第20話 先輩、後輩

 私は「時の加護者」アカネ。

 カイト国の大広間にてフェルナン、カイト、ギプス、レオの四国会談が行われた。その場には光鳥シドも泉の精の姿で出席していた。私はシドからナンパヒ島へ向かうためのアイテム・光鳥の羽根をもらうことが出来た。これで魔人ルカを「ルル診療所」に連れて行ってあげられる。しかし、私がこの四国会談に出席している間に「運命の祠」では大変なことが起きていた。


—フェルナン国 運命の祠—


 その気配にいち早く気づいたのはクローズだった。


 自分と同じ匂いがする者だからだ。


そして、そいつが持って来るものはいつも厄介事なのも知っていた。

 

 —『運命の加護者』のトパーズとして主の傍らに黙座してこそ使命を全うできる—


 自由奔放なシエラやティムとは違った守護道たるものをクローズは心に刻んでいる。


 自ら主から離れる事は今まで一度もなかった。


 だが....


 — ザッ


 足を止める音を鳴らすほどに全身に緊張が走る。


 「いいのか? 主のもとを離れこんな森の中にまで来て.. 」


 「ふん。お前は不吉な女だ。シャーレ様に会わせるわけにはいかない。このまま帰れば見逃してやる」



 「ふっ、ふはははは。先輩に対して不遜極まりないな。お前、このソルケを止める事が出来ると思っているのか。 が、地の利を見極める目は間違っていないな。この森の中、私の『不縛の剣』は少々不利だからな」


 「ならば、引き返せ」


 「そういう訳にはいかないのだ。シャーレ様にどうしても聞かなければならないことがある」


 2人の会話中、今まで騒がしかった森の鳥が静まり返った。いや、野生の生物はその闘いに巻き込まれまいと逃げたのだ。


 逃げ遅れた鳥が枝を蹴り羽ばたく。


 最初に仕掛けたのはクローズだった。クローズは銀髪を輝かせ運命の腕輪を解き放つ。大小と自由自在に大きさを変えられる腕輪は森の木々を容易にすり抜ける。


 かたやソルケが逃げる方向には、遮る様に森の木々が邪魔をする。


 「くっ、思ったよりも厄介だな」


 ソルケが『不縛の剣』をクローズに放つが、その瞬間にクローズは木の陰に隠れる。


 森の切抜き写真は粉々に砕けると、灰となり消えていく。


 部分的に幹が無くなった木々は、バキバキと音を鳴らし倒れていく。


 「ソルケ、あまり環境破壊をするんじゃない」


 「黙れ! 」


 クローズは『不縛の剣』に対して、常に木の後ろに身を置いて攻撃を回避する。そして、腕輪の追撃に激しさを増していく。


 腕輪は巨大な鉄球のようにソルケの身体を撃った。


 辛くもその攻撃を『不縛の剣』にて防いだが、その威力にソルケの身体は、折り重なる倒木へ吹っ飛ばされた。


 木の中に埋もれたソルケに腕輪は容赦なく猛追をするが、ソルケの姿が見当たらない。


 彼女はわざと倒木折り重なる場所へ飛ばされたのだ。派手に散らばる木々や葉に紛れて身を隠すために。


 一瞬、腕輪が動きを止めた。


 その瞬間をソルケは見逃さなかった。


 『不縛の剣』を振るうと空間は凍結され、クローズの腕輪は一寸たりとも動くことが出来なくなった。


 「クローズ、お前の武具はもう使えない。このまま空間はひび割れ、お前の腕輪は砕け散るだろう。あとは空手のお前をじっくりと料理するだけだ。終わりだ。諦めて出て来い」


 その言葉に従い、クローズは木の陰からでてきた。


 「お前の大切な武具、悪いことしたな..」


 ソルケがそう言うと、凍り付いた空間がバラバラと砕け地面に落ちて灰になった。


 「それはこちらのセリフだ。悪いな、ソルケ」


 砕け散った空間に今も低いうねりを鳴らして浮く腕輪はソルケの身体を素早く拘束した。


 「馬鹿な! お前の腕輪は私の『不縛の剣』に破壊されたはずだ」


 身動きが取れないソルケはそのまま地面に倒れた。


 「それは私が説明してやる。ソルケ、妙な再会じゃな」


 耳を下げつつ尻尾をフリフリ、シャーレが森から姿を現した。


 「シャーレ様、なぜここに」


 「アホか。ソルケの気配には気が付かなかったが、いつも私の側にいるお前がいない事には直ぐに気が付くわ! だが、ご苦労だったな、クローズ」


 「はっ」


 倒れるソルケの前にしゃがみ込み、シャーレはソルケの敗因を説明した。


 「お前は腕輪を見誤っているのだよ、ソルケ。その時点でお前の負けは決定されていたんだ」


 「見誤っている? どういうことだ?」


 「今更だけど、腕輪の仕組みを教えてやろう。その腕輪はな、今、こうして見えているが、実はこの次元には存在しないのだ。腕輪は運命の次元にあるのだ」


 「運命の次元? 腕輪は私を捕らえているぞ?」


 「運命の次元とは、少し先を見通した次元。お前が動けないのは、ほんの少し先の腕輪がお前を囚えているからなのだよ。その腕輪はそこにあるようでそこにはない。お前が『不縛の剣』でその瞬間を凍らせようと、その瞬間の腕輪にとっては、既に過去の事なのだよ」


 「く..そういうことか」


 「まぁ、私は面白い勝負を見せてもらって、機嫌がいい。だから、お前の質問に答えてやってもいいぞ」


 その横で、まったくの無駄足だった事、逆にシャーレに面倒をかけてしまった事に対して、クローズが落ち込んでいた。


 「ソルケ、ちょっと待ってて.. 」


 シャーレは立ち上がりクローズへ向き直すと、背伸びをしてその頭に手を伸ばしナデナデした。


 「クローズ、そんなに気にしなくていいよ。私は最初からそのつもりだったんだから。お前は良いトパーズだよ」


 「はいっ」


 クローズは顔を赤らめ元気になった。

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