第2話  彼女がアンラッキーな理由   



 3月のとある日曜午後。

彼女と僕は、おしゃれなカフェで、お茶を飲んでいた。


「……ねえ。筋トレ、やってる?」

 彼女が言った。

「う。うん。そ、それとなく、なんとなく。……やってる」

「ふ~ん」

 彼女が、ギワクのまなざしで、僕の顔をまじまじと見る。


 僕は、急いで話題を変える。

「なあなあ。今、ラッキーだな、って思うことを、7つあげるとすれば、何が思い浮かぶ?」

「ラッキーなこと、ねえ」

 彼女が首をひねる。

(よかった。話題変わった)

 僕は、胸をなで下ろす。


「アンラッキーなことなら、あるわ」

 彼女が不穏なことを言い出した。

「え、なに?」


 僕の平穏な日々に、危機感をもたらすのは、いつも彼女のひとことだ。

「何かあったん? 何なん、アンラッキーなことって?」

 心配になって、僕は彼女の顔をのぞきこむ。


「1つ。あなたが、そうやって、私のこと本気で心配してくれること」

「え?」

 彼女は、指折り数えるようにしながら言う。

「2つ。そうやって、私を見つめてくる顔が、めっちゃ私好みで可愛いこと」

「え?え?」

「3つ。うつむいたときの睫毛が長くて、目がきれいなこと」

「え?え?え?」

「4つ。声が優しくて、聴いてると心地いいこと」

「5つ。お掃除上手で、アイロンがけが得意なこと」

「6つ。料理上手で、美味しいご飯を作れること」

「7つ。字が上手なこと」

「え。え。え。え?」

 僕は、ちょっとうろたえる。

(それって、ほめてるん?……でも、彼女は、浮かないカオだ)


「……もっと言おうか?」

 ちょっぴり悔しそうに、彼女が言った。

「い……いいです。十分です。ってか、今の全部、アンラッキーなことなん?」

 僕は、疑問に思って訊いてみた。

「そうよ。めちゃくちゃアンラッキーなこと」

 彼女は、軽く僕をにらんでいる。

「なんで?」

「そのせいで、私は、あなたが嫌いになられへんのよ。ミエミエなウソつかれて、めっちゃむかついてもね」

 彼女の視線が、僕の顔から、お腹に移動する。


(バレた? バレてた? 話題、実は変わってへんかった……)


 僕は、今日こそ、家に帰ったら、腹筋しよう。20回から始めよう。それと、買ったまま、まだ開いてない筋トレの本、袋から出してちゃんと読もう。

 そう心に決めた。



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