第6話 追跡するもの
私は「時の加護者」アカネ。
エジプトでの魔人探しは失敗してしまった。だが、魔人の炎による被害はこの目で見て実感した。はやく魔人を捕まえて異世界へ送り返さなきゃ、現世の被害者がたくさんでてしまう。
—エジプト→異世界アーリー—
「魔人」が消滅したことを確認すると私は「時の狭間」を開け、そのまま異世界アーリーへと向かった。
異世界へ着くと私の身体は元の女子高生サイズへ戻り、体の中からシエラが抜けたのを感じた。
「シャーレ、いる? 」
「アカネ様、どうやらシャーレ様は留守のようですよ」
祠に保管していた身体へ精神を戻したシエラが出てきた。
「どこに行ったのかな? 」
「クローズの奴も一緒に同行しているから近くではないでしょうね」
—カサッっと砂をかく音が微かにした。
「シエラ! 」
シエラは神経を尖らせるが直ぐに警戒を解いた。
「ははは、何だ、お前か。入って来いよ」
シエラの頬が緩んだ。
「お、おねえちゃん? 」
入り口から顔半分だして中を覗き込む女の子はソックスだ。
「ああ、ソックス」
「あはっ、やっぱりおねぇちゃんだ! 」
ソックスは胸元にジャンプして抱き着いてきた。
『おねぇちゃんの香りがする』と言いながら顔を押し付けて来る。
本当に可愛い私の妹。
「ねぇ、ラインはどうしたの? 」
「うん、ラインお兄ちゃんはシャーレ様とクローズを乗せて王国シェクタへ行ってるよ。お兄ちゃんは嫌がったんだけど、おねえちゃんの世界に関係する事だっていうからさ、渋々承諾したんだ」
「王国シェクタへか.. そういえば、シェクタにはソルケもいるよね」
そう呟くとシエラが物凄くびっくりしていた。
「アカネ様!! なぜソルケを知っているんですか? あんなマイナーな奴知っている者など世界に数人しかいませんよ。しかも居所まで特定しているなんて! 」
「ああ、そっか.. いや、説明すると長いんだけど、いろいろあってね—— 」
・・・・・・
・・
「それは何かの間違いではないですか? この僕が弱っていたからって、そんな三下に負けるなんて.. 」
そう言うシエラの目には悔し涙がたまっていた。
私は消された6年間とハクアとの闘いと白亜幹部のバンクに体を粉々に砕かれてしまったことを話した。
「でもね、そのときはほら、3主の力がなくなってシエラは岩になって動けなかったんだから仕方がないよ」
「それでも私が粉々にされるだなんて..」
やはり闘神と呼ばれているシエラにとって勝負に負けるという事はどのような状況下でも許しがたき事なんだと改めて思った。
「あっ、でもね、そのあとしっかり王都フェルナンで勝負して勝ったよ。あの闘いは凄かったな。私も勉強になったもん」
「え、ええ~、へへへ。そうですか。なるほど。しっかり勝ったんですね」
「うんっ! 圧勝だった」
その言葉でシエラは笑顔で上機嫌になった。
そして、同時に私は思ったのだ。
やっと家族を手に入れた結月、そして安らぎを手に入れたバンクはいったいどうしているのだろうか?
彼女らはまた過酷な運命を辿ってしまうのだろうか..
その時、外に暴風が吹き荒れた。
「あっ、ラインお兄ちゃんが帰って来たよ、おねえちゃん! 」
「アカネ、いるのか? 」
外からただならない口調でシャーレの声がする。
祠から外へ出ると、地面に倒れるラインと神経を尖らせているクローズ、そして慌てふためいているシャーレがいた。
私はラインに駆け寄り抱きかかえる。
「ちょっと、どうしたのよ!? 」
強い口調でシャーレに問いかけると、その声にラインが目を覚ました。
「あっ、アカネおねえちゃんだ。良い香りだなぁ.. 」
そういうとラインはまた気を失った。
「ちょっと、ラインに何させたのよ、シャーレ!! 」
「アカネ様、ラインには王国ギプスの港より全力で走ってもらったのです。それでも振り切れたかどうか.. 」
シャーレの代りに答えたクローズは辺りの警戒を緩めなかった。
そしてシャーレが耳をレーダーの様に動かしながら振り絞る様に話し始めた。
「あいつはこれを警戒していたのかもしれぬ」
「あいつって? 」
「トバリ、秩序の加護者トバリじゃ」
「おじいちゃんが? 」
「ああ、アカネ、事は私が思っている以上にまずい事になっている。トバリが頑なに魔法を認めようとしなかったのは、『秩序の加護者』故の予感があったのかもしれぬ」
「いったい何があったのよ!? 」
「アカネよ、世は川の流れのようなものだ。それは運命にしても、時にしてもだ。そして何かの事象において『結末』には必ず『始まり』がある。ならば、『魔法』はどうだ。何もないところから火を発生させる、水を作り出す。いったいこれはどういう仕組みだ。トバリはその一見無秩序な現象にも実は秩序があるのを感じ取っていたのかもしれないな」
「そんな大げさな。だってさ、私の世界に比べればこの世界の何もかも既に魔法みたいなものだよ」
「そうじゃな、否定はせぬ。だがな、それは光鳥ハシルやトパーズのティムと同じようにこの星の理力。つまりはバイタルエネルギーにおけるものじゃ。お前の言うようにわずかな火や水を発生させるだけなら、もしやその理力だけでできるのかもしれない。しかし、この世界に魔法を認め、結果的に『法魔の加護者』が生まれたのだろう? 私たちと同じような並外れた魔法力、つまり魔素というのはどこから手に入れるのだ? 」
「そんなのはわからないけど.. 」
「アカネ、それがわかったのじゃ。私らは海を渡り太陽の国レオに着いた。だが、私らはシェクタへは行こうとは思えなかった。得体の知れないものの胃の中には入れなかったのだ。そして私らはギプス港へ舞い戻ったのだが、そこで気が付いた。何かに付けられていると」
「付けられてる? でも何でシャ—— 」
「アカネ様!! シャーレ様も下がって! 」
シエラの声と共に床に闇よりも深い闇の穴が開いた。
クローズとシエラは臨戦態勢だ。
2人の警戒は祠の周辺の虫や鳥、その他全ての生物が慌てて逃げだすほど凄まじいものだった。
私でさえ肌を刺すような2人の気を感じていた。
そして穴から延びた手が地面へ掛けられる。
『お初にお目にかかります。どうか攻撃をなさらないでください。私に敵意はございません。どうか私の話を聞いてもらいたいのです』
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