大検から大学へ ~ 養護施設から
第8話 高校受験の失敗
私は、6歳の小学校入学前から18歳で大学に合格するまでの1975年から1988年までの間、岡山市内の養護施設で過ごした。
養護施設よつ葉園は、岡山市内の中心部から少し離れた文教地区にあった。
そこで私が過ごしたのはおおむね7年弱となる。文教地区によつ葉園があったころ、小5の秋の岡山大学の大学祭に通い詰め、鉄道研究会(鉄研)の先輩方に「スカウト」されて通いだした。これは私自身がよつ葉園から自立していく上で大いに役立った。それどころか、大学まで行くモチベーションが常時保たれさえした。
私が小6の年(1981年)の5月下旬、よつ葉園は郊外に移転した。当時小6の私は、10か月間転校先の小学校に通って卒業した。
よつ葉園の子どもたち(法令上は「児童」なのだが、この呼称は本稿では原則として使用しない)が移転後通うこととなった中学校は、よつ葉園からかなり離れた場所にあり、自転車をどんなに全速力でこいでも20分以下に収めることは無理な場所。小6まで自転車に乗れなかった私はやむなく、自転車に乗る練習を始めた。
幸いよつ葉園から道路に出るまでの数十メートルの私道には、緩やかな傾斜があった。そこでまず自転車に乗って足を話していられるようにする。最初から無理にこいだりしない。それに慣れたら、今度は足をペダルに乗せる。こうして二輪車独特のバランスに慣れた段階で、下り坂をこいでみる。それができたら、今度は平地や上り坂でもこいでみる。幸いそこは上り坂といっても平地とそう変わらない程度だから、これで十分、こぐ練習もさほど苦もなくできる。
おおよそ1週間で、自転車に乗れるようになった。
かくして私は、中学校まで自転車で通うかたわら、土曜日や水曜日の早く終わる日には、自転車で戻ってすぐ、これまた10キロ近く離れた岡山大学まで行き、鉄研の例会などに参加した。
学力は県立普通科高校に合格し得るに十分あり(この点は後に大検受験に際して合格を左右する大きな要因となる)、実際受験した。
当時の岡山市内の普通科高校は総合選抜で学力その他の件が勘案され、希望校以外に「回される」可能性がある制度だった。
幸い私は、志望校で合格判定を仰ぐこととなったが、それまでにいろいろあったことも災いし、運悪く不合格となってしまった。1985年3月のことである。
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この時の私を担当していたのは、前川さんという保母(現在の保育士)。
彼女はある短大の幼児教育科を卒業し、新卒でよつ葉園に就職していた。
それほど年の変わらない少年たちの「担当」を、それも高校入試に関わることまでやらされるのは、今思えばかなりの重荷だっただろう。
もちろん彼女の上には「児童指導員」と呼ばれる大卒の男性職員がいたが、彼らならともかく、彼女に私を「担当」させたのは、お互いにとって不幸となった。
彼女はその年度末で、よつ葉園を退職していった。
あとで聞くと、よつ葉園長(当時)の大槻氏はこの件について、児童指導員の梶川氏と前川さんを、これまで何をしていたと職員会議で詰問したという。
結局、定時制高校である岡山県立烏城高校に「ひとまず」進むこととなった。
大槻園長は、翌年再受験すればいいではないかと言った。
だが、私はそれを拒否した。
大検を使って3年後に大学に進めばいい、高校などどうでもいいと言った。
これに対して、そんなことはできない難しいなどと、知りも知ろうともしないで「指導」をする職員たちには怒りと不信感を持っていた。
そんな人たちでも、当時の私には必要な「親代わり」であった。
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養護施設は18歳になって高校を卒業したら出なければいけないと思われる向きもあるが、実は、18歳の高校卒業年齢に達して後も諸般の要件を満たせれば、養護施設は子どもたちをそこで面倒を見ることができる。そういうのを「措置(子ども=児童を養護施設において育てることの行政用語とご理解ください)延長」という。要は「生活保護」を延長するようなもの。
これがあれば「児童」にも職員にも施設経営にも資することになるから、一見悪くはない話である。もし活用できるならすればいい。
だが私自身は、中学卒業時点で、こんな場所は一刻も早く「おさらば」したいと思っていたから、正直有難迷惑な提案以外の何物でもなかった。
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