうが、これで下手すれば一生が決まりかねない受験者側にしては、大げさでもなく一世一代の舞台。緊張しないはずもない。
なかには推薦入試の面接で受験先の大学やその創始者をボロクソにたたいて面接官を唖然とさせ、それでも合格したものだから、本来の志望校をやめてそちらに進学したという人物もいるそうだが、そんな例はあくまでも例外中の例外(その大学は、しっかりした批判精神のある受験生は合格させるという)。
彼はもちろん、相手をぼろくそに言っても合格するような人物ではない。
面接官の質問に、ぎこちないながらも必死かつ誠実に答えていた。面接官に思うところがあったのだろうか、ついに彼に対してこんな質問をしてきた。
「先ほどからこちらの質問に対する君の答えを聞いていると、どうもどこかで書いて覚えてきたことをここでひたすら吐き出しているだけのように思えて仕方ない。それはところで、君の本当に思っていることなのかね?」
後に聞くとさすがに彼もびっくりしたそうだが、臆することなく彼は答えた。
「はい、ぼくが本気で思っている通りです」
その答えを聞いた面接官、間髪を入れず、一言。
「よし、合格だ!」
こうして高丸君は、この専門学校に合格し、大阪に住んで通うことになった。
彼が面接で機転の利いた対応ができたが故に合格したことは、私の指導の成果であるなどとおおっぴらに喧伝するつもりはない。
百歩譲ってもらってそうであったとしても、高丸君はD学院の存在なくしてこのような結果は出せなかったのではないか。D学院という居場所を確保し、そこで先生や他の生徒と話をする。たったそれだけのことでも、不必要な孤独感からは逃れることができる。それだけでなく、そこで人との接し方が自然に身に着けられるわけである。そういう基本的な人とのつながりのベースがあったからこそ、面接でそこまでの機転が利かせられたといえよう。
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