第21話 怒りのクローズ、背徳のソルケ

 私は「時の加護者」アカネ。

 シャーレ会おうとするソルケを追い払おうとクローズが立ちはだかった。そこから始まった運命のトパーズ新・旧対決はクローズの勝利で幕を閉じた。しかしそこに現れたシャーレは、クローズの思いはよそにソルケの質問に答えると言っていた。

 え?ちょっと、それ私も気になるんだけど..


—フェルナン国 運命の祠—


 その時だった!


 突然、空間に穴が開くとそこから兜だけを被った筋骨隆々の5mもの巨人が大きな手の平に乗って現れた!


 兜をかぶる巨人は男女ばらばらの4本の腕に、それぞれ槍と剣を持って、シャーレに襲い掛かる。


 だが、激しいスパーク音とともに髪がプラチナと化したクローズがシャーレの盾となり飛び出した。4本の腕の槍と剣はクローズの身体を貫き引き裂いた。


 槍は深く深くクローズの肉体に突き刺さり、剣は肉体に深く食い込んでいるかに見えた。だが、それは間違いだった。刃はクローズの身体に触れる直前にスパーク音と共に溶かされていた。


 ドロドロに溶けた刃先を見てたじろぐ巨人。


 「貴様、我の大切な、何よりも大切なシャーレ様に刃を向けたな!」


 巨人は刀を捨てると、腕に血管を浮かばせ、その質量からなる凄まじい拳をクローズへ炸裂させる! が、クローズはそこから1mmたりとも動くことがなかった。


 そしてその大きな拳を両手で抱えると、クローズに触れたところから煙を放ち焼きただれていく。


 [ グギャアアア ]


 巨人が痛みに叫ぶ。


 「貴様、汚い声で喚くんじゃない! これ以上、貴様がシャーレ様を汚す行為を我は耐えられん。消え失せろ」


 クローズの腕から強烈な振動波が巨人に伝わると、巨人が空間ごと二重、三重にぶれる。そのぶれが次第に大きくなると巨人の身体は大きく弾け崩壊した。


 巨人が消え失せたことで我に返ったクローズはシャーレに駆け寄る。


 「お怪我はありませんか? シャーレ様」


 「相変わらず、グロいのう。気持ち悪っ! 」


 「申し訳ありません....」


 クローズは巨人の返り血で赤く染まり、周りにはバラバラになった肉塊が散乱している。


 「クローズは腕輪が無ければ木偶人形と思い違いをしていた。なんて危ない奴だ」


 クローズの残忍な闘いを見たソルケが冷や汗をかいて呟いた。


 「いや、クローズがあそこまでになるのは私に敵意を見せたものだけだよ。闘いの後がグロイから私が振動波を禁止していたのだが、お前との闘いに気持ちが高揚していたのだろうな」


 「しかし、あの者は何だったのでしょう..」


 「さぁな.... そんな事よりもソルケ、私に聞きたいこととは何だ? 祠では答えることができないから、今、言うがいい」


 ソルケの質問は王国シェクタの事だった。


—8年前、王国シェクタから東南にあるタリーズ村からルシールの渓谷へ抜ける森(現在、ヴィタニマ村がある)での出来事。


 ソルケは「世界の全てが自分の愛する者」と言うほどに極端な博愛主義者だ。


 しかし、人間との距離感がよくわからない彼女は、結局、静かな森で独りぼっちでいる事が多かった。


 シャーレと決別したとはいえトパーズの力を持ち続けるソルケ。猛獣、魔獣が襲って来ようと彼女が軽くあしらえば大概は退散してくれる。


 しかし、その日、出くわした魔獣はしつこかった。無暗に生命を奪う事を由としない彼女は、いつものように適当にあしらっていた。


 だが、彼女はうっかりと剣解草(つるげそう)の群生する場所へ足を踏み入れてしまった。


 不意に彼女の足に強烈な痛みが走ると、力が入りすぎて追い払おうとした魔獣に致命傷の傷を負わせてしまった。


 虫の息で苦しむ魔獣に止めを刺し楽にさせた後、彼女は自分の足の裏を確認した。


 案の定、彼女は剣解草(つるげそう)の芽を踏みつけていた。


 芽を守るための剣のような殻は、生物の肉体に入ると返しの毛によって抜くことができない。殻はやがて血中に毒素をだし、体内の血液を凝固させてしまう。


 殻を抜き出す唯一の方法は口をつけ唾液を注入しながら殻を吸引する方法だ。人間の唾液によってのみ返し毛がやわらかくなる。絶えず新鮮な唾液を注入しなければならない為、口で抜く必要があるのだ。


 だが、刺さった場所が悪い。足の裏だ。


 彼女は元トパーズとはいえベースは生身の人間だ。ケガで死ぬこともあれば病死をすることもある。毒は人間ベースのトパーズを葬るのには有効な手段なのだ。


 これは死ぬな.... 私が死んだら私の魂は、「アリア」のようにこの「不縛の剣」の中に宿るのだろうか..


 そんな事を考えていると[ ガシャリ ]と物を放り投げた音と同時に足の裏に妙な感触を覚えた。


 見ると10歳そこそこの子供が彼女の足の裏に口をつけ殻を抜こうとしていた。何度も何度も唾液を送られては、執拗に吸われる傷口。


 「 ..あっ.. 」


 何千年も生きてきたソルケだが、子供とはいえ異性に口を当てられたのは初めての事だった。彼女は背徳の向こうに芽生えた、いけない感情を必死に振り払おうとした。


 「よしっ、これで大丈夫だよ。お兄ちゃん」

 「わ、私は女だっ! 」


 「あっ、ごめんなさい」

 「 ..いや、少年、ありがとう。助かった」


 狩りの装備は質が高く、衣服も小奇麗だ。森で暮らす民とは違う....


 自分の傷の手当を人任せにするなど今までしなかったことだ。一生懸命に手当てする少年の汗を見て.. 鼓動が早くなるのは毒のせいだろうか..


 「少年、君はここで何をしているんだ? 」

 「僕は父上達と魔獣の討伐に来たのです。ですが、はぐれてしまいまして.. よし、これで大丈夫です」


 ソルケは地に足をつけ踏み馴らしてみる。措置が良く、痛みはほとんどない。


 「よし、少年、ここは君ひとりでは危険だ。私が家まで送り届けよう」

 「あは。それなら、大丈夫です。ここは僕の庭のような場所ですから安全に帰れる道知っているんで..」


 「 ..ひ、人の好意を無駄にするもんじゃないっ! 送ると言ったら送ってやる。家はどこだ? 」


 「 じゃあ.. 僕の家は王都シェクタです。僕は王国シェクタ第一王子ブレスです」


 それがソルケとブレスの初めての出会い。


—あれからもう8年が過ぎたのだ—


 「シャーレ様、いったいシェクタ国では何が起きようとしているのですか? 」


 「ソルケよ、お前も知っての通り、これから起きるであろう運命を私は語ることができない。ただ消された過去に何が起きたかを教えてやろう」

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