第7話 時代とともに消えていったもの

 世間がバブルで浮かれていた1980年代後半、通信制高校はこれほどの脚光を浴びるほどのことなく、大検もようやく世間に知られ始めたばかりだった。

 今ではとうてい信じられないほどこの手の「情報」も出回っておらず、ましてそれを積極的に与える人物もいなかった。そのようなプロモートのできる書籍もさほど出版されておらず、そういう方向に導く能力を持った組織さえもほとんどなかった。


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 大検については、日本加除出版という出版社が刊行していた「大学入学資格検定便覧」という書籍があった程度。

 確かに大検の前年度の過去問が掲載されてはいたが、1年分のみ。「~勤労青少年のための勉学の手引き~」という副題が掲げられていて、定時制・通信制高校の他、国公立の二部(夜間主)大学や通信制大学の情報が紙面を割いていた。


 この書籍は平成2年頃を境に出版が止まっている。

 それは大検のさらなる普及が影響している。そのことに疑いの余地はなかろう。

 勤労青少年のための情報など、当時の大検受験者はもはや必要なくなっていた。

 そんなものは、必要ならしかるべき場所で得られる。そんなものより、大検の過去数年間の過去問のほうがよほど必要である。複数年の過去問もなく、満足な試験対策もできない昔ながらの時代錯誤感ありありの「便覧」が消えていくのは必然だった。


 大検を受検し大学に行こうという者は、ほぼ例外なく情報の重要性を肌身で理解していた。

 かの「便覧」は確かに、彼らの期待に応えてくれた。だが大検絡みの情報以外は、彼らにとってはもはや必要のない情報でしかなかったのである。


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 今でこそ不登校は誰でも起こり得ることとして認識され、各地で様々な取組がなされている。高校を中退したところで通信制高校等の学ぶ場所はいくらでもあるし、高認の合格要件は大きく緩和されている。


 高校受験や大学受験でさえも、私立高校・大学を中心に漢検こと漢字検定、数研こと数学検定、そして英検こと英語検定などの外部資格の一定級以上に合格している者は入試の点数に一定の加点をすることを公言している時代。

 大検以来高等学校で一定数以上の単位を取得した者に対して申請すれば科目受検の免除を与えていた高認だが、今や、英検準2級以上の合格者には英語の科目受験を免除するなどの規定を設けている。

 そればかりか、以前は夏に年1回だった受検機会を年2回にするなど、受験生のために最大限の便宜を図るようになっている。

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