第7話 老人は6歳
私は「時の加護者」アカネ。
現世で魔人の確保に失敗した私とシエラは報告のために「運命の祠」へ戻る。そこへ東の大陸へ偵察に行っていたシャーレとクローズが帰ってきた。しかし彼女らはつけられていた。今、闇の穴が口を開きその者が姿を現した。
—フェルナン国 運命の祠—
『どうか落ち着いてください。私に敵意はございません。話をお聞きください』
「 ..敵かどうかはこちらが決める。ゆっくりでてこい」
『わかりました。今、姿を現します』
穴から出てきたのは灰色のくたびれた背広を着たおじいさんだ。
「クローズとシエラ、そしてアカネ、悪いが私に話をさせてくれ」
シャーレは口を挟もうとしたクローズとシエラを制した。そして私は頷いた。
私とシエラは頭に血が上りやすい。ましてやクローズは後を付けられていたことに憤慨している。
ここはやはり物事を冷静に見極める事が出来るシャーレが話すのが良い。
「では、まずは—」と老人がひと言発した直後、クローズのリングが男を捕らえた。
2つのリングに拘束されている男はこれで逃げる事は出来ない。
『 ..わわっ。やめてください。こんな.. 苦しい』
「わざとらしい演技はやめろ。わざと運命の輪を受けときながら.. なぜ強さを隠す」
『 ..すいません。弱いほうが良いかと思いました。特に闘神と言われるシエラ様の前ならなおさら.. 』
「お前のそんな見え透いた嘘などにシエラが騙されるはずがないだろう」
(えっ.. 私は騙されたけど.. )
シエラを見ると拘束されている老人を前に、その虎のような気を緩める事はなかった。
「まずはお前の名前を教えろ。そして何者かもだ」
『私の名はローキです。私は魔界の者です』
「目的はなんじゃ? 言え」
シャーレの言葉は無駄を省いたシンプルな質問だった。
『はっ、アカネ様にお願いがありました。どうかルカを現世より連れ戻してください』
「ルカ? もしかして爆炎の魔人? 」
『はい、そうでございます』
「そ、そう.. でも.. でもね、ごめんなさい。私たちその魔人を見つける事が出来なかった。魔素が暴走して闇の炎で灰になってしまったみたいなの」
『いいえ、アカネ様。あ奴は生きております。私たち始まりの5人は死ぬことはないのです』
「え、それって.. 」
『不死身ではございませんが、シエラ様やクローズ様と似たようなものです』
「ふざけるな。僕らと一緒にするな」
「シエラ、黙って! 」
「だって.. すいません.. 」
「ルカが死なないって.. じゃ今、何処にいるの? 」
「ルカは単体ではこの世界に戻ることはできません。ですので、ルカはおそらく現世で復活しているかと.. 」
「なんですって! じゃあ、また暴発を繰り返すっていうの? 」
「はい。ルカを連れ返さない限り彼は何度も闇の炎で現世を焼き尽くします。あの炎で焼かれたものは魂すら灰になってしまいます」
「じゃ、こうしてはいられない。探しに行かなきゃ! 」
「待て、アカネ。慌てるな。まだ、こ奴らの正体を聞いておらんではないか。のう、ローキよ」
シャーレは意地が悪そうな口ぶりで言った。
「だって、さっき『魔の者』って」
「ふん。『魔の者』などいない。いや、正確にはいなかった。こ奴らは、『法魔の加護者』の副産物じゃ」
『シャーレ様、あなたは思ったよりも意地悪だ。 ..その通りです。私たちは『法魔の加護者』が覚醒した瞬間に誕生いたしました。私たち5人の魔人には何千年もの記憶があります。ですがそれらは全て偽りだという事も知っております』
「そうじゃ、こ奴もこんなジジイじゃがな、年齢は6歳じゃ」
『 ....その通りでございます』
ローキは屈辱に耐えているのがわかった。
「ふん。ローキ、分をわきまえよ」
「ちょっとシャーレ、いくら何でもちょっと意地が悪いよ。どうしちゃったの? 」
シャーレがいつもに増して横柄だと思った。
「アカネ、騙されるなよ。こいつら魔人は善悪の両面を持つ者だ。私は、この者が本当のことを自ら言うまでは信用しない」
「どういうこと? 」
シャーレはそれ以降、口を閉じてしまった。そして、への字口をしながらプイっとそっぽをむいてしまった。
シャーレがこうなった時は、話したくても「運命の加護者」として話せない時だ。
きっと先の未来に関わる事なのかもしれない。
『申し訳ございません。少しこちらでも整理を付けたい事がございます。ですが、ルカを捕まえなければアカネ様の世界に被害が及ぶことは事実です。私もできる限り協力いたしますので是非お力を—— 』
その時、私の目の前に無数の火矢が現れた。
瞬間、シエラの『無限の守り』が発動する。当然、私へ放たれた火矢は全て蹴り落とされた。
そして、「時の加護者」である私の目は見た。
ローキの背中に浮かぶ筋骨隆々な4本の腕が刀を掴み、シャーレに向かう火矢を全て打ち払ったのを。それはシエラの「無限の守り」と同等の速さで繰り出されていた。
『 ..無駄な事を.. 』
突然、振動するほどの大きな雄叫びが聞こえると森の中から何百という魔獣が出てきた。
「何あれ? ちょっとキモくない? 」
それは巨大なムカデの上に人の半身が生えている異形の魔獣だ。頭を丸めた男たちは、肩から生えるムチを振るいながら、意味もなく笑っている。
シエラは青くなり言葉を失っていた。そうなのだ。シエラは岩に身を隠すような虫たちが大嫌いなのだ。ムカデなどそのいいところだ。それが何百も。
「ぼく、これ無理かも.. クローズ頼むよ」
「仕方がない奴だな」
『クローズさん、私にお任せくださいませんか? どうか運命の輪を一度解いていただけませんか? 』
シャーレの耳の動きを確認すると、クローズはローキを拘束する運命の輪を解いた。
『ありがとうございます』
自由になった両腕と背中の手で独特な印を結ぶと。轟音と共に地が裂け、そこから巨大な蛇の顔が現れる。顔だけの巨大蛇は大きく裂けた口で、魔獣を一匹残らず飲みほした。
「お前、蛇を飼っているの!? 僕は長くてウネウネの蛇も大嫌いだ!! 」
『そう言わないでください。あいつは顔だけのとても愛らしい奴ですよ』
魔獣を全て平らげると、大蛇の顔は再び地中へと戻っていく。
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