第8話 魅惑のダリ

 私は「時の加護者」アカネ。

 東の大陸からシャーレをつけてきた者はローキと名乗る魔人だった。見た目は老人だが実年齢は6歳だというのだ。ローキが事情を説明しようとすると「運命の祠」めがけて何者かが攻撃を仕掛けてきた。


—フェルナン国 運命の祠—


 『すいません。うちの者の仕業です』


 相変わらずへの字口のシャーレにローキは謝罪した。


 「ローキ、隠れている奴に姿を現せと言うんだ。じゃないと僕に何度も殺されることになるぞ」


 『 ....ダリ、これ以上、無体な事はやめてでてくるのだ』


 〖はぁい。もしかして怒ってるの? ちょっとからかっただけなのに〗


 模様の入った爪がにゅっと見えると、まるで引き戸を開けるように空間をずらして出てきたのは女性だ。


 派手な巻き毛、左耳には小さな6連ピアス、右耳には大ピアスが1連、右手に蝶、左足にはサソリの毒々しいフィンガーブレスレットを装飾している。


 メイクも派手なのだが、不思議な事に首にだけは何も装飾をしていない。


 そして男を惑わすランジェリードレスを着ている。


 「女、僕を前にあまりふざけるなよ」


 〖シエラ様でしょ。知ってるぅ。でも私の事は知らないでしょ。だから挨拶——〗


 気が短いシエラの蹴りがダリの顔をめがけてさく裂した!かのように見えた。


 私の目は見逃さなかった。きっと私にしか見えていなかっただろう。光がひかめくよりも一瞬の出来事だ。


 ダリの額が割れ、そこに現れた橙色とうしょくの目が瞬いた。


 同時に透明な盾がシエラの蹴りを防御したのだ。


 〖いやだ、本当に気が短いんだ♪ 〗


 「シエラの蹴りを受けて無傷だと!? 」


 当然、クローズは驚きを隠せないでいた。


 「いや、クローズ。僕が蹴ったのは違うものだ。こいつは僕の蹴りを受けていないよ」


 さすがシエラだ。瞬時に起きた事実を分析し、次の対策を考える。闘いにおいてやはり天才なのだ。


 きっと同じ手がシエラに通じることはないだろう。


 〖 ふふふ 〗


 『ダリ、無駄な攻撃で挑発までして.. お前、本当にシエラ様に殺されてしまうぞ。いったい、何しに来たのだ』


 〖嫌だなぁ。だから挨拶よ。では、改めまして、私は5大魔人のひとりダリよ。私ね、う~ん.. 迷ったんだけどあちら側につかせてもらおうと思ってるの。 だってあっちの方が「力」使えて面白そうでしょ。反抗的な奴をねじ伏せるって何かゾクゾクするじゃない〗


 『 ..ダリ』


 〖 ってことで、古いトパーズの方々や3主.. あはっ、嫌だ2主しかいないじゃない。ふふふ、あまり乱暴しないでくださいね。私は暴力が嫌いなの♪ じゃね、ローキ〗


 そう言うとまた扉を開けるように空間をずらしてダリは消えた。


 無暗に引き留めたり、攻撃を重ねようとするものはいなかった。さすがシエラとクローズは闘いなれているのだろう。闘うべき時を計りながら敵と対峙している。


 「くそ、クローズ、あんなのに私の蹴りが防がれた。また防がれたらと思うと悔しいから攻撃できなかったよ.. 」


 あれれ?.. そうでもなかった....


 しかし、「力」使いたがる事と「暴力」を否定する矛盾に気が付かないダリに心の歪みを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る