第14話 研究?成果。
「毎週2回、激闘をくりひろげてるらしいねん」
彼女が言った。
平穏な僕の毎日に、いつも緊迫感をもたらすのは、彼女だ。
今日も、彼女の一言で、僕は、問題解決に動き出す。
14.研究?成果。
「昨日も、襲撃を受けたって」
彼女が言う。
「え。昨日も」
僕もつられて、思わず眉を寄せる。
「うん。このところ、毎回来るらしい」
「それは、困るね。なんとかしたいよね」
「そうやねん。それでね。奴らの習性を研究してみようと思うねん。そして、対応策を考える」
「なるほど。わかった。僕も協力するよ」
「うん。ありがとう」
僕と彼女が住んでいるマンションは、がっちりした倉庫のようなゴミステーションがあるので、今のところ、困ることは何もない。
一方、彼女の実家は一戸建てで、ゴミ袋は各家の前に出して回収してもらう方式らしい。そして、そのゴミが、週2回の回収日に、襲撃を受けているというのだ。
僕も、少し前に、うちのベランダに入居をもくろむカップルたち(鳩の!)に、散々悩まされた経験があるので、他人事とは思えない。
そこで、僕も、出かけるたびに、周りの家々のゴミ袋に注目して歩くようになった。
そう。今、彼女と僕が、研究?を始めた相手は、カラスだ。
たまたま、目の前に舞い降りた姿を見ると、かなり大きくて、コワイ。
鳩もたいがい大きかったけど、カラスはもっとやばいくらい大きくて、禍々しい。
シュッと舞い降り、そろえた足で、ピョンピョン跳ねるように移動し、ゴミ袋をつつく。執拗につつく。コワイ。
そして、穴を開けた袋から、ゴミの入った小袋を引きずり出し、さらにつつく。
でも、中身がお気に召さなかったのか、散らばった中身とその袋をほったらかして、飛び去ってしまった。
もしかしたら、近くで、僕がじっと見ているのに気づいたからか?
ヤツの立ち去ったあとの袋と散らばっているものをみると、どうやら、刺身のつまとか、生野菜サラダの残りみたいで、細切りの野菜ばかりだ。ベジタリアンではないらしい。でも、どうせつつくんなら、最後まで、きれいに食べればいいのに。この散らばってるの、めっちゃ困るよな。
どうしよう? 目撃してしまったから、僕が片付ける?
とりあえず、ピンポンとインターフォンを鳴らす。
中から出てきた人に、つつかれてますよ、と言うと、「あら! うわ!」そう言って、その人はあわてて片付け始めた。僕もちょっと手伝う。
もう少し進むと、さっきと同じヤツかどうかはわからないけど、また、カラスが一羽、地面に降り立っている。
ヤツは、2軒の家の間で、キョロキョロしていた。右の家の袋にするか、左の家の袋にするか。迷っているようだ。
袋の大きさは、ほぼ同じ。僕でも迷う。
ただ、2つの袋の間には、1つ違う点があった。
右の袋は、透明な大袋の中に、様々なゴミの入った小袋がいっぱい詰まっているのが見える。左のゴミ袋は、透明な大袋の中で、カラフルなチラシ(朝刊の間にはさまっているもの)が、小袋を囲むように、ぐるっと壁のようにはりめぐらされているようで、中身が見えない。
さて、どちらを選ぶ?
ヤツが選んだのは、小袋が透けて見えている方だった。そして、力一杯つついて穴を開け、中の小袋を引きずり出す。ここでも、中身がイマイチだったのか、ヤツはすぐに飛び去った。
中身をチラシできれいに覆った方には、とうとう手をつけなかった。(あとから戻ってきてたかもしれないけど、そこまではわからない)
「これや!」
僕は思った。
その晩、僕は、今日の、研究?の成果を、彼女に報告した。
「……というわけで、チラシがいいかもしれへん」
「なるほど! それはかなり有効そう。早速、言うてみるわ」
その後。
彼女の実家の、カラス問題は、ひとまず、落ち着いているらしい。
とはいえ、油断ができないことは、僕も彼女も鳩のカップルとの攻防で、身をもって経験している。なので、彼女の実家のゴミ袋の無事を、日々祈っているのだが。
ただ、一つ困った?ことがある。
「……なんかさ。ついつい観察してしまうねん」
「え。同じや。私も、あれから、カラス見かけたら、じっと見てしまうねん」
「そうかぁ」
「大きくて、コワイねんけどさ。時々、可愛く見えないこともない、気がする」
彼女が言った。
そう。一生懸命観察してるうちに、僕らは、ヤツがちょっと可愛く見えるようになってしまったのだ。
――――ただし、単身者限定。カップルも団体さんも、お断りだ。
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