第141話 二十一階は

「それではまず、お聞きしますが名前を教えてください。俺の名前がルセイン。あなたの名前はコ・ルセイン。このダンジョンに縁の深い二人がこれほど似通った名前なのは偶然とは思えない。コ・ルセインさん何か知ってるのではないですか?」


「ハッハッハッ。その質問は最初にされるのではないのかと考えていたよ。結論から言えば私はなにも知らない」


「えっ!」


「本当だ。何も知らない。ただし関係がないとは考えていない。ダンジョンにより私が再構築された後に初めて君を見た時、私は今まで感じた事のない執着を感じた。それはダンジョンの意識と同調し、君を俯瞰して見ている時に強く感じたものだ。これが感情からくるものなのか記憶からくるものなのか、はたまたダンジョンの意思なのかは私には見当も付かない」


「では、コ・ルセインさんとは何か関係あるけど、それが何か分からないという事ですか?」


「うむ。その通りだ」


 思わずため息をついてしまう。ある意味一番気になっていたものだ。自分が何者であるか分かるかもしれないと密かに期待していたのである。


「もう一つだけ気になってる事がある。私の師であったエストディア=ディ=ヒエルナの事だ。袂を分けたとは言ったが私が師と仲違いした訳ではない。このダンジョンに来て以降も手紙でのやりとりをしていた。その時に彼から言われたのは《ある人物がダンジョンへ来た時にその人物の協力をして欲しい》と言われたことだ。あまりにも抽象的な発言でその真意を何度か聞いたが結局教えてもらえず仕舞いだった。二十一階に向かう際、万が一の事を考え、私はその当時一番才能を感じていた若者にその言葉を託したのだよ。君達のよく知っている人物だ」


(以前、ギョウブが話していた事だろう。コ・ルセイン自身が発した言葉ではなかったという事か)


「ギョウブはどんな若者だった?」


 今まで黙っていたガイブが始めて口を開く。ナンナも気になっていたようでコ・ルセインの言葉を待っている。


「彼は優秀だった。相手の感情を読むのに長け、一緒に考えることができる。若いのに頭も回る。いずれはコボルトの長に収まるのではと考えていたよ。しかし、ガイブ君のお父さんが現れて以降、相談役のような立ち位置にいるようだね。ふふふっ。しかしながら最近のギョウブ君は狡さが表に出過ぎているようだが」


 小さく笑うと。ガイブの通訳を終えたナンナも一緒に笑う。今のギョウブを知っているぶん過去とのギャップが面白いのであろう。


「ほかに何か聞きたい事はあるかい?」


「先程の話の中でエストディア=ディ=ヒエルナの話が出ましたが俺はカルディナ=ディ=ヒエルナという人物を知っています。コ・ルセインさんはカルディナという名前に心当たりはありますか?」


「カルディナ? いや、ヒエルナの名前が付くという事は王族なのだろうがなにぶん私も世情には疎い。申し訳ない」


 これは隊長に直接聞くしかないだろう。そもそも時代も違う、先祖と言われても不思議ではない話だ。


「次にミドガーという名前は聞いたことありますか? 一応、俺の師になるのですが」


「ミドガー? ふむ。その名前も聞いたことないな」


「そうですか。ありがとうございます」


 ミドガーが何か知っているのは間違いない。しかし、ダンジョンの内情を詳しく知っているという訳ではないのかもしれない。ある程度の事情を知りつつ、何かに介入するために俺をダンジョンに放り投げたというのがしっくりくる。


 「ガイブ他に何かあるか?」 


 尋ねて見るが特に新たな質問はないようだ。


「最後になりますがこの先のダンジョンの話です。俺は二十一階に行ってこのダンジョンを出たい。具体的なアドバイスを頂けますか?」


「良いよ。私も君が二十一階に行くことにより、何が起こるか知りたい。あの時以降、私は二十一階を見てはいない。私の代わりに二十一階を再び見に行って貰いたい。ただ、私はあの書庫の本のように文字を浮かび上がらせるような補助的な手伝いしかできない。具体的に何かする事はできないよ。僅かな補助と情報を君に提供するがそれで構わないかい?」


「充分です! それで最後までたどり着けるか、着けないか大きく結果が変わります」


「では、十七階は――」


 コ・ルセインより具体的な説明がされる。十七階から二十階までの敵の種類。トラップ、階ごとの特徴。一通り話し終えると三人は頭を下げる。


「ありがとうございます。本当にどのようにお礼をしたらいいか」


「達成するのを見届けさせてくれるのが私にとって一番の礼だね。今の私には地位も名誉も財産も入らない」


「そう言っていただけると助かります。あ、ちなみに今のダンジョンの探索にはどれくらいの時間を要するのでしょうか?」


「そうだね。昔と違いダンジョンも広くなったのでニ年位じゃないかな? 君達なら早ければ一年でたどり着けるかもしれない」


「えっ? 一年?」


「あ、うん」


「そんなにかかるのですか?」


「私の情報があるからその程度ですむが何も情報がなければ五年はかかるだろう」


 言葉が終わる前にルセインは腰を落としてしまう。


「……五年」

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