第12話 間って?
彼女が小さく叫んだ。
「あ! しまった!」
平和な僕の毎日に、いつも緊張感をもたらすのは、彼女だ。
今日も、彼女の一言で、僕は、問題解決に動き出す。
12. 間って?
彼女が小さく叫んだ。
「あ! しまった!」
彼女の小ぶりのお茶碗は、すっかりカラになっていた。
「あかん。全部、食べてしもた……」
「え? どうしたん? 食べたらあかんの? ……もしかして、ダイエット中、とか?」
僕は、思わず、微妙な話題に踏み込んでしまう。
そんな僕を一瞬軽くにらんで、彼女が言った。
「ちゃう。……あなたの作ってくれた、豚の生姜焼きがあまりに美味しくてご飯が進んで、お味噌汁もすごく美味しくてご飯が進んで、ついついご飯全部食べてしもた……」
見ると、彼女の皿の上には、豚の生姜焼きとキャベツの千切りが、それぞれ半分くらいずつ、お味噌汁は、お椀に半分ほど残っている。残す気なのかな?
首をひねる僕に、彼女が、
「美味しすぎるのがあかん。おかげでご飯食べすぎてしまうから」
苦情のように言う。いや、美味しかったら、……ホメて?
「おかず半分しか食べてないのは何で?」
僕の疑問に彼女が、小さなポシェットから、薬の袋を取り出した。
この数日、彼女は体調不良で、あまり食が進まなかった。やっと回復してきて、今日は、生姜焼きをリクエストするくらい、食欲が復活したところなのだ。
「これのせい」
「?」
袋には、『食間に服用』と書いてある。
「ほら。食間、て。やから、ご飯もおかずも、全部、ちょうど半分食べたところで、これ飲まないと」
袋から取り出した、薬を恨めしそうに見ながら、彼女は続ける。
「おかずは、なんとか半分で止められるねん。でも、ご飯はついつい半分で止めるの忘れて食べてしまうから」
薬の前後で、ちょうど同じくらいずつ、ご飯もおかずも食べたことになるように調整していたらしい。
「ご飯、丸々一杯食べちゃった。そやから、お薬飲んだら、残りのおかずと、ご飯をもう一杯食べないと。ああ。食べ過ぎや」
ため息をつく彼女に、僕は言った。
「いや、無理して2杯目、食べんでもええと思うよ。っていうか、お薬、今飲まなくてもいいかも」
「なんで? 食事の間に、飲まないと」
「うん、それな。 食間って、食事と食事の間、っていう意味。食事中の、真ん中っていうわけじゃなくて」
「!」
彼女の顔に衝撃が走る。
「ちょ、ちょっと待って! じゃあ、例えば、朝ご飯と昼ご飯の間、ってこと?」
「そうそう」
「食事の間で、ご飯とおかず、ちょうど半分くらい食べたところ、ってわけじゃなく?」
「そうそう」
「えええええええ~間って、そういう意味やったん? うっそ~、ずっと食事の真ん中と思ってた~」
大笑いする彼女に、
「で、どうする?」
僕は、ご飯をよそうしゃもじを手にして訊く。
彼女は思案する。
「う~ん。1杯目と同じくらい。でもって、お肉もお味噌汁もおかわり! 今日は一つ賢くなったごほうびだ!」
「らじゃ~」
ほかほかのご飯を受け取って、にっこりする彼女に僕は、追加の情報を披露する。
「デザートにプリンも作ったよ」
「幸せ~! 大好き!」
プリンが?
それとも、僕?
うっかり野暮なことをきかないように、僕は、急いでご飯を口につめこむ。
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