第22話 儀式
私は「時の加護者」アカネ。
太陽の国レオのレイフュがシェクタ国を警戒するように元トパーズのソルケもシェクタ国の異変に気が付いていた。ソルケは恩あるシェクタ国の王子ブレスの身を案じていた。シャーレは能力を使いシェクタ国の「消された6年」で起きた忌まわしい事実を語り始めた。それってもしかして魔人にも関係する話?
—シェクタ国(消された6年)—
白亜事変の最中、王国シェクタではある議論が起きていた。
ハクアが主張するように3主が世界の平和を望まないのであれば、それに代わる新たな力が必要なのではないか?
その新たな力は自国の力になるものでなければならない。
この時、既にシェクタ国アルデン王の心のうちに世界平和を願いながらも世界を牽引する力への欲望が芽生え始めていた。
アルデン王は建国より受け継がれてきた伝説を詳しく調べよと命令を5人の男に下した。
それは国が成る前にこの地を治めていたアクス民族により行われていた儀式だ。
アルデン王から任命された5名は、それらが記された文献を探し出し、シェクタ国最北の海岸沿いに儀式が行われた洞窟を見つける。
そこには人の大きさほどの赤い石板、それを囲うように5枚の白い石板が等間隔に配置されていた。
風化してはいたが祭壇とおぼしき場所には6本の角を持つ偶像が置かれている。
それらは文献に書かれている事とすべて一致していた。
5人の報告に王は確信する。
伝説は本当なのだ!
儀式は誰にも知られてはいけない。
それは白亜の連中にもだ。
儀式は白亜と3主が激しく戦いあう中、アルデン王の命令で密かに行われた。
赤い石板の上には薬草で眠らされたブレス王子が置かれた。手足を縛られた王子は儀式の最中、目を覚ました。
[ ライデル バサク レシグル ラカン ズールバ ズールバ—— ]
回りの石板の上に乗り文献に書かれている通り、意味の分からない呪文を唱える5人の神官たち。
「父上! これは何? 何をやっているのですか? な、縄をほどいてください 」
「大人しくするのだ、ブレス。お前はこれから素晴らしい力を授かるのだぞ、神によってな。あの3主にも劣らぬ、そうだな、いつかハクア殿が語ったことがある「法魔の加護」などが良いな。そうすれば、我が国が中心となり世界を平和へと導いていけるのだ」
「そ、そんな馬鹿な。そんな事などせずとも、5大国で手を取り合おうとラヴィエ殿が—」
「黙るのだ。あのような小娘に何ができる。今の世を見ろ。どこの者だか分らぬハクアが実質、世界を収めようとしているではないか。お前が力を持てば、ハクア殿と対等に..いや、私たちが世界をこの手にすることができるのだ」
「どうして、そんな.. やめ ..ムガガグ」
ブレスに猿轡をすると儀式は続けられた。
文献によれば呪文を5回繰り返し唱え、空・地・海の血により清められし者の身体に神が加護の力を与える。
その表れとして、清められし者の胸に白刃を突き立てれば、光り輝きながら白刃が身体に取り込まれるという。
そして今、アルデン王によって白刃がブレスの胸に突き立てられようとしている。
この誰が書いたかも知れない、まるっきり出鱈目の文献を信じて。
まさに狂気の沙汰だ。
シェクタ国の実質的な力を握るハクアの存在により、すっかり求心力を無くしたアルデン王は焦っていたのだ。
—このままでは王家は全てをハクアに奪われてしまう—
この数年間、寝ても覚めてもアルデン王の頭から消えない不安が彼をここまで追い詰めてしまった。
『儀式により得た新たな力で、もう一度王としての尊厳を取り戻すのだ!』
いつしかアルデン王はこの心の内の言葉に縋り付いて毎日を過ごしていた。
実の息子の胸にゆっくりと刃を突き刺す。
叫びと共に石板が血で染まっていく。
「神よ、現れよ! 神よ!」
だが.. いくら待とうが神は降臨しない。
当たり前だ。伝説は誰かが書いた退屈しのぎの空想だったのだから。
今ここにあるのは、愚かな王のために、ただ心優しい王子が命を落としてしまった事実だけなのだ。
だが神ではないモノがその一部始終を見ていた。
それが魔人ドルヂェだった。
まだ意思のある魔素でしかない魔人ドルヂェは依り代を必要としていた。魔人ドルヂェは、魂の融合という方法でブレスを救おうと思った。
突如、目の前に現れた魔人ドルヂェをアルデン王は神と勘違いしていた。
そして今まさにブレスの魂と融合しようとした時、アルデン王が思いもよらない行動をしたのだ。
アルデンは大きな叫びを口にしながら自らの胸に刃を突き刺したのだ!
「やはり我に.. 王である我に力を与えよ!! 」
ブレスと融合をするために無防備にむき出しになったドルヂェの魂は、邪なアルデンの魂をも吸収してしまったのだ。
まさに血みどろの光景に神官たちは恐怖し逃げ出した。
・・・・・・
・・
石板に横たわるブレスが上に重なるアルデン王の身体を押し退ける。そしてゆっくりと身を起こすと自らの手を見つめた。
「クククク.. ハハ.. ハハハハハハ」
大きな笑い声は洞窟にこだました。
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