第15話 発見
私は「時の加護者」アカネ。
私たちはルカの魔素の気配が大きくなるのを感じ、さっそくアメリカ特殊部隊のラズウェルにコンタクトしてみた。するとさすがはアメリカの情報収集力だ。既にルカの居場所は正確に把握をしていた。N国だ。しかしN国はアメリカにとって敵国だ。ここは非合法に行くしかない!
—S国とN国の境界線付近—
N国は隣国と休戦状態のためか、それとも独裁国家として成り立たせる為か、その国境線はかなり厳しい警備体制が敷かれている。
国境線を跨げば警告なしの銃殺が起きても何ら不思議ではない。
しかしラズウェルが私たちを送り込んだのは、私らにとってこんな警備など意味がない事を知っていたからだ。
〖どうする?「時の狭間」経由で侵入する?〗
「アカネ様、そんな回りくどいことすることもないですよ」
私たちは小高い丘から遠くに国境線を眺めている。
〖と、するとシエラ、だいたいあっちのあの白い岩肌が見える場所くらいはいけるよね〗
「 当然! 」
5歩下がった。そして足に力が入る。3歩の助走で思いきり地面を蹴った。
ラズウェルの用意してくれたボディスーツは風の抵抗を減らしてくれた。そして、黒スーツは暗闇に溶け、地上から見えたとしても大型の猛禽類が飛んでいるくらいにしか思われないであろう。
なにせ、この距離を飛び越える人間などいるはずもないからだ。
—ザザッ..
風を切ると白い砂埃をたてながら目的の場所へ着地する。
N国がどんな監視体制を敷いているかわからない。ルカを保護するまでは暴れるわけにもいかない。
〖シエラ、まずはこの場から離れるよ〗
さて.. 渡された通信機は役に立つだろうか。
落とさないように耳から外した子機を再び耳にはめ、外部センサーにタッチし始動させる。
「こちらワム。聞こえますか?」
〚 こちらドリスだ。月は綺麗かい? 〛
大丈夫なようだ。
ドリス(Mr.ラズウェル)のナビによると、この森を抜けて約3km先にある町はずれの研究所にルカは拘束されているらしい。
「でも、ルカを捕まえてどうしようっていうの? 刑罰を与えるため? 」
〚 残念だがそうじゃない。 N国は自然発火する人間を研究したいだけだ。そしてこの国の大将は、あの黒い炎にご執心なのさ。ワムよ、奴らはルカの事を兵器として研究してるんだ 〛
「ひどい! 」
〚 まぁ、あまり熱くならないでくれよ。本当は伏せておきたかったんだ。でも君を信用しての情報だ。クレバーに行動してくれよ 〛
「うん、わかった」
実際はシエラも私も全然わかっていなかった。だけど、それを教える必要もない。結局はラズウェルにしても私たちを利用しているだけなのだから。
・・・・・・
・・
ラズウェルのナビの通り、森を抜けると町明かりが見える。町と言っても人々の生活を感じ得ない殺伐とした雰囲気の町だ。社宅のような建物が並び、ところどころに大きな施設が見える。おそらくはこの町自体が国の機関に携わる施設を集めたような場所なのだろう。そして社宅にはそこで働く人々が住んでいるのだ。
だが、そんな町だからこそ、ラズウェルの情報通り深夜の警戒はかなりゆるかった。町の人々が規律の厳しい政府機関の職員、または軍人なのだろう。
やがて、ルカが拘束されている軍事研究所に辿り着いた。
「ドリス、聞こえる? この施設の中にはどうやって入ればいいの? 」
〚 今日は月が綺麗だ。この月明かりは誰に言われるまでもなく、空が見える場所ならどこにでも降り注ぐのだろう。 成功を祈る 〛
「アカネ様、あいつ訳の分からない事言ってますよ? 寝ぼけているんですかね?」
〖そうねぇ。映画好きな私が解釈するにこのパターンは.. 方法は任せるってことだよ〗
「なんだ。そういえばいいのに」
〖格好つけたがり屋さんは、どこの世界にもいるんだよ〗
「で、どうしましょうか? 壁をぶち抜きましょうか? それとも月明りが射し込むように天井をぶち抜きますか? 」
〖もっと簡単に中へ入れる方法があるよ。ほら、王国カイトの国境でやったじゃん〗
「なるほど」
私たちは無防備に軍事研究所の近くまで歩いて行った。なかなか兵隊が来ないので、施設の入り口らしきゲート前で、カポエイラのダンスを踊った。
その様子をどこかのカメラで見ていたラズウェルが椅子からずり落ちると、大笑いしていた事は知らない事実だった。
数分後、私たちは銃を持つ軍人に囲まれ施設内に拘束される。ボディチェックに紛れて私の身体を触った男は後で蹴り上げるとして、さて、きっとここにはルカはいない。こんな手薄な場所には。
「アカネ様、どうしましょうか? 」
〖まぁ、施設の中には入れたのだから、あとは『自由』に地下へ行かせてもらいましょう〗
そう、あの闇の炎の威力を知っている奴らは、地上などで彼の研究などしない。彼が爆発した時の事を考えれば、被害を最小限にできる場所。しかも非常時の脱出を考えれば、ルカを最下層へ連れて行くはずだ。
拘束帯を軽々と破り捨てると、見張り兵を軽く撫で上げ、縛り上げる。
エレベーターを見ると地下4階で止まっている。エレベーター操作にはIDと生態認証のセンサーまでついている。でも、私たちにそんなものは関係ない。
足を振り上げ、扉を蹴とばす!
あとは垂直に落ちていくだけだ。
最下層には銃を持つ2人の軍人と研究職員数名がいるのみだった。腹を蹴られ悶絶する軍人の銃を踏み潰すと、研究職員たちは脱出用高速エレベーターで逃げて行った。
ここより先には、頑丈そうな扉が立ちふさがっている。まるで映画で見る大型金庫を守護する扉だ。さらには、いちいちセンサーロックが施されて面倒くさい。
〖この扉、いけるかな? 〗
「時の加護者」の力は異世界アーリーでしか使ったことがない。だから、現世のこの分厚い金属扉を本当にぶち抜けるのかと不安がよぎったのだ。
「アカネ様、自分が何者か思い出してください。そして僕はいつでもアカネ様の期待を裏切りませんよ」
〖 ..シエラ 扉をぶっ飛ばして! 〗
分厚い扉は歪んだ大きな音をたてると、周辺の機器を巻き込みながらぶっ飛んでいく。
〖ちょっと、力入れすぎた! なかでルカが死んでたらどうしよう 〗
「いやだなぁ。ローキが言っていたじゃないですか? 5大魔人とやらは死ぬことはないって」
〖そうだけど.. 大丈夫かな? 〗
中に入ると、ルカのその大丈夫じゃない様子にシエラが怒りに震えているのがわかった。
台に拘束されているルカの左右の指の爪は全て剥がされ、右手は3本、足の指は全て切除されていた。鼻と口にはチューブを入れられ大量の麻酔を注がれているが、彼が麻酔で眠ることはなかった。
猿轡を外すと彼は弱く言った。
「みんなの為に.. 僕を消し去って」
私は思わず彼を抱きしめた。
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